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          * * *



 きつく抱きしめられていた腕の力が緩やかに抜け、そうしてイルカの耳元でカカシは息を吐き出した。
「いつまでもこうしてても仕方ないですから、今日の所は引き上げましょうか」
 緩い拘束はけれど解かれることはなく、カカシはそう呟いた。その言葉にイルカは僅かに首を傾げる。
「え?これから道を辿るんじゃないんですか?」
 驚いた顔をしているイルカにカカシは柔らかく笑いかける。
「これから始めてもいいんですけどね。ただ本体が眠っているときよりも起きているときの方が辿りやすいんです」
 だからね。とカカシは笑った。
「だから今日はいったん引き上げて明日から始めましょう」
 カカシの言葉にイルカはそういうものなのかと思う。
「分かりました」
 曖昧に頷いてはみたものの、術とかそういったことに関して言えば全くの素人だからカカシの言うことを鵜呑みにするしかない。どことなく不満そうなイルカの表情に顔には出さないままカカシは笑う。
 イルカのイルカたる所以というか。納得の出来ないことには妥協できない真っ直ぐな性格。カカシのことを信じているから首を縦に振ったけれど、本当は聞きたいのだろう。ぽふりとイルカの頭に手を乗せてカカシは今度は声に出してくすりと笑った。
「さ、こんな寒い所にいつまでもいたら風邪引いちゃいますよ」
 するりと抱擁を解いてカカシは立ち上がる。イルカが立ち上がるのを待たないでカカシはその手を引っ張った。
「ちょっ、ちょっとカカシさん!」
 慌てるイルカを無理矢理立たせてその手を深く絡め取る。
「さ、行きましょう」
「どこへ?」
 自分を急かすカカシにイルカは当然の疑問を口に上らせた。
「ひとまずあなたを紹介しなくちゃならない人物がいるので」
 カカシはにいと口の端を吊り上げる。
「誰です?」
 けれどそう聞いたイルカの問いは答えられることなく扉の開く重たい音にかき消された。
「ちょっとカカシさん!」
 重たい扉を抜けぐいぐいと引っ張られるままに隣室の扉の前へと連れて行かれる。イルカはカカシが立ち止まった隙に絡められた指を振り解こうとした。
「何ですか?」
 けれどその行動はがっちりと繋がれたカカシの指にあっけなく阻止されてしまう。
「何ですかって…」
 手を解くことは諦めたのかイルカは溜め息を吐いてカカシを見た。この一見悪気のないような笑顔がいけない。にこやかに穏やかに見えるけれど何を企んでいるのか分からない笑顔だ、とイルカは思う。
「まぁ、入れば分かるから、ね」
 カカシの笑顔にイルカは諦めて身体の力を抜いた。ここであらん限りの抵抗をしようが、カカシが自分を誰に引き合わすのか教えるはずがない。教えないどころか挙げ句担がれてその人物の目の前に連れて行かれることだってあり得なくないのだから無駄な抵抗はしない方がいいだろう。
 カカシに対して随分と諦めがよくなっていることを自覚しながらイルカはもう一度深い溜め息を吐いた。溜息を吐くイルカをカカシは面白そうに眺め、そうして目の前の扉をこつこつと叩く。
「何じゃ、入れ」
 扉の向こうからはしわがれた老人の声が聞こえてきた。誰だろう、イルカが思うまもなくカカシによって扉は開かれ、そうしてイルカの疑問も程なく解決する。
「どうも親父殿。お騒がせして申し訳ないですけどちょっとお時間頂きますよ」
 ――――親父殿?
 親父?え?
 開いた扉の向こう。壁一面を埋め尽くす本の間に埋もれるように小柄な老人が座っているのが見える。親父って、え?呆気にとられたイルカの顔を可笑しそうに眺めながら、カカシはシツレーシマースとふざけた口調で言った。
「いったい何事じゃ」
 数え切れないほどの本の山に囲まれたその人はイルカを一瞥すると煙管の煙を吐き出した。
「えっと、まぁね、一応親父殿には紹介しといた方がいいかと思って」
 とぼけた様子のままカカシはイルカを振り返る。ちょっと待て。眠たげな目をさらに細めてカカシはにんまりと笑った。なんだその笑いは。ちょっと待ってくれ。ひしひしと湧き上がるイヤな予感にイルカはカカシを止めようと口を開きかけた。
 この状況。自分はカカシの、多分、恋人で。そうして目の前にはカカシの父親がいる。多分父親だと思うけれど、まぁ、それらしき人がいる。それでこの状況って。
「オレの嫁さんです。海野イルカ先生。可愛いでしょ?」
「わー!!」
 予想は寸分外れなかった。けれど、予想が外れようが外れまいが言われてしまったのでは意味がない。意味不明の叫び声をあげたイルカにまるで頓着しないまま、カカシはイルカの肩を掴んで自分の目の前に引き出した。正確には父親の目の前、である。
 背後のカカシにがっちりと肩を掴まれ、逃げることも叶わないまま老人の前に引き出されたイルカにはこの状況を打破する見込みがまるでなかった。
 ど、どうしよう。
「あ、あの…」
 ちらりと視線をあげた老人にイルカはとっさに口を開いてしまった。何を言う気だよオレ!慌てる心中とは裏腹に、口をついてでたのは実に間抜けな言葉だった。
「あの、初めまして。海野イルカです」
 わー!なにいってんだオレー!!わたわたと青くなったり赤くなったりするイルカに思わずカカシの口からくつくつと笑い声が漏れた。
「なに笑ってんですかカカシさん!」
 振り向いて噛み付けば今度は背後からもしわがれた笑い声が聞こえた。見れば老人も堪えきれない笑いを漏らしている。その光景にイルカは今度こそ真っ赤に頬を染めた。
「あ、あの…」
 ひとまず発したその言葉もけれどそれ以上どう続けていいか分からずに、イルカは何となく俯いてしまう。
「いやスマンな、イルカ殿。笑うつもりなどなかったのじゃがの」
 部屋に響いた乾いた声にイルカは顔を上げる。老人はひどく穏やかな笑みを湛えていた。
「儂の名は火影。残念なことにこやつの父親じゃ。不肖の息子が世話になっとるの」
 そう言った火影の声はとても穏やかでイルカはほんの少し肩の力を抜いた。
「何ですか、その不肖の息子ってのは」
 穏やかに笑みを湛える老人に向かって、背後の悪魔は不満そうに呟いた。
「オレほど優秀な息子もそうそういないでしょうよ」
 そうして不遜にもそんなことを言い始める。
「カカシさん」
 それが目上の人に向かっての態度かと、イルカはカカシを窘めるように言った。
「え~、だってイルカ先生…」
 ぶちぶちと文句を垂れようとしたカカシを制したのはイルカではなく彼の父親だった。
「確かにお前は腕は立つがな、性格に問題がありすぎる。悪魔がみんなお前みたいだと思われたらどうするんじゃ」
 言いながら火影は大げさに眉を顰めた。その言葉にイルカはそうなのか、と思う。てっきり悪魔という種族は、全部カカシのようにわけの分からない性格をしているのかと思ったがどうもそうではないらしい。
 特殊な性格だと思っていたけれど、それは何も人間から見たときだけ特殊だという訳ではなかったようである。それは安心。イルカは心密かに安堵の溜息を漏らした。けれど。
「イルカ先生までなんですか。酷いなぁ」
 ひどく近い場所でカカシの声が聞こえてイルカはびくりと身を竦ませる。不意の出来事に驚いたイルカをカカシは易々と抱き寄せて、その肩にアゴを乗せた。
「なっ!アンタまた人の心読みましたね!やめろって言ってるでしょうが!」
 ゆるりと後ろから覗き込むカカシにイルカは怒りに顔を紅潮させてそう怒鳴る。
「だってぇ…」
「だってじゃありません!」
 ぷりぷりと怒るイルカにカカシはごめんなさい、と口先だけで言う。怒った顔も可愛いんだよな、とか。恋人の父親の前で抱きしめられていることについては怒らないんだな、とか。こんな可愛い顔いくら親父だからってこれ以上見せるのは勿体ないよな、とか。そうしてカカシはぶちぶちと文句を言うイルカに平謝りしながらそんな風に思っていた。
 ひとまずここでこうしていても埒があかない。カカシはまだ文句の言い足りなさそうなイルカの頬に派手な音を立ててキスをすると唖然とする火影に向かってにぃと笑った。
「ま、そゆことで親父殿。本格的な嫁入りはまだしばらく先ですけどこれがオレの奥さんなんでよろしくお願いしますね」
 呆然と立ち竦むイルカには、カカシの呑気な言葉などまるで聞こえてはいないようだった。火影は火影で疲れたように溜息を吐き出し、そうして煙管を一口吸い込んだ。
「おぬしの言いたいことはよく分かった。イルカ殿」
 煙を吐き出しながら火影は固まったまま微動だにしないイルカを苦笑混じりの笑みを浮かべて見た。
「イルカ殿、何か困ったことがあったらいつでも言いなされ。儂はそなたの父でもあるのじゃからな。こ奴のことで色々と苦労をかけると思うがよろしく頼みますぞ」
 乾いた老人独特の声にイルカはようやく我に返る。優しい温かい声だった。父と思えと言ってくれた。その事に言いようのない感動にも似た衝動を覚えて、イルカは自分を抱き込むカカシの腕に緩く縋った。
「あ、あの。こちらこそよろしくお願いします」
 言えたのはそれだけ。僅かに火照り始めた頬を隠すようにイルカは俯いてそんな風に老人に言った。二人の遣り取りが終わったのを確認してカカシは、じゃ、といって部屋を後にする。カカシに促されるまま部屋を後にしたイルカは、閉じられたドアをもう一度振り返った。
 父親。自分をこの世に送り出してくれた人ではないけれど。血の繋がりはないけれど。ほんの少し浮き足立つ気持ちを隠しきれないまま、イルカは隣を歩くカカシをそっと見上げた。
 イルカの視線に気付いたのか、カカシもこちらを向いてくれた。視線が絡みそうして自然に笑みがこぼれる。カカシも笑っていた。そうしてカカシは少しだけ足を速めるとイルカの手を引いて少しだけ前を歩き始める。立ち並ぶ扉のを眺めながら歩いていたら不意にカカシが立ち止まった。
「イルカ先生ここ」
 そう言いながら目の前の重たそうな扉に手を掛ける。先ほどの火影の部屋からそう離れてはいないその扉をカカシはなんの迷いもなく開けた。
「オレの部屋です」
 そう言って扉を開けたままイルカを促すように中に入っていく。オレの部屋、とカカシは言った。その言葉にイルカはほんの少しどきどきする。
 よく考えてみれば自分はカカシの過去などひとつも知らないのだ。カカシは自分のことで知らないことなど何一つ無いだろうに、不公平にもほどがある。だから、イルカはほんのちょっぴり嬉しいようなどきどきするような気持ちでその部屋に踏み込んだのだ。
 カカシの過去や自分の知らない私生活の詰まった部屋。いったいどんな所でカカシは暮らしていたのだろう。イルカの部屋をあんな風に心地よい空間に作り上げたカカシの部屋。期待に満ちた高揚感は、けれどあっさりと裏切られた。
「……こ、ここがカカシさんの部屋ですか…?」
 目の前に現れた光景にイルカはいささか動揺する。まさか、こんな部屋に住んでいるのか。
「えぇ、まぁ」
 答えたカカシを振り返りもしないでイルカは眼前の部屋を食い入るように見つめた。
「普通でしょ?」
 驚いた様子のイルカを特に気に留めることもなくカカシはそう言った。
「普通…?」
 ほんの小さなイルカの呟きは特にカカシにも気に留めて貰えなかった。悪魔の普通ってよく分かんない。イルカの想像を遙かに裏切るその部屋は、ふかふかの絨毯の上に巨大な天蓋付きのベッドだけが置いてある実にシンプルなものだった。
 よく見れば部屋の端に書き物が辛うじて出来るくらいのサイドテーブルのようなものが置いてあるが、そんなものは中心部を埋め尽くしているベッドの存在感に比べればひどく些細なものだった。部屋自体はとても広いのにベッドしか置かれていないその空間はイルカにとっては異様な光景にも見えた。
 なんだこの部屋?極端にもほどがある。自分のマンションをあれほど居心地のいい空間に仕立て上げたカカシのことだから、さぞや趣味の良い居心地の良い部屋に住んでいるのかと思ったのに。ほんのちょっぴりがっかりしたイルカにカカシは苦笑した。
「オレの趣味って訳でもないんですけど、この屋敷がちょっと特殊な作りでね」
 取りあえず中にイルカを促しながら、カカシは唯一部屋にある家具のベッドに腰掛けるように手振りで示す。ふかふかの絨毯を踏んで辿り着いたベッドはやはりこれは予想通りふかふかだった。腰を下ろしたイルカの横にカカシも並んで座りながら言葉の続きを紡ぐ。
「この屋敷は意志を持ってるんです」
「は?」
 問い返すイルカにカカシはひとまず笑った。
「魔界でも割と珍しいんですが、屋敷自体が一つの生命体のようなものなんです」
「はぁ」
 いったい何を言い出すのやら。相も変わらず突拍子もない話だと思いながらイルカは曖昧に頷いた。
「部屋の内装やなんかも自分でしなくても屋敷が勝手にあつらえてくれるんですよ」
 へぇ、とイルカは表情のない顔でカカシを見る。
「で、家なんか寝に帰るだけだからそういう部屋を一つ用意してくれって言ったらこんな部屋が用意されてたんです」
「はぁ…」
 屋敷に物を頼むというか、無機物が意志を持っている自体イルカの許容範囲をあっさりと超えている。常識とか非常識とかそういう問題は遥か昔に忘却されたのだろう。
頼む方が頼む方なら頼まれた方も相当のものだ、とイルカは思った。
「まぁそれほど不自由もしなかったし、必要なときには勝手にいろんな家具が出てくるからそのまま使ってるんですけど、おかしいですかね?」
 おかしいでしょう、とイルカは心密かに思う。おかしくないわけがない。けれど、もうこの際おかしいとかおかしくないとかそういう問題でもないような気がするのも確かだった。
 実際部屋がおかしいのか屋敷自体がおかしいのか、屋敷がおかしいから部屋までおかしいのかよく分からない。そのことを思えば部屋の内装云々なんていうのは遥かに些細な出来事だろうと思う。たかだか部屋にベッドしかないくらいのこと大したことじゃない気さえしてくる。イルカはひどく曖昧な表情で、いや別に、とだけ言った。
「あのね、イルカ先生。風呂とトイレと書庫は別にあるんですよ。ほら」
 カカシは入り口から見て左側の壁にある扉を指さした。扉の数は二枚。一つが風呂とトイレにもう一つが書庫とやらに繋がっているのだろう。イルカは疲れたように溜め息を吐いて、そうですか、と答えた。
 なんだか本当に疲れた。イルカは特に普段と変わりなくこちらを見るカカシに一瞥をくれて、そのままふかふかのベッドに倒れ込んだ。横になって柔らかな布団に身を沈めると途端に眠気が迫り上がってくる。じんわりと温かくなってきた指先を感じてイルカはゆるゆると息を吐き出した。
「もう、寝ます」
 本当は風呂に入りたかったけれどそれも面倒だった。さっさと寝て、明日からのことに備えた方がいいだろう。ごろりと横になったイルカを上から覗き込んでカカシは、え、と驚いたような声を出した。
「え?イルカ先生お風呂入らないの?」
「もう面倒ですから明日朝入りますよ」
 色々あってとても疲れた。けれど、一番疲れた原因はいきなり父親に引き合わされたことと、この非常識な部屋のせいだろう。部屋のせいというよりはむしろこの屋敷自体のせいなのか。
 カカシと暮らすようになって大抵のことには動じないようになったと思ったけれどまだ甘かった。目を閉じたまま、人生って分かんないな、などと思いながらイルカが大きく諦めの溜め息を吐いたその時。
「風呂はあとですか、ま、でもその方が効率的ですね」
 唐突なカカシの言葉をイルカの聴覚が捉えた。効率的?疲れた溜め息を吐き出したイルカは降ってきた言葉の意味を取り損ねて閉じていた目蓋を持ち上げた。身体を投げ出したイルカの上。丁度覗き込むようにカカシが覆い被さっていた。
 え?
 驚いた顔をしているイルカの腕をそっと押さえつけてカカシはゆったりと顔を寄せる。
 ええ?!
 イルカの驚きなどまるで頓着しないままカカシはそのまま頬に口付けた。
「ちょ、ちょっとカカシさん!何してるんですか?!」
 ちゅ、ちゅ、と音を立てて顔中にキスを繰り返すカカシにイルカは慌ててそう問うた。
「何って、イルカ先生もう寝るって言ったから。風呂にも入らないって珍しいなーとは思ったんですけどたまにはこういう性急なのも悪くないかな、って」
 嬉しそうににまりと笑ったカカシは、けれどイルカを拘束している手の力を緩めたりはしなかった。ちょっと待て。寝るっていったけど。確かに寝るって言ったけどさ。違う。その寝るじゃなくてホントに休みたいんだ。
「ち、違います!ホントに眠りたいんです!!」
 今日はホントに色々あって疲れてるから眠りたいんです。やや青ざめたまま引きつった顔でカカシを見上げれば柔らかな笑みが返ってくる。
「じゃあ、なるべく早くすませましょうね」
 腕を押さえつける力はまるで弛まない。がっちりと押さえつけられたままぴくりとも動かせない腕にイルカは本当に青ざめた。
 犯られちゃうのか?犯られちゃうよね。ていうかなんでこんなことになってるんだ。セックスにもつれ込みそうな甘い雰囲気なんて全然なかったじゃないか。引きつった笑みを浮かべたイルカを大層面白そうに見下ろしたカカシはそれはもう嬉しそうに笑いかけた。
「さっき言ったでしょう?続きはあとでって」
 さっきって、さっきっていつだよ。そういえばさっき暗い部屋にいたときにそんな会話があったような気もするけれど、いやでもそれは。
 あわあわと思考を巡らせるイルカの唇にカカシはゆったりと口付けた。下唇をなぞられ上唇を吸われる。慣れたその仕草に無意識に誘い込むように唇を開いたのは自分。
 舌を絡め取られてようやくイルカはますますまずい状況に陥ったのを理解した。駄目だ、駄目。明日からきっと大変なんだから。きっと。
 くちりと粘膜のこすれる音がする。口の中に溜まった自分とカカシの混ざり合った唾液をようやく嚥下して、イルカはうっとりと目を閉じた。
 気持ちがいい。カカシとのキスはいつだってこうして気持ちよくてイルカの思考はとろりと溶けてしまう。意識を飛ばしかけてイルカははっと気付く。だから駄目だって。今日は疲れてるし、明日から大変なんだから。
 けれどカカシの身体をどけようにもイルカの手は拘束されているし、顔を背けたくてもすっかり動きの鈍くなった身体ではそれを望むのは少し無理に思えた。



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