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受難の日




「なんでこんな事になっちゃったんでしょうか…」
 覆い被さるカカシを見上げるイルカはまだ半泣きだった。
「アンタが頷いたりするからです。もうこうなったら仕方ないでしょう。腹をくくって下さい」
 さらさらと滑るイルカの髪を弄んだままカカシも複雑な表情をしている。ナルトのリクエストで電気は付けたまま。ベッドの上では見にくいから畳の上にわざわざ布団を敷いてセックスに望もうとしている。
 どうだろう、それは。人として。
 近くで見たいと主張するナルトにそれだけは勘弁してくれと頼み込んだ。ナルトは今部屋の外、少しだけ開けられた襖の隙間からこの光景を覗き見ている。
 あぁ、なんだかなぁ。なんだかっていうか、もうどうしたらいいんだろう。
「カカシさん…」
 べそをかいたまま見上げればふと笑うカカシにぶつかった。
「いないと思いなさいな。それより折角するんだから楽しみましょ。さっきの今でセックスするなんて最近あんまりないからちょっと楽しくなってきました」
 大体アンタはナルトに甘すぎます。自業自得だと突き放されてイルカはますます涙ぐんだ。けれどそんなことを気にするカカシではない。ちゅ、と音を立てて軽く唇を啄まれる。
「べそかくイルカってなんか可愛いなぁ…」
 呑気なカカシの言葉にイルカはようやく観念して力を抜いた。そう、それに今日はさっきの今なのだ。恥ずかしいからナルトには言わなかったけれど、もう今日はすでに一回カカシとしている。
 夕飯を食べ終わって何となくそういう雰囲気になって、それからしたのだ。そうして風呂に順番に入っていたらナルトが来た。
 二人で入ってなくて良かったとイルカは何となく思った。そんなに爛れた現場を目撃されたら本当になんていうか居たたまれない。軽いキスを繰り返すカカシを引き寄せて、イルカはゆるりと唇を開いた。
 それは誘う仕草。より深い口付けを誘うための合図。ゆっくりと進入してきたカカシの舌に自らの舌を絡ませて、その柔らかな髪を掻き混ぜた。
「……んっ…」
 深くなる口付け。入り口の方から痛いくらいの視線を感じて、イルカは羞恥に頬を染めた。ナルトが見ているというのに、なんて浅ましい。
 柔らかく耳朶を揉まれ、角度を変えてまた口付けられる。身体の奥底で燻っている快楽がじわじわと湧き上がってきて、イルカは抱き寄せる手の力を少しだけ強くした。
「んっふ……ぅ…」
 口付けの合間に漏れる息は甘く淫らがましい。ようやく離れた唇から唾液が伝わるのを見てイルカは恥ずかしさに目を伏せた。
「ねぇ、イルカさんどうしましょうか。すぐ挿れちゃう?それともいつもみたいになんにも考えられなくなるくらい舐めて解してあげようか?」
 ナルトが見てるからねぇ…。あんまり淫らがましくて可愛いアンタを見せるのも勿体ないし。
 くつくつと笑いながら軽いキスを顔中に降らせるカカシにイルカは顔を顰めた。
「なにを言ってるんですか、アンタは」
 頭に置いた手で髪の毛を少し引っ張れば、また笑われた。
「でも、どうします?見られながらするのなんて初めてだから、どうしたらいいのかオレも良く分かんないんですよね」
 ちょっと困ったように呟くカカシをイルカはぼんやりと見上げた。
「だってね、そう長々と見せるっていうのもどうかと思うでしょ?でもナルトがサスケとのセックスを不安に思わないくらいには気持ちよくならなくちゃ駄目なんですよね。そうなるといつもみたいに焦らして焦らして、イルカ先生が泣いてねだるまで挿れないとかそういうのはどうかと思うし。どうしましょうか」
 割と真面目な顔をしてなにを言いだすかと思えば。確かにそれは問題ではあるだろうけれど、そんなことをいきなり言われてもイルカにだってどうしたらいいのか分からない。
 いささか困惑の色を落としたイルカの頬に小さくキスを落とすと、取りあえずカカシは行為を再開した。耳を噛み、首筋を舐め上げられる。
 馴染んだ感触にイルカはゆったりと膝を立てて、沈み込むカカシの身体を受け止めた。割り広げられる浴衣の襟元。鎖骨を噛まれて小さく背筋が震えた。
 燻っていた熱がじわりじわりと甦っている。ほんのついさっきまでカカシをくわえ込んでいたそこがひくりとざわめいたのが分かった。
「……ん……」
 立てた膝が震える。そうして、ぷくりと立ち上がった乳首を噛まれた。
「…あっ!」
 さっきも散々に嬲られた乳首はカカシから与えられる快楽の予感に、とっくに堅くなっている。じん、と腰が重くなる。柔らかく噛まれ舐められれば勝手に背筋が震えた。びくびくと身を震わせるイルカの後口にカカシはつぷりと指を含ませる。
「やっ……ん…ッ……」
 なんの潤いも与えられないままのいきなりの行為にイルカは戦慄いた。
「まだ濡れてるね。イルカさんちゃんと出さないと駄目でしょ」
 伸び上がって顔を覗き込み、カカシはまた口付けを落とす。浅い所をくちくちと弄られて口付けの合間にイルカは甘い吐息を漏らした。
「ねぇ、イルカ。覚えてる?今見られてるの」
 半分飛びかけた意識はほんの少し開けられた襖の間に一気に向けられる。
 あぁ、そうだ、あそこにはナルトがいて。そうしてこの痴態の全てを見られている。
「あ……や、やだ…ッ…」
 知覚した瞬間、あまりの羞恥にイルカはカッと全身を赤く染め上げた。見られたくなくて、でも見せなくちゃいけないだなんて。
 軽く含ませていた指を引き抜いてカカシは不意に体を離した。置いていかないで。とっくに着崩れた浴衣の裾を引けばカカシは小さく笑ってイルカにキスを落とす。
「ちょっと待ってて、ネ」
 いつもより息が上がるのが早くて、イルカはそれがさっきの快楽の余韻なのか、見られていることの羞恥からなのかよく分からなくなった。
 襖の隙間から漏れるナルトの気配。なんだってこんな事になったんだろうか。じわりと勝手に涙が滲んだ。またべそをかき始めたイルカの目元に口付けを落とし、てようやくまたカカシが覆い被さってきた。
 馴染んだ体温に包まれることの安心感。腕を伸ばしてカカシの身体を引き寄せればくつくつと笑われた。
「なに、心細くなっちゃったの?なんか今日のイルカさん可愛いねぇ」
 いつも可愛いけど、どうしちゃったの?
「…ん……」
 目が勝手に潤むのだ。見られている羞恥と半端に放り出された身体が疼くから。
 舌を出してキスをねだればあっさりとその望みは叶えられた。絡む舌が気持ちいい。ぼうっとイルカがキスに溺れている間にカカシは手にした小瓶の蓋を取った。
 持ってきた潤滑油を手に垂らしてカカシは改めてイルカの後口に長い指を含ませる。くち、と湿った音がした。しとどに濡れた指先はさっきよりもなお簡単にイルカの中へと進入していく。
「あぁ…あッ………んんっ…!」
 ぐにぐにと空いた方の手で尻を揉まれ、さっきカカシを受け入れたばかりの腫れぼったい襞をその長い指で犯される。喘ぎ声を噛み殺したいのに、襖の向こうに感じる気配がそれをしていいのかどうかを戸惑わせた。
 気持ちいい所を見せなくちゃならないのだ。ずるずると内壁を弄るカカシに、そのうちそんなことを考えてはいられなくなるだろうけれど。
 イルカは熱く湿った息を吐き出した。身体の中に熱が籠もってひどく熱かった。奥まで含まされていた指がいったんは引き抜かれ、そうしてまた新たな潤滑油と共に二本に増やされて差し込まれる。
 くちゃ、と音がした。イルカの襞を割り開く濡れた音が。その時。
「あ、あのさ、ちょっと聞いてもいいかってばよ!」
 僅かしか開かれていなかった襖がいきなり引き開けられ、そうしてナルトが真っ赤な顔をして叫んだ。カカシの指をくわえ込んだままイルカは固まった。さすがのカカシも何事かとそれを引き抜くこともしないままナルトを見る。
「……あー、なんだ?」
「あ、あのさ、カカシ先生が今持ってるやつって一体なんだってばよ…」
 カカシが握っている小瓶。とろとろとイルカを濡らすそれを指してナルトは聞いたらしい。あまりの羞恥にイルカは思い切りカカシに抱きついて、ナルトから顔を隠した。
「潤滑油だよ。男は自分では濡れないから、滑りを良くするのと痛くないようにするためにこういうの使うの。使わなくてもできるけど今日はオマエが見てるからそういうのはしない」
 飄々と受け答えするカカシの髪の毛をイルカはぎりぎりと引っ張った。恥ずかしくて、そして、それ以上に。
「痛たたた、ゴメンゴメン、イルカ。ね、怒んないで」
 痛そうに、そしてどこか嬉しそうにカカシがキスを落とす。
「ナルト、オマエ話しかけるの禁止。質問は終わったあとでな」
「ごめんてばよ…」
 小さな呟きと共に襖はするすると閉められ、そうしてようやくイルカはカカシの髪の毛を引っ張るのをやめた。
「ゴメンね、イルカさん。セックス中に他のモノに気を取られて怒ったの?」
 含ませた指をくちくちと動かしながら、カカシはそれはもう嬉しそうに問うた。
「も、もうイイから」
 分かってるなら聞くな。セックス中は普段よりずっと心が狭くなってるような気がして、イルカはゆるりと目蓋を閉じた。
 あぁ、もうなんだってこんな恥ずかしい目に遭わなくちゃならないんだろう。羞恥で死ねるなら今日はもう何十回も死んでいるに違いない。
「……んんっ…あっ……んくッ…」
 いつの間にか含まされる指の数が増えている。いつもより性急に求められてイルカは誘うように股を開いた。
「なに、もう挿れて欲しいの?」
 余裕な声でそう聞くから、イルカは悔し紛れにカカシを見た。欲しがる浅ましい身体。自分だけがひどく煽られて喘がされている。けれど。潤んだ瞳が捕らえたカカシも、さほど余裕のない顔をしていた。煽られているのか、煽っているのか。
「……早く…っ」
 柔らかな銀の髪をくしゃりと掻き混ぜて囁けばずるりと指が引き抜かれた。惜しむように絡みつく襞をひどく恥ずかしいとイルカは思う。
 そうしてひたりと当てられた指よりももっと熱くて太い、それ。訪れる快楽の予感にイルカの立ち上がった性器からとろりと透明な液がしたたり落ちた。まだ触られてもいないそこが痛いくらいに張り詰めているのが分かる。
「あんまりそんな顔で煽らないでよ。持たないじゃない」
 ずぶずぶと埋め込まれていく熱源。吐き出すカカシの息も熱く湿ってイルカの鼓膜をくすぐった。あとはもう、揺さぶられるまま。ナルトの存在なんてすっかり忘れて突き上げられるままに嬌声を上げていた。
 そうして。上り詰め弛緩した身体の奥にカカシの熱い飛沫を感じて、イルカはうっとりと目を閉じたのだった。



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