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「でも、カカシ先生随分変わったわね」

サクラはいのの表情には気が付かずそう睦月に話しかける。
カカシは変わった。
自分たちがまだ下忍だった頃のカカシとは随分と違う。
あの、どこか人を喰ったようなカカシは今はもうどこにもいない。

「カカシ先生が?」

「うん」

睦月は今のカカシしか知らないから。
サクラの懐かしそうな顔に少しの羨ましさを感じる。
一体どこがどんな風に変わったというのか。

「一体どんな風に?」

睦月は素直にそう聞く。
『イルカ先生』のことも知りたいけれど。
本当に知りたいのはカカシの事。
カカシは本当は一体どんな人なんだろうか。

「…そうね。今みたいに真面目な人じゃなかったわ」

くすりとサクラが笑う。
思い出をなぞるように目を細めて。

「平気で何時間も遅刻してくるし、訓練中にエッチな本読んでたりして。
なんて無茶苦茶な先生なんだろう、っていつもそう思ってた」

サクラの告白はあまりにも意外だった。
あのカカシが、そんな人間だったなんて。
今の姿からは想像も付かない。
カカシは時間に煩くて真面目でどちらかというと頑固な方で。
絵に描いたような理想の教師だった。

それが、どうしてそんな教師だったといわれて頷けるというのか。

「信じられないって顔ね」

サクラは穏やかに微笑んだまま。
そう言って睦月を見る。

「ハイ、ちょっと信じられません」

信じるも何も、サクラが睦月を担ごうとしているとしか思えず。
睦月はそんな風にしか答えられなかった。

サクラは微笑んだまま視線を落とす。
泣いているような、そんな笑みだった。

「……今のカカシ先生は、何だかイルカ先生みたいなの」

机に両肘を付いて俯いた顔を隠す。

「カカシ先生、まるでイルカ先生みたいなのよ」

そう呟く。
でもそんな風に言われても、何の実感も湧かない。
睦月にとってはあれがカカシで。
サクラがイルカ先生みたいだというカカシが本当のカカシで。

また一つ、カカシが遠くなる。
少し近付いたと思ったのに。
そう思う度にまた一つ遠ざかってしまう。
一番近くにいるのだと、そう思っても何一つ知らない。
誰よりも側にいるのに誰よりも遠くに置き去りにされているようなその感覚。
まるで自分だけが、蚊帳の外にいるような、そんな寂しさ。
ずっとずっと。
もう随分と長い間そんな風に悲しかった。

それでもやっと近付いたと思ったのに。
また遠くなってしまう。
知らないことばかりが数を増して。
また、遠くなってしまうような、そんな気さえしてくる。

一体自分がカカシに何を望んでいるかさえ分からずに。
ずっと置いて行かれた子供みたいに寂しかった。

「オレ、ホントにカカシ先生のこと何にも知らないんですね」

ぽつりと睦月が言う。
本当のカカシを知らないと。
そう、睦月が泣いている。

サクラは落とした視線をあげて目の前に座る青年を見つめた。
そこにいるのは青年か、それとも小さな子供か。
そんな風に思えるほど頼りないその存在。
慰めではないけれど、サクラは思い付くままに口を開いた。

「でも、睦月しか知らないカカシ先生だっているんだから」

泣いている子供に話しかけるように優しく。

「イルカ先生でさえ知らないカカシ先生を知ってるのはあんただけなんだからね」

納得したのかどうかは分からない。
でも、眼前の青年は心持ち表情を弛めて微笑んだ。
それだけの、事。

「ありがとうございます」

他愛のない、会話。
日常に埋もれてしまうような。
それでいてどことなく優しい会話だった。
少しずつ、何もかもがうまく行くような、そんな錯覚さえ抱かせる。
そんな空気だった。


歯車は、もう回りだしていたのに。
止められないほどの勢いで。
睦月もサクラもいのもカカシも飲み込んで、ぎちぎちと音を立てていたのに。
それに気付かなかった。

睦月もサクラも。

いの以外は誰も。



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