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「睦月、ちょっとカカシ先生の様子見てきてもいいかしら?」

2人の会話を顰め面のまま聞いていたいのが不意に言葉を発する。
不自然に強ばったいのの声に2人は驚く。
何がそんなに不安なのだと。
そう聞こうとした、その言葉を。
いのが遮る。

「なんだかイヤな感じがするの」

そう呟く声はどこか怯えているようにも聞こえて。

「なんでカカシ先生はいきなりイルカ先生の名前を言ったりしたのかしら」

いのの声は低く掠れていて。
2人にもその緊張が伝わってくるようだった。

「カカシ先生、睦月にイルカ先生の事話す気になったのよ」

自分自身に言い聞かせるような声色でさくらがいのの肩に手を触れる。
どこかその人を落ち着かせるような素振りで。

ゆったりと肩をさする。
いのはサクラを見た。
縋るように。その暖かい手の平に縋るように。

「そんな訳ないのよ、サクラ。なんだかもっと嫌な感じがするの」

その様子に睦月の背にもぞわぞわと何かイヤなものが走る。
どこかいのの言っていることの方が現実味を帯びているようで。
不意に、恐ろしくなった。

今日自分を迎えてくれたカカシはいつもと同じだっただろうか。
いつもと、同じ笑顔だったろうか。

どこか不自然な所はなかっただろうか。

そう、問いかけても。
答えるものはなく。

睦月は立ち上がると、書斎へと向かった。
あの扉を開けたら、きっとカカシはいつものように仕事をしているはずだから。
『何?』
そう言ってオレの不安を取り払ってくれるはずだから。
だから。


それでも芽生えた胸騒ぎを止められず、睦月は急いで書斎に入る。

「カカシ先生?」

『ノックぐらいしなさい。』

カカシがそう言って自分をたしなめる。
それが、いつものこと。
いつものことのハズなのに。



其処に、いたのは。

そこで、見たのは。

カカシと、カカシを抱きしめている自分。
縋るように自分の肩に顔を埋めて嗚咽を漏らすカカシと、それを抱きしめている、自分。

自分?

声も上げられず呆然と立ちつくす睦月にカカシを抱きしめている自分がふと気が付いたようにこちらを向いた。

その顔は自分とそっくりだった。
ただ、一つ違うとすれば、その顔を真っ直ぐに走る大きな傷跡。
あれは、誰だ?
あれは。

あれは?

「イルカ、先生………?」

そう言葉を発したのは、睦月の後ろに立つサクラだった。

ではあれが、あれが、オレの父さん?

「父さん?」



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