MEDUSA
帰りは歩くなんてまどろっこしいことをせず、木の枝を跳んで渡った。空になった重箱と水筒が時々バランスを崩させるが、それでも行きよりもずいぶんと早く帰り着くことが出来た。明日は日曜日で休みが続くのだからゆっくりしていても良かったのだが、やはりシーツと布団を干したいし、疲れた体をゆっくりと休ませるには自宅が一番だ。
最初は自宅だと思えなかった郊外の家がいつの間にか帰り着く場所になってしまっているのが不思議だった。今では一番落ち着ける場所になっている。同時にある意味、一番落ち着かないところにもなっているのだが。
あの後押し倒そうとしてきたカカシに一発拳固をお見舞いしてやり、それからだらだらと居座って、帰ってきたときには六時になろうかとしていた。
買い物に行くのも面倒になっていた二人は昨日買った袋ラーメンで夕食を済ませた。勿論、作ったのはカカシだ。イルカはキャベツ・ネギの定番野菜の他に、トマトとピーマン、ベーコンの入ったラーメンを初めて食べた。ラーメンは麺とスープを味わうもので具はスパイス程度にしか思っていなかったイルカだが、それはそれで美味しいものだと認識を新たにしたのだった。
腹も満たされて、いつも以上に長風呂を堪能してカカシが延べていてくれた布団に潜り込めば、体中の関節という関節から疲れがにじみ出し、地面の奥底へと引っ張られていくようで心地良い。ついでに意識も引っ張られそうになっている。
かつんという玄関からの音でイルカは目を覚ました。ほんの一瞬意識を失ってしまっていたようで、カカシはまだ風呂に入っているらしく、時折ざばあという水の音が聞こえてくる。
カカシじゃないとすれば何が物音をたてたのか。家鳴りとは明らかに違う音だったからイルカは眠い体を押して起きあがり、玄関の様子を見に行った。
いつも新聞が突き刺さっている、新聞受けに見慣れない書簡が挟まっているのにイルカはすぐに気が付いた。それを引き抜くと宛名に「はたけカカシ うみのイルカ」と流麗な筆致で記されている。その筆跡にイルカは見覚えがあった。裏を見返せば果たして火影の印が押されている。ならば使者は暗部だったのか。イルカはそっと玄関の扉を開けて外を窺うが、すっかり夜になっている郊外は暗く、例え暗部の黒外套が家の様子を伺っていたとしても見つけることが出来そうにない。
イルカは大人しくその書簡を手に、玄関の鍵を閉めて居間の布団に戻った。しかし眠気はすっかり去ってしまっていて、布団に潜り込まず、火影からの書簡を前にあぐらをかいた。
巻物ではなく、白い厚めの封筒に麻のヒモが掛けられている。情報漏洩を防ぐ措置の封書だ。
カカシはまだ風呂の中。書簡は連名。イルカにも開ける権利はあるだろうが、カカシを待つべきか。
ヒモを解く位なら許されるかな、と何の為にあるのか分からないヒモに触れたその時だった。ばちっと静電気のようなものが指先に走り、勝手に麻のヒモは焼き切れてしまった。
「わ…っ」
余り痛くはなかったが突然のことに驚きイルカは手紙を取り落としてしまった。どうやら麻の括り紐はカカシとイルカ以外には解けないような術が込められていたのかも知れない。つまり、イルカに解くことが出来たと言うことは、イルカにも見る権利を火影が与えたのと同じだ。
早速その封書を開けて中身を取り出そうとしたその時だった。
からりと軽快な音がして、次いでぺたぺたと言う長閑な足音が聞こえた。
「イルカせんせー?」
カカシが風呂から上がってきたようだ。丁度いい。
カカシは濡れたままの髪を拭きながら居間を覗き込んだ。
「あれ、起きてたんですか? 眠い眠いってずっと言ってたからもう寝ちゃったもんかと」
「火影様から手紙が届いてるんです。まだ見てないんですけど…」
「じゃあ、見てみますか」
カカシも布団の上に上がり込み、火影からの手紙を手に取り、「ああ、連名なんですね」と一人で何か納得したようだった。
カカシは迷うことなく封筒の中に入っていた便せんを取り出す。その時、一回り小さく折り畳んであった便せんの一枚がカカシの手から抜け落ちて、イルカが手に取った。
「ああ、それ、見てみて下さい」
連名であることを考慮して、カカシはいるかが先に目を通すことを許してくれる。カカシは早速手にしていた便せんを開き目を通していた。イルカもその紙を開いてみる。
それはひどく馴染みのある書類だった。
それと認識した途端に全身の血が一瞬にして凍り付いたかと思った程だ。
イルカが手にした書類は、任務指令書だった。それもカカシ宛の、ランクA。暗殺任務だ。日程は三日後から、一週間。
イルカの護衛はならばどうなるというのだ。カカシが一週間もイルカの傍を離れて、誰が万古蘭の影響からイルカやその周囲の人達を守るというのだろう。カカシ以外の人間をこの家に招き入れろと言うのか。
それを想像してイルカはざわっと身の毛がよだつのを感じた。
ここはイルカにとって大事な場所だ。いずれ奪われてしまうカカシとの思い出の場所となるところで、それを他の誰かと共有して上書きされるわけにはいかない。
カカシにはどうしてもこの任務を辞退して貰おうと、ばっと顔を上げた。
すると、カカシも静かな目でイルカのことを見据えていた。髪から落ちた滴が頬を伝って涙ように見えたことに、一瞬にしてイルカは激情を忘れる。
「イルカ先生」
その視線と同じように静かな声で、カカシはすぐ傍のイルカを呼ぶ。
「薬が出来ました。投薬は二日後です」
そうして、カカシはイルカに今まで目を通していた書簡を掲げて見せた。それを手に取ることなく、イルカはカカシに開いて貰った状態のまま見た。
『万古蘭特効薬、摩雷妃完成』『二日後』『投薬治療』
確かにその単語は目の中に飛び込んできた。
こんなに急に。こんなに余韻もなく。
イルカはカカシへの任務指令書を膝の上に落とし、呆然としてしまった。
「…思った以上に早かったですね…」
カカシも苦く呟いたことに、やはり期間限定の恋愛を楽しんでいるのだとイルカは確信した。だから悲しいということはない。それでもカカシがイルカを思ってくれていたことは事実だと分かっているから。そして、それが失われることを惜しんでくれている気持ちがあることも分かってそれには救われる気がする。
それでも、蜜月の終わりが見えたことには、落胆を隠せない。
さらに、今後カカシに課せられた任務。
カカシは黙って項垂れたイルカが手にしていた書類を拾い、目を通した。カカシはそれに対して何の感慨も無く、小さく頷いただけで納得したような仕草がイルカには悲しかった。
三日後には、お互いのそれまでの日常が戻ってくる。
ただそれだけのこと。
今の状態が異常なだけで、これから正常に戻るのだ。頭ではそう分かっていても、割り切れない。猶予はたった一日。
「寝ましょう」
そう静かに告げたカカシの声が何だか淋しい。
疲れはどっと溜まっていたが、気が高ぶって眠れそうにもない。カカシは先に布団に潜り込んで、あっさりと寝息を立ててしまった。イルカもそれに倣って、居間の照明を消して体を横たえるが、さっきの強力な眠気は一向に襲っては来ず、目は冴えきってしまっていた。
明け方まで眠れなかったイルカが目を覚ましたのは、昼頃だった。隣で寝ていた筈のカカシの布団は無く、勿論カカシもそこには居なかった。
流石に寝汚いカカシでもこの時間には起きるんだと、ぼんやり考えて視線を巡らせる。居間から続いた縁側の向こう、小さな庭への窓が開け放たれて、そこの竿にはカカシの布団が干されていた。
――――干したいって言ったから自分の分だけ干してくれたのかな
ぼんやりそんなことを思いながらイルカは起きあがる。そろそろ時計は十一時半を回ろうとしていた。日はまだ十分残っているから、イルカはカカシの布団の隣に自分のそれを干した。竿が撓み、重いとぎしぎし文句を言ったのは最初だけ。
軽く表面を撫でて埃を落としていると、がさがさと草をかき分ける音がして、そちらに視線を巡らせれば、そこには一匹の犬が居た。首輪替わりに木の葉の額宛を巻いていて、カカシの忍犬の内の一頭であるらしい。小型のパグで、以前イルカを助けてくれた犬とは別の種類のようだ。
忍犬を置いていると言うことはカカシはこの家の中には居ないのかもしれない。イルカがここから勝手に抜け出さないか見張っているのだろう。
「…大丈夫。抜け出さないから」
イルカは忍犬にそう言い放つと、家の中に戻った。この家に居られるのもあと数時間。それ以降はここにいる必要など無くなるから、アカデミーにも受付にも通勤しやすい自分のアパートに帰ることになる。スーパーもコンビニも近くて便利。狭さと古さを我慢すれば、イルカの城であることは間違いない。
――――掃除してから明け渡した方がいいんだよな。
居間に座り込んでぼんやりと天井を見上げてそんなことを考えたけれども、体は動かなかった。昨日の疲れは取れていても、気力が沸かない。
じっと何も考えずに座り込んでいるのが精一杯で、窓から吹き込む風が解かれたままの髪を揺らすのをじっと見ていた。その内思考することさえ止めてしまった。
どのくらいそうしていたのか分からないが、ざりっと玄関前で足音がした。大儀そうに顔を上げれば、「ただいま〜」とのんびりとした声が玄関の方から掛けられる。カカシが帰ってきたのだった。
どさっと何かを台所のテーブルに置く音が聞こえた後、ぺたぺたという無防備な足音は居間に向かってきた。
「あ、イルカ先生おはよ。買い物行って来たんだけど――――まだ寝間着?」
「…あ…」
着替えるという発想が全くなくて、イルカはぼんやりと自分の服装を改めた。確かにこの時間に寝間着で居る事なんて殆どない。
「…着替えてきます…」
「ああ、いいよ、いいよ。今日はもうどこにも行かないし。家でゆっくりするだけならそれで良いでしょ」
立ち上がろうとしたイルカの腕を引いてカカシがそこに引き留める。
「…でもそんなのは…」
休日とはいえけじめが付いていない。そう言おうとしたのに、ぐいっと腕を引かれて、イルカはよろめきそうになった。
「ちょっと来て」
何か既視感のある光景だと感じたけれど、そのままイルカは引きずられて、やはり台所へと連れ込まれた。
「見て見て!」
今日カカシがイルカに誇らしげに見せたのは弁当ではなく、立派な魚まるまる一匹だった。背中が青く腹は白い。中央に黄色い線が一本入っていて、これぞ絵に描いた魚、というような魚で丸々と太っている。鯵やサンマのように尾鰭がまな板にくっつきそうにもなく、空を掻きそうだ。
「ブリです! 今日はブリしゃぶにブリ大根、ブリの刺身ですよ!」
ちょっと季節はずれな気もしたし、こんな量を二人で食べきれるのか心配になる。
「な、なんでこんな…」
大型の魚に分類されるブリをまるまる一頭――――匹というのが正しいのだが、至近距離で見るあまりの大きさに頭が正しい単位のように思える――――は少し贅沢が過ぎる気がする。正月でない限りこんな贅沢をするイメージがないイルカは、カカシのその行動に戸惑っていた。
「勿論イルカ先生が完治する祝いですよ。早く治りたいと思っていたんでしょ?」
カカシのその言葉にずきっと胸が痛んだ。傷が付いていたところを抉られたようだ。
確かにそう思っていた時期もあった。自分の所行が犯罪の域に踏み込んでいることを知ってからだ。けれど、完治することがカカシからの好意を失うことと同義となった今、それは怖い。そんな人工的なものがきっかけではなく、普通にカカシを好きになってしまったイルカの気持ちだけが取り残される。
しかし、火影やコハル自来也にカカシにはこれ以上、迷惑を掛けたくないという気持ちもあって、イルカは釈然としないながらも頷いた。
「まあ素人料理ですが、刃物には自信があるので今日の夕食もオレが作りますよ〜」
にこにことして包丁を持ち出したカカシに、イルカは一歩後ずさった。刃物を持って微笑むカカシの様子が不吉なほど美しく見えてしまったからだ。
カカシはイルカが引いているのに気が付きもせず、早速そのブリを手早く捌き、刺身の冊とアラ、内臓に切り分けて、早速アラやカブトは湯引きして大根と一緒に煮物にされていく、内臓は捨てて、刺身の冊はラップをかけて冷蔵庫に保存する。
「刺身でも食べられる身をしゃぶしゃぶにするって贅沢〜」
などと楽しそうな様子でカカシは早速鍋に煮干しを投入していた。
イルカはその手順をすぐそばで見ながら、昼ご飯は何を食べさせて貰えるんだろうかと訴える、朝食抜きに耐えかねた腹を抱え、生唾を飲み込むのだった。
昼ご飯は四本出来た冊の内、一本全てを刺身に切り漬けにして、ブリの漬け丼を作って貰った。生卵の黄身だけを中央に乗せて貰ってネギの小口切りとゴマを散らされたその姿を見ただけで、イルカの腹は素直にぐうと鳴る。
半分を食べたぐらいで散らしてくれた刻み海苔がまた旨くて、イルカは並の一人前じゃ足りないような気がして恨めしそうにカカシを見たが、「夕食を豪華にしますから、それまで待ってて」とカカシは苦笑してイルカを宥めた。
昼食が済んでもイルカは寝間着のままで過ごした。カカシもリラックスした状態で口布や額宛もなく、居間の畳でごろごろと横になって本を読み、思い出したかのように台所へ行って包丁でまな板を叩きつけていた。
「最近そんな余裕が無くて聞けなかったですけど、ナルト達の様子はどうですか?」
「いつも通りですよ。相変わらずサスケとは仲がいいのか悪いのか分からないような状態だし、サクラには目の上のたんこぶ扱いですし」
それはイルカが担任だった時の三人の様子と何も変わっていない気がする。他の子供達が居なくなって三人という少人数だからもう少し態度が変わるかと思ったらそうでもないらしい。三人ともカカシを大人とも思わず、自由奔放に振る舞っているのに違いなかった。
「…済みません…」
少しばかり聞かなきゃ良かったと後悔しながら、イルカは彼らの蛮行振りを想像し、思わず謝ってしまった。
「あなたが謝る事じゃないでしょ。オレの指導力不足かも知れませんしね〜…」
状態が悪化したのでもなく好転したのでもなく現状維持が続いているのならば、それはカカシの指導力とイルカのそれは同等と言う事じゃないだろうかと思ったが、イルカは「そうでしょうか」と言葉を濁した。本職の教師であるイルカが、そこまでカカシに引けを取る、もしくは同等だと思うことが少しばかり悔しかったからだ。
それから術談義に花が咲き、それから発展してカカシの行ったことのある国の話になって、旅行の話に展開した。雪が見られる温泉には是非行きたいと思ったが、口にしなかった。
カカシとの話は飽きが来なかったし、話題が無くなって黙り込んでいるのも全く苦ではなくて、これが毎日続けばいいのに、とイルカは思う。それと同時に有限の時間だからこそ楽しく感じられるのだと思う気持ちも否定できず、このカカシに対する思いも、もしかしたら期限付きだから盛り上がっているのかも知れない、という淡い期待を抱いた。期限が来ればすっかり冷静になれるのかもしれない。
そして、時々イルカは二日後に迫ったカカシの任務について思いを馳せる。なかなかイルカは目にしないAランクの任務の依頼書を目の当たりにして、今も思い出すだけで少し手が震えそうになる。文書の運搬や大名の護衛のようなランクAではなく、政治に絡む暗殺のためのランクA任務。勿論相手も殺されないように、逆に返り討ちが出来るくらいにはガードを固めているだろうと思われる。詰まり、カカシにかかる危険度が格段に高くなっていると言うことだ。
カカシは任務指令書に目を通したときに何の反応も窺えない凪いだ雰囲気を見せていたが、実際にはどんな気持ちで居るのだろうか。自分だって任務の時が近いのに、イルカのために心を砕いてくれているのが分かり、余裕やイルカに対する気持ちが透けて見えるようだ。
任務前などというのは、自分のためにお金を使って身綺麗にして出立するものだとイルカは思っているし、大方の忍は皆似たり寄ったりの考え方をしているだろう。カカシだって今までは例外なくそうしてきたのだろうと思う。しかし、あまり元気のないイルカを案じて明るく振る舞い、料理までかって出てくれている様子はイルカを特別以外の何ものでもないと認識しての行動で、素直にイルカは嬉しかった。
何がイルカには出来るのだろうか。カカシに、返せるものはあるのだろうか。
台所に立って、二本の包丁を軽快にまな板へと叩きつけるカカシの背中を見つめてイルカは考える。
イルカには持ちものがひどく少なくて、いつだって大切な物は両手につり下げて持てる程度。その中からカカシにも価値があるものなど、ほんとうに僅かしかない。
台所に立つカカシの背中は楽しそうで、細く溜息をつけばそっとしょうゆの香りが漂ってきて切ない気分になった。
夕食はいつもより早い時間から開始となった。カカシがほぼ一日がかりで作った料理が食卓に並べられる。昼から煮込んだブリ大根に白飯は勿論、刺身の並べられた大皿にしゃぶしゃぶ用の鍋と野菜。取り皿を並べてしまえば一杯一杯になってしまっているほど豪華だ。
「ゆっくり食べましょう。お酒も少し買ってきてありますから」
カカシはイルカの取り皿に手作りのポン酢を注ぎわけてくれたり、鍋の中に野菜を入れてくれたりと始終甲斐甲斐しかった。野菜は白菜ではなくレタス。ミニトマトや大根のスライスなども入っている、イルカには未だかつて食べたことのない鍋。やはり季節はずれの感じは否めなかったけれど、それは間違いなくイルカの舌に合った。
「美味しいです。こんな料理どこで習ったんですか?」
鮮度の良い魚の身を刺身でそのまま食べたり、しゃぶしゃぶにしたりと忙しくて楽しい。「料理は習ったというか…よく行っていた店があって、そこはずっと調理場の見えるカウンターしか無かったので、そこで見ている内に自然と」
「写輪眼で?」
そう意地悪く尋ねると、カカシはひどくまじめな顔をして一つ頷いた。習うというより倣ってここまで身につけたということか。本物の瞳術は思っている以上に便利だ。争いにばかり使われるが日常生活でもこんなに役に立っている。少なくともイルカを喜ばせるには十分な能力を発揮していることは間違いない。
脂の乗った腹の部分をさっと湯にくぐらせて、レタスでくるんでポン酢で一口。幸せを実感できる一口で、ヘルシーなはずなのに思わずイルカは摂取カロリーを考えてしまうほど旺盛な食欲を見せた。
それは緊張している所為かもしれなかったし、悲しみを紛らわそうとしている所為かもしれなかった。
明日には万古蘭の影響もなくなるから、今が最後の夜。これで緊張しない方がおかしいし、恋を失うと分かっていて悲しくならないわけがない。しかし、折角カカシがイルカのために作ってくれた料理を涙や溜息で汚すわけにはいかなくて、そして、単純にカカシの気持ちが嬉しくて、イルカは食べた。
カカシの今の気持ちを精一杯自分の血肉にするほか道がないように感じていた。
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