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          * * *



 蹲り呻き声を上げたカカシを見下ろして老人は溜め息を吐く。
「いつまでそうやっとるつもりじゃ?」
 溜息と共に漏らした言葉は大層薄情で、カカシは痛む体を押さえてようやく顔だけ上げた。が、それ以上は無理だった。上げた顔は一瞬老人を捉えたもののそのまま歪んでしまう。やれやれと大儀そうに老人は呟いて、手に持ったキセルでかつんと机を叩いた。
「無茶なことをするの」
 ふうと息を吐いてようやくカカシは立ち上がる。
「サンキュー、親父殿」
 まだ少し痛む頭に顔をしかめてカカシは後頭部に手を当てる。
「契約者の傷みを引き受けるとはの。いったいどういう契約を結んだのじゃ」
 老人は眉を顰める。その口調はどこか非難するような響きを持っていた。
「強制契約ですよ」
 事も無げに言ったカカシに老人はさらに顔をしかめる。
「強制契約じゃと?まさか…」
 確かめるように呟く目の前の老人にカカシは笑いかけた。
「まさかも何も、強制契約ったら強制契約です。親父殿が思ってる通り、召喚師が悪魔を強制的に縛り付けるための、あの強制契約です。何か問題が?」
 逆に問われて老人はますます顔をしかめる。
「何を考えておるのじゃ」
「別にイイじゃないですか。人間界でフルに力を発揮するにはこれが一番手っ取り早いですし」
 カカシは笑うのをやめないまま言葉を続けた。
「オレはあの人の下僕になった。それだけです。あの人の痛みも苦しみも恐れも全てオレのものだ。こんな素敵な契約はないですよ」
 笑うカカシに老人は尚も言い募ろうとするが、当のカカシがそれを遮った。
「そんなことより、イルカ先生が大変です。術を受けて分かったけど相手は予想通り大蛇丸でしたよ。どうにかしないと」
 老人は諦めたように一つ溜息を吐き出してキセルを銜え直す。
「手立てはあるのか?」
 そう聞いた老人にカカシはほんの少し顔を歪めた。
「無い訳じゃないですが、問題は大蛇丸の力がどの程度のものなのかということです」
 そう、大蛇丸が地上で使えるのはどの程度の技なのか。それが何よりも大きな問題だった。
「記憶消去なんて術を平気で使えるみたいですからね。実力を見誤ると後々大変なことになりかねない」
 言ったカカシに老人は僅かに驚いた顔をする。
「記憶消去じゃと?封印ではなかったのか?」
 キセルをふかす老人の顔は強張っているように見えた。
「消去ですね、アレは」
 僅かに顔を歪めている老人に目をやったままカカシは答える。カカシには分かるのだ。イルカと繋がっているカカシにだけは。溜息を吐き出してカカシは続ける。
「イルカ先生に施してあるのは、西方位の第七十四守護結界です。大蛇丸の記憶消去の術は結界によってほとんど跳ね返りましたけど、それでも記憶が封印された」
「何という事じゃ…」
 老人もまた深い溜め息を吐く。
「親父殿は大蛇丸と親交が深いと聞いたことがある。どうなんです?実際の所あいつの実力は人間界においてどの程度発揮されるんでしょうか?」
 キセルをふかしながら椅子に深く身を沈めている老人を見ながらカカシはそう問うた。それに対する老人の答えはあまり明快とは言い難い。
「ふむ、さての。あやつと儂に関わりがあったのはもう千年以上も昔の話じゃ。当時の奴には召喚者も持たずに地上に出て記憶消去の術を使えるほどの力はなかった。儂に分かるのはそれだけじゃの」
 カカシはその言葉に頭を掻きむしった。言葉を発したその人の表情も硬い。しばらくその場を思い沈黙が支配する。
「あるいは…」
 ふと思いついたように老人は口を開いた。
「大蛇丸の事ならばあやつが知っておるかもしれん」
「誰です?」
「児雷也じゃ」
 老人の口から漏れた思いがけない名前にカカシは目を見開く。
「児雷也って、あの女好きのガマ仙人?」
 カカシの言葉に老人は眉を顰める。
「まぁ、お主の言う通りじゃが…」
 お前は口が悪い、と老人は叱るように付け加えたがそんなことに頓着するカカシではない。驚きを隠せないままに言葉を紡いだ。
「あの人大蛇丸と親交あったんですか…」
 カカシの言葉に老人は頷く。
「うむ。儂が知っておる中では唯一最近まで大蛇丸と付き合いがあったのは奴だけじゃの」
 老人の肯定にカカシは髪の毛をくしゃりと混ぜた。どうする、と思う。イルカが今現在この時も大蛇丸の脅威に晒されている。一刻も早く地上に戻らなくてはならなくて。
 でも大蛇丸の力がどの程度のものか分からない以上、迂闊に地上に出ても拙い目に遭うのは分かり切っている。そのためには児雷也を訪ねるより他ないのも分かる。分かるが、如何せん児雷也の屋敷はかなり遠かった。
 彼は魔界の辺境に住んでいる。児雷也の所に行って帰ってそれからイルカの記憶を取り戻すために行動するのではどう考えても遅すぎる。その間に大蛇丸がイルカをどうにかしてしまうに違いない。
 時間がない。そう、時は一刻を争うのだ。
「手駒が少なすぎるな…」
 ひとりごちてカカシは床を見つめる。どう考えてもカカシ一人では間に合わないだろう。それに。
「親父殿、大蛇丸の目的はなんだと思います?」
 カカシはふいに顔を上げて老人を見た。黙ってキセルをふかしていた老人は片方の眉をひょいと上げた。
「二重契約じゃろうな」
 老人は事も無げに言う。やはり、とカカシは思いながら自分の予想が外れていなかったことに落胆する。大蛇丸の目的がそこにあるのならば命を取られることはないだろうが、命を取られるよりも最悪な事態が待っている。
 鍵は、あの部屋に残されたイルカ先生の魂。ともかく猶予は一刻たりとて残されていない。カカシは息を深く吸い込む。
 そして。
「ナルト、サスケ、サクラ!」
 短く名を呼ぶ。カカシの視線の先、部屋の中に僅かに残された空間に突如として三人の子供が現れた。
「カカシ先生、お久し振りですね」
「久し振りだってばよ」
「…何かまた面倒事か?」
 てんでバラバラに喋り出した三人の台詞を遮ってカカシは大きな咳払いを一つした。ウルサイから出来れば呼びたくなかったと思いながら。
「用がなきゃお前らなんか呼ばないけどね」
 溜息混じりにカカシはそう言う。あんまりなその言葉にまたしても呼び出された方からは盛大な文句が上がり始める。うんざりとしたカカシが口を開くその前に後ろに腰掛けた人物から声が掛かった。
「お前ら、ちと静かにしなさい」
「火影様!」
「火影のじっちゃん!」
 今初めてその存在に気が付いたように子供達は驚いたように歓声を上げた。その歓声を遮るように火影は皺の深い手を挙げて落ち着くように身振りで示す。
「余り時間がないでな。カカシ」
 本棚に凭れて成り行きを傍観していたカカシに、火影は改めて視線を向けた。火影から話を振られてカカシはようやく身を起こす。
「そう、今回はあんまり時間がないんだ。その上人手が足りない。だからお前らを呼んだんだよ。分かったら大人しく話を聞くこと」
 ぶつくさと文句を垂れる子供らを一瞥してカカシはまず3人にこう告げた。
「今回の仕事は地上での仕事になる」
「え?!マジかよ、カカシ先生!!」
 カカシの告げた言葉に一番に反応したのは金色の髪の毛が眩しい子供。彼の名をナルトという。
「静かにしろ、ドベ」
 そう言ってナルトを制したのがサスケ。黒い髪に黒い瞳、外見的な特徴からいえばイルカに一番近いのはこの子供だろう。ただその黒い瞳は、イルカと違って酷く硬質な光を放っていた。
「なんだよ、サスケ…!」
 反論しかけたナルトとサスケの仲裁に入ったのが3人の中の紅一点、サクラ、という。
「ちょっと、ナルトやめなさいよ」
 仲裁に入ったというよりはナルトをたしなめに入ったといった方がいい。相変わらずわいのわいのとうるさい3人に大きく溜め息を吐いてカカシはぱんぱんと手を打った。
「ハイ、静かに。今回の仕事、成功したら3年間地上に出してやる」
 カカシのその言葉に3人は今度こそ顔を上げて押し黙った。彼らのような下級の悪魔にとって、地上は夢の世界といっても過言ではない。破格ともいえる報酬に仕事の難易度の高さを感じる。
「ただし、失敗したら百年間地下牢に幽閉するからね」
 カカシの言葉にそろって息を呑む。破格の報酬、しかし失敗すれば酷い仕打ちが待っている。それはこの仕事が難易度が高く、決して失敗してはならないことを示している。改めてこの場に呼び出されたことを不安に思いながら3人はカカシの次の言葉を待った。息を呑んだまま押し黙る子供達を見下ろしてカカシは口を開く。
「サクラ、お前は二人とは別行動をとってもらうことになる。いいか?」
 カカシの思いがけない言葉にサクラは柔らかそうな桃色の髪の毛をさらりと揺らして頷いた。
「大丈夫、任せといてよ。でも、今回の仕事っていったい何なの、カカシ先生?」
 サクラの言葉にカカシは小さく頷いた。
「オレの契約者の救出」
 言ったカカシの言葉に3人は目を丸くした。
「非常に厄介なことになってる」
 カカシはいったん言葉を句切るとそう続けた。
「オレの契約者は大蛇丸っていうタチの悪い悪魔に付け狙われてるんだが、事もあろうに大蛇丸はオレがこっちに帰ってきてる隙に契約者の中のオレの記憶を封印しやがった」
 カカシが大蛇丸という名を口に出したとき僅かにサクラだけが驚きの表情を浮かべていた。さすが、と内心カカシは思う。悪魔としての力量は二人に遥かに及ばないサクラだったが、その知識量は並大抵ではない。大蛇丸の名を知っているだけでも並の子供ではないと、そう思う。胸の内で思ったことをおくびにも出さないままカカシは話を続けた。
「契約者がオレの記憶を失ってるんじゃオレは地上にはどう足掻いたって戻れない。そこで、だ」
 そうしてカカシは期待に胸を膨らませている金髪の子供をちらりと見た。この単純な頭の中にはもう地上に出られることの期待しか詰まっていないように見える。その事がどこか不安ではあったが致し方のない事情である。カカシは溜息と共に次の言葉を吐き出した。
「そこで、ナルトとサスケには地上に出てオレの契約者の警護についてもらう」
 明らかに、あからさまに、とても分かり易くナルトの顔が嬉しそうに輝いた。初めての地上での仕事、それがしかもとてもナルト好みの仕事である。嬉しくないはずがないだろうが、任せるこっちとしてはどうもその表情に不安が拭えなかった。
 見れば冷静沈着クールが売りのサスケでさえどことなく嬉しそうである。その反面、二人と別行動をとると始めから分かっているサクラはどこかつまらなさそうだった。まぁ、憧れの地上だから、分からないこともないが。カカシはともかく仕事の内容を説明すべく頭をよぎった不安を振り払った。
「ま、でも警護といっても実際に大蛇丸と戦うようなことにはならないし、もしそういう場面になっても絶対に戦うなよ」
「え〜!何でだってばよ!!」
 不満を顕わにしたナルトに目をやれば隣にいるサスケまでもが不満そうにしている。こいつら…。気のせいではなく本気で痛んできた頭をかき回してカカシは続けた。
「何でってな、お前らごときが勝てる相手じゃないからでしょうよ」
 そんなことも分かんないの?言外にそう言ったカカシにナルトは頬を膨らませる。
「じゃあ警護って一体なにすんだよ」
 大方、大がかりな敵との戦闘を夢見ているんだろうがそんな生易しい相手じゃない。カカシですら、今のところ勝算があるかどうかすら分からないというのに。聞いた子供を見下ろしたままカカシは言った。
「お前らにしてもらいたいことはただ一つ。契約者の信頼を勝ち取って彼の部屋にけして大蛇丸を招き入れるような状況を作らないこと」
 いいか、とカカシは続けた。
「オレの契約者の名はイルカというんだが、イルカ先生の部屋には彼自身に呼ばれない限り誰も入れないような結界が張ってある。あの部屋に置いてあるイルカ先生の魂だけが今のところ唯一の切り札なんだ。だから、ともかく決してあの部屋に大蛇丸を入れさせるな」
 以上。ナルトとサスケに向かってカカシはそう締めくくった。告げられた二人は難しい顔で黙り込んでしまった。どうしろというのだ、と思っているのだろう。
 イルカが大蛇丸とかいう悪魔にただ一言どうぞ、といいさえすれば結界は用をなさなくなるというのに。どうやってそれを阻止しろというのだろう、とナルトとサスケは思っていた。思っていた以上の仕事の厄介さにナルトもサスケも正直途方に暮れている。そんな二人に頓着している暇は、カカシには存在してはいなかった。
「次にサクラ。お前にやってもらいたい仕事は二つだ」
 放っておかれた自分にようやく出番が回ってきたことにサクラはいささか顔を紅潮させる。
「何?とても難しいの?」
 自分以外の二人に告げられた仕事はなかなかに厄介そうで、サクラは自分の仕事内容がいかほどのものか計りかねてそう訊ねた。
「なに、サクラにならなんでもない仕事だよ」
 そう言ってカカシはゆったりと笑った。
「一つ目の仕事なんだが、まず二人と一緒に地上に出てある魔法陣を書いてきて欲しい」
「魔法陣?大がかりなものなの?」
 聞いたサクラにカカシは僅かに頷く。
「あぁ、大がかりな上にかなり複雑な魔法陣になる。多分サクラじゃないと書けないだろうな」
 カカシの最上級の賛辞にサクラは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「何の魔法陣?」
 聞いたサクラにカカシは僅かに顔を引き締めて言う。
「記憶操作の魔法陣だ」
「記憶操作?だったら南方位第九五六〜一二二四までの特殊魔法陣ね」
 サクラの言葉にカカシは舌を巻いた。けして天才肌の子ではない。何もかも血の滲むような努力の末に手に入れた知識。天賦の才は無いだろうけれどこの子の将来はきっと明るいに違いない、とカカシは思う。ナルトやサスケとはまた違う方向ではあるだろうけれど。
「南方位第一○五二特殊方陣になる。ただ、少し手を加えなくちゃならない。これを」
 そう言ってカカシはサクラの広い額にそっと手を当てた。
「読みとれるか?」
「任せといて。第三円の九五文字から六三三文字までが逆ね。それから第八円…」
 すらすらと読み解いていくサクラの言葉をナルトもサスケもやや呆然と見守っているだけである。サクラの呟きの内容すらよく分からない。
「…、と。これで最後ね」
 カカシから引き渡された魔法陣の情報を全て読み解くと、サクラは満足げに笑った。
「失敗はしないから、カカシ先生安心してね」
 自信たっぷりに笑う子供にカカシは微笑みを返して、何も言わずにその頭をくしゃりと撫でた。
「じゃあ、次の仕事だけどな」
 続いたカカシの言葉にサクラは弛めた気をすっと張った。だんだんと、いい目になった来たな。カカシは思う。ナルトもサスケもサクラもお互いがお互いを上手く高め合っている。この仕事を無事に終え人間界に出て人の欲望を多く取り込むことが出来れば、悪魔としてのランクも上がることだろう。
「魔法陣を描いたらその足で魔界の辺境に住む児雷也という悪魔を訊ねて欲しい」
 児雷也、とサクラが口の中で呟いたのが分かった。やはりこの名も、知っていたか。別段サクラなら知っていても不思議なことではない。情報量と知識量は計り知れないな、とカカシは少女をゆったりと眺めた。
「つい最近まで大蛇丸と親交があったらしい。大蛇丸の現在の実力のほどを出来るだけ正確に知りたいんだ。頼めるな?」
 問うたカカシにサクラはわずかに頷いた。先ほどよりもよほど大きな緊張感が少女の小さな身体に満ちていた。名に聞こえた大悪魔。サクラなどでは太刀打ちどころか会った途端に消されてもおかしくはないほどの。
「児雷也はあんまり無茶な悪魔じゃないけど無類の女好きだからね。オレよかサクラの方が適任なんだよ」
 頼むな。緊張を解すように言ったカカシにサクラは顔を上げた。
「任せといてよ。失敗はしないから」
 ね、と少女は後ろに佇む二人の仲間を振り返った。
「あぁ」
「ぜってー大丈夫だって。任せとけってばよ、カカシ先生!」
 本当は彼らのことを信用していない訳ではない。心配だけれど信用はしている。けれど、本当だったら全て自分で何とかしたいのだ、本当は。あの人の、本当に大事なあの人の事だから尚のこと。
「頼んだぞ」
 その言葉に込めた本当の意味に子供達が気が付いているとは思えない。思わない。けれど、任せろと頷く子供達にカカシは薄く笑って答えるしかないのだ。
 本当に、頼む。あの人を、救わなくてはならないから。この手に、もう一度かき抱きたいから。手を離さないと、決めたのだから。大切な、この永遠に続く命よりも大切な。
 唯一無二の存在。
「でもさー、カカシ先生はなにするんだってばよ」
 オレ達が仕事してる間。頭の後ろで腕を組んで何気なくナルトが聞いた。その言葉にカカシはにやりと笑う。
「思い出して貰うのさ。何としてもイルカ先生に。そのための布石はもう打ってある」
 自信ありげに笑みを湛えたカカシにナルトは途端に目を輝かせる。
「なになに?」
「取りあえずまだ秘密」
 飛びついたナルトを軽くあしらって、カカシは表情を引き締めた。
「ともかく三人とも、絶対に失敗してくれるなよ」
 頷く子供達。
「ではお前達に契約を持ってカカシが命ずる。各自の任を遂げよ」
 ぱりっと空気が震えた。部屋に満ちていた光と熱が、三人に向けて上げられたカカシの手の平に収束していく。闇に沈み、温度の下がった部屋。緊張した面持ちの子供達に向けてカカシは光を放つ。光は人影を飲み込みぱりんと何かの砕けるような音がして、そうして部屋は元通りに戻った。部屋の中にいるのは、カカシと火影のみ。
「布石とは?」
 子供達の消えた空間を見つめているカカシに、背後の老人はしわがれた声をかけた。
「ここにあの人の魂の欠片がある。そこから夢を引きます」
 振り向きもしないまま、カカシはそう答える。
「…お主が先か、奴が先か」
 吸い込んだ煙をゆったりと吐き出して老人は独り言のように呟いた。そう、自分が先か大蛇丸が先か。時間がない、とカカシは息を吐き出した。自分が先か奴が先かではないのだ。自分が先にあの人の元に辿り着かねばならない。何があっても、どんなことをしても。
「隣室を借ります」
 カカシの言葉に老人はただ頷いた。扉を開け足早に空き部屋へ向かう。そう、自分が先に辿り着かなくてはならないのだから。あの人の、元へ。



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