家具も食器もインテリアも和風が基本。その中にほんの少し洋風なテイストも加えつつすっきりとまとまったシンプルな部屋。全部カカシがしたことだ。全部カカシが選んで、イルカがいない間に少しずつ部屋はそんな風に心地よくなっていく。
ある日家に帰ってきてイルカは不意に驚いた。そう、自分はずっとこんな部屋に住めたらと思っていたのだ。
昔、両親を亡くしたあと、イルカは新聞の折り込みに入っているマンションや一戸建てや家具の広告を見るのが好きだった。こんなマンションに住んでこういう家具を置きたいとか、一戸建てなら庭はこんな風にとかよく考えていた。それは大人になっても変わることなくついついそういう広告が入っていると見るともなしに見てしまっていた。
イルカが思い描いていた風景が今目の前にある。その事にイルカはひどく動揺していた。
気が付いてはいなかったのだ。この部屋に越してきてもう何週間にもなるけれど全然気が付いていなかった。この部屋はカカシの趣味で一杯だと思っていたのだ。カカシの好みなんだと思っていたのに。
これは、この部屋は。ふと泣きそうになる。そう、この部屋はイルカの部屋なのだ。イルカが全てを選んだならこんな住み心地の良い部屋にはならなかっただろうこの部屋は、そう全てイルカのために。
イルカのためだけにあつらえられた、部屋だった。
「お帰り、イルカ先生」
いつものようにひょいと顔を覗かせた悪魔。イルカの知る誰よりも優しい、悪魔。どうしようもない衝動が胸を襲ってほたりと涙がこぼれ落ちた。
「お帰りなさい」
泣いていることを気にするでもなくカカシはその腕の中にイルカを抱き込んだ。お帰りと言ってくれる人がいること。その幸せ。
「……どうして」
「ん?」
「どうしてそんなに優しいんですか?」
カカシの胸に抱き込まれたままイルカは聞いた。契約とか色々あるけれど、それにしてもカカシは優しすぎる。
「どうしてってそりゃ、イルカ先生のこと好きだから」
何でもないようにカカシはそんな風に、当たり前のように言った。その言葉にまた驚く。
「…え?あんたオレのこと、好きだったんですか?!」
あんまり驚いてイルカは泣いていることも忘れてカカシを見た。笑うカカシ。柔らかな、イルカをひどく安心させる笑み。
「アンタこそ今更何驚いてるんですか。大体好きでもない人とセックスしませんよ。イルカ先生だってオレのこと好きだからオレと寝るんでしょ?」
けろりと言い放たれた言葉にイルカの頬がじわじわと熱くなる。
「いや、それはまぁ、そうかも知れませんけど。なんていうかあんたとのことは成り行きみたいな所もあったし、それにあんたがオレを好きだなんて思ってもみなくて。その」
支離滅裂だった。カカシが自分を好きで、カカシ曰く自分もカカシが好きらしい。どういうことだ。支離滅裂なのは自らの脳みそだったがこの際そんなことはイルカには関係なかった。ただ頬が熱いと思う。
「で、でもいつ?いつからオレのこと好きなんですか?」
困惑いっぱいである。なんだこの両思いくさい展開は。あんまり的を射てるとも思えないイルカの質問にカカシは笑いながら答える。
「いつからって、そうだなぁ。あ〜、オレこの人のこと好きだ〜、って自覚したのは宝くじ買ったあの日かな」
抱き込んだイルカの肩にごろごろと懐いたままカカシは笑う。イルカの混乱はまだ収まらない。
「何で?なにが?どうして?」
さっぱり意味が分からない。というよりは、果たしてカカシに何が聞きたいのかさっぱり分からない。聞いてるイルカ自身にさえ。聞かれたカカシは、むぅと眉間に皺を寄せて考え込んでいるようだった。
「そうですねぇ。なんかね、雨降ってて傘差して歩いてるときにね。横を歩いてるイルカ先生の顔を覗いたときに、あ、って思ったんですよ。あ、オレこの人のこと好きだ、って。だから契約急いだんだなぁ、って。自分でも不思議だったんですよね、何であんなに急いで魂の契約なんてしちゃったんだろうなぁって」
耳元で低く落とされるカカシの告白にイルカはもうどうしていいやら見当も付かなかった。この人、オレのこと好きなのか。
「まぁ、だからホントは多分一目惚れだったのかな、と」
ふふふ、とカカシは笑う。
「オレ、カカシさんのこと、好きなんですか?」
頬に当たるカカシの柔らかい髪がくすぐったい。何となく、そう何となくどうしていいか分からずにイルカはそんなバカみたいなことをカカシに訊ねていた。
「知らなかったんですか、イルカ先生」
さも驚いたようにそう言ったカカシにイルカはことりと体重を預けた。なんだかとても疲れたから。とても疲れているのに、どことなく幸せだったから。ほう、と息を吐き出したイルカの耳元に、こそりとカカシが耳打ちしてきた。
「ねぇ、イルカ先生。エッチしようか?」
え?不意のカカシの言葉にイルカは肩に寄せていた頬をあげた。それと同時くらいのタイミングでするりと腰に手が回され、そうしてぐいと身体が持ち上げられる。え、と思うまもなくイルカはあっという間に寝室へと連れ込まれていた。
「ちょ、ちょっと!」
暴れてみてもイルカの身体はすでにベッドの上へと縫い止められている。
「まぁまぁ、なんか今オレすごーくエッチしたい気分なんです。イルカ先生の中にオレの突っ込んでぐちゃぐちゃかき回して、それからイルカ先生が泣いて嫌がるほど中にザーメン注ぎたい気分なの」
だからね、オレとエッチしよ。卑猥なカカシの言葉にイルカの頬が一気に赤くなった。なに言ってんだ、この男。なに言って…。
「イルカ先生エッチなこと好きでしょ?オレに突っ込まれるといっつも最後は死んじゃうって言いながら何回も何回もいっちゃうもんね」
カカシはイルカの反論など許さないとでもいうように、言いたいことだけ言ったあとさっさとキスを落としてきた。反論のために開かれた唇の隙間からイルカの咥内にカカシの熱い舌がぬるりと潜り込んでくる。絡め取られる舌と流し込まれる唾液にイルカの抵抗はだんだんと弱くなってしまう。
そんなことはないと反論したいのに。引き剥がすためにカカシの背中を掴んでいた手は、今やどう考えても縋っているようにしか見えなかった。
カカシはキスが上手い。そのせいでイルカはいつも抵抗半ばで流されてしまう。口付けに夢中になっていたせいで、いつの間にかワイシャツのボタンが全部外されていることに気付くのが遅れた。
はだけられたワイシャツの下にはアンダーシャツがある。それをぐいと捲りあげられたところでイルカはようやく我に返った。キスに流されている場合じゃないというのに。
「んー!」
くちゅくちゅと粘ついた音を立てながらカカシはまだ口付けを解いてはくれなかった。背中を引っ張っても髪を掴んでもどこ吹く風である。晒された素肌をカカシの硬い指が辿り、そうしてイルカの乳首を摘み上げる。
「んんっ!!」
カカシに散々開発された性感帯を弄られてイルカの身体はびくりと跳ねた。硬く滑らかなカカシの指が半ば硬くなりかけていたイルカの乳首をこねくり回す。
「んっ、ふ…んんっ…!」
塞がれた口からは喘ぎ声は漏れなかったけれど、鼻からは甘えたような吐息が漏れた。両方の乳首を弄られてイルカの下半身にじりじりと熱が集まってくる。
「ここ好きでしょ?もっと弄ってあげる」
ようやく口付けを解かれたと思ったら碌でもないことを言われた。
「なっ…!ちがっ…!!…っや!」
否定しようと思ったのにイルカの口から最終的に漏れたのは甘ったるい喘ぎ声だった。カカシがイルカの乳首に吸い付いたからだ。ぬるりとした舌の感触に下半身がどんどん張りつめていく。
「あっ…!や、やっ…!んんっ!」
己の口からこぼれ落ちる嬌声にイルカは唇を噛みしめた。無駄な抵抗だとは知っているけれどまだ理性がこんなにも残っているのに奔放に喘ぐ事なんて出来るはずがなかった。こね回される乳首から快楽が沸き上がってイルカはにじにじとつま先でシーツに皺を作った。気持ちよくてもどかしくてズボンの中が窮屈になってきてイルカは逃すように息を浅く吐いた。
「…っは…ん」
「ね、イルカ先生のここ凄いことになってるね」
乳首に齧り付いたままカカシはイルカの張りつめた下半身にそっと手を這わせた。布越しに触れられて腰がびくんと跳ねる。
「直接触って欲しい?それとも舐めて欲しい?」
胸の上でそんなことを聞かれてイルカは首を振った。このもどかしい熱をどうにかして貰いたいとは思ったけれど、そんなこと口に出せるはずがない。
「どっちもいやなの?」
意地悪くそう聞いてカカシはまたイルカの乳首に齧り付いた。少しきつく噛まれてイルカの背筋に震えが走る。気持ちが良かった。
「んあぁっ!」
喘いだイルカに気をよくしたのかカカシはようやく胸から顔を上げてもう一度問いかけた。
「どっち?お返事しないなら勝手にするよ?」
布越しに柔らかく陰茎を撫でられてイルカは身を捩った。返事など出来るわけがない。もじもじと腰を揺らすイルカの顔を覗き込んでカカシはくつりと笑った。
「勝手にしていいの?ね、このままだと先生のズボンに恥ずかしい染みが出来ちゃうね」
ぽろりとこぼれ落ちた涙をカカシに舐め取られイルカはぐずぐずと鼻を鳴らした。
「…ばかっ。勝手にすればいいだろ…!」
意地悪を言うカカシの事なんて嫌いだ。イルカがして欲しい事なんて全部お見通しのくせに。いつもだったら知られたくないことまで勝手に覗かれているというのにどうしてこんな時ばかり意地悪を言うのか。
「はぁい。じゃ、お望み通りに、ね」
イルカに優しくキスを落としてカカシはようやくイルカのベルトを引き抜いた。かちゃかちゃという音が妙にいやらしく聞こえてイルカは羞恥に頬を染める。今までも散々してきたことだというのになんだかやけに恥ずかしかった。もじもじと膝頭を合わせていたら、カカシは下着ごとズボンを引き抜こうとした。
「足開いて。ズボン抜けないでしょ、それじゃ」
赤裸々なカカシの言葉にイルカの頬はますます赤くなる。なんだろう、もう。いつもよりもうんと恥ずかしい気持ちがしてイルカはふいと顔を背け膝の力を抜いた。するりとズボンが取り払われる。空気に触れた亀頭がひやりとしていてイルカはそのことにもひどい羞恥を覚えた。こんなこといつもしているのにどうしてか恥ずかしくて堪らない。
「イルカ先生、なんか今日凄く可愛いよ。いつも可愛いけど、なんか今日は特別可愛い。どしたの?初めての時でもそんな恥ずかしがらなかったじゃない」
イルカの内腿を甘噛みしながらカカシが問う。そんなことイルカが聞きたいくらいだ。
「…う、煩い!も、早く…!!」
無理矢理に広げられた股の間で陰茎がすっかり勃ち上がっているのが恥ずかしい。それをカカシに見られているのがとても。内腿を舐めていたカカシの舌が徐々に下がってくる。足の付け根にカカシの吐息を感じてイルカの胸は快楽の予感に高鳴った。焦らされることなくイルカの陰茎はカカシの咥内へと呑み込まれる。
「あぁっ!」
根本を扱きながらカカシのイルカの先端を舌でぐりぐりとこじ開けるように突いた。いつもより快楽が深い気がしてイルカの眦からは堪えきれない涙がぼろぼろと溢れる。
「…あ、やっ…!も、カカシさんっ…!!」
こんなんじゃないのに。いつもこんなじゃないはずなのに。カカシの咥内の熱さに脳が沸騰しそうだと思った。放出の予感にイルカの足が小刻みに震える。
「あっ、あぁっ、や、カカシさん…!出ちゃうっ…!!」
離して、と呟いたのにカカシは熱心にイルカの陰茎をしゃぶっている。目をきつく瞑って放出を堪えていたのに、不意にイルカの後口にカカシの指先が潜り込んだ。
「や、あぁっ!」
イルカの先走りとカカシの唾液で濡れそぼったイルカの後口はカカシの指を難なく呑み込んでいく。そうでなくても慣れた身体なのだ。ここでもっと太くて熱くて長いものを受け入れることをイルカの身体は知っている。
柔らかく溶けている身体には指一本じゃ物足りなくてイルカの腰はにじにじと揺れた。前を嬲られながら後を弄られて、もう耐えられないと思う。耐えられない。二本に増やされた指がイルカのいいところに触れて、びくびくと身体が震えた。もう、駄目だ。
「やだっ…!出る…!」
達きたくて達きたくて頭がおかしくなりそうだった。でもカカシの口に出すのは嫌だった。いつも嫌だと言っているのにカカシが言うことを聞いてくれたことなんて一度もない。無駄だと分かっていたけれどイルカはカカシの髪に手を伸ばす。汚い、恥ずかしい、カカシの口を汚すことに耐えられないほどの羞恥を覚える。だから嫌だといつも言っているのに。
「あぁっ!!」
堪えきれず吐き出せば、残っている精液を全部吸い出された。放出の余韻で上手く動かない身体が吸われるたびにびくびくと震える。浅い息を吐きながらうっすらと目を開ければ、カカシはにこりと笑ってイルカの精液を飲み下した。ごくりと動く喉仏にイルカは真っ赤になった。やだって、言ったのに。言ってるのに。
「…か、カカシさん!」
じんわりと重たい身体でカカシの方へと手を伸ばせば、まだ体内にいた指がぐりっと動いた。
「…っあ!」
浮いた手を掴まれたまま体内をかき回される。解放の余韻を引きずる身体には過ぎた快楽に、イルカはぼろぼろと泣くことしかできない。気持ちよすぎて頭が変になりそうだ。三本に増やされた指で散々中を弄られ、そうしてカカシが耳元で囁いた。
「挿れるよ」
「はやくっ…!」
もう待てないのはイルカの方だ。ずるりと指が引き抜かれ代わりに待ち望んでいたものが潜り込んでくる。指なんかよりずっと太くて熱くて気持ちいいもの。
「あ、っああ…!」
前後に揺れながらイルカの体内に入り込んでくる他人の熱。ぴっちりと根本まで埋め込まれてイルカはうっとりと溜息を吐き出した。満たされている感じ。腕を伸ばし首にしがみつけばキスを落とされた。
「気持ちいいんだね、イルカせんせ。出したのに、また勃ってる」
耳元で囁かれてもイルカにはその意味をよく理解できなかった。頭が鈍っている様な気がする。気持ちが良くてどこもかしこも熱かった。
「…きもち、いい」
よかった。カカシがそういった気がしたけれどそれが本当かどうかイルカには最早分からない。律動を始めたカカシに後は翻弄されるままに嬌声を上げ、自分がいつ達ったのかも分からないくらいだった。ただ最奥に熱い液体を勢いよく注ぎ込まれ、ひどく感じたのは覚えている。そうして。
「ねぇ、はじめて後だけで達ったね」
濡れた声でそんな恥ずかしい言葉を耳元で囁かれたことも。
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