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 そこがカカシの住まいになってからここにカカシ以外の誰かが入ったのは初めてのことだ。物珍しいのか、きょろきょろと部屋を見回しているイルカをカカシが観察する。
「思ったよりものが多いですね…もっとこう倉庫みたいな雰囲気の所に住んでると思っていました…」
 倉庫で暮す男。イルカのイメージがカカシには伝わらない。ここは倉庫よりも物が多いという事か。
 カカシはイルカを居間へ通して、とりあえず迷いはしたものの無難に茶を出した。カカシはコーヒーよりも茶が好きだ。
「…カカシ先生はコーヒーだと思っていました…」
 湯のみ茶碗に茶托をイルカは正座で眺めている。
「…何だか俺のイメージが崩れていってますかね…」
「……カカシ先生は自分のこと何も喋ってくれないから…」
 イルカはそう言うと俯いて、湯飲みを手に取って恐る恐る口をつける。
 今は疑心暗鬼になっている所為か、イルカの言葉の一つ一つに何か裏か含みがあるような気がしてならない。どきどきしながらカカシはイルカの様子を伺う。
 しかしイルカのほうから口を開く様子は無い。それもそうだ。家に誘ったのはカカシなのだから、誘われたイルカがぺらぺらと一方的に喋っている図というのもおかしい。
「…イルカ先生、今度受付けにはいつ入るの…?」
 とりあえず当たり障りの無い話を振っておく。
「…そうですね〜、あと少しで下忍承認審査ですのでそれまではちょっと忙しくなりそうなんです。次の受付けはその後ですね」
「…そうですか…」
 きっと今後カカシがアカデミーに行ってこれまでのようにイルカを夕食に誘う事は出来ないだろう。今日のようなことが続けばカカシだって困るし、アカデミーにだって迷惑だ。だから受付で約束を取り付ければ良いと安直な事を考えたカカシだったが、それも時期的には無理だという。イルカに会うのを暫く控えた方が良いという何かの思し召しだろうか。
「暫くはゆっくり呑みに行く事も出来そうに無いですね…」
 カカシの考えを読んだかのようにイルカがポツリとこぼす。
「また暇を見つけて誘います」
「そうですね、では此方からもひのい先生の目を盗んで声を掛けます」
 その言葉を流せば良かったのに、カカシは『ひのい』という単語に過敏に反応して、一瞬笑顔を失った。勿論机を挟んで正面に座るイルカに気づかれないわけが無い。二人とも連鎖反応のように身体を強張らせてしまった。
「カカシ先生…明確に教えてくれなくても良いです、一つだけ俺の質問に応えて下さい…」
 イルカのその願いは謎かけのようだった。寄せられた眉にイルカの内側にある必死さを感じ取ってカカシはただ一度頷いた。イルカはそれから何度か口を開け、閉じ、そして生唾を飲んで、もう一度口を開いた。
「カカシ先生は…昔、暗部に居たんですか…?」
 一瞬カカシは言葉に詰まった。おそらくイルカのこのものの訊ね方は、ほぼ確信を抱いている人間の態度だ。ここで否定するという事は、カカシが嘘を吐く人間だという証明になりかねない。そして正直に話すということは暗部規定を破ると言う事だ。
 つまり、カカシのとれる行動はたった一つだけだった。
 それは――――沈黙。
 イルカはじっと深い黒曜石の瞳でカカシを見据えてくる。少しの動揺も見逃さない意志の強さで、柔和な性格からは想像できない頑固さを滲ませる。
 どのくらい見詰め合った形になったのだろうか、その形を崩したのはイルカだった。
 イルカの目にじわり涙がたまったと思ったすぐ後に、両目からぼろっとそれがあふれ出して、カカシはまずびっくりしてそれから動揺した。
 イルカはカカシから目を離さずに声も無く涙を流す。何て言葉をかけて言いか解らずカカシは戸惑うばかりだ。
 ティッシュの箱を差し出すと、イルカは遠慮せずに三四枚抜いて涙を拭い勢いよく洟をかんだ。
「有難うございます」
 カカシの『沈黙』という選択にイルカは満足したのか腰を上げる。何事かと思っているとイルカは鼻声のまま「帰ります」とカカシに背を向けた。
「ま、待ってください…っ」
 慌ててカカシはイルカの手首を掴んで引き止める。振り返ったイルカの目は少し赤かったけれど、それ以外はいつもどおりに戻ってしまっていた。
「気づいたんでしょう、あなたの好きな人が誰だか…!」
 イルカは視線をさまよわせた後、こっくりと頷いた。それだけで十分だった。イルカにはばれてしまったのだ。
「…あなたは面白がっていたんでしょう。そして、優越感を味わっていた……」
 イルカの顔が泣きそうに歪む。カカシが掴んだイルカの手首が細かく震えているようだった。
「違います…」
「やっとあなたがなんで俺に構ってくれるのか理由がわかりましたよ…!」
 イルカは聞く耳を持とうとせず、カカシの手を振り払おうとする。
「イルカ先生!」
 カカシは強く名前を呼び、イルカの腕をもう片方の手で引いて、自分の方に倒れこんだイルカの身体を抱きしめた。
 ここが正念場なのだ。ここで何かを間違えればイルカはカカシを見限ってしまう。カカシは抜け出そうともがくイルカを捕らえたまま必死になって言葉を捜した。
「…イルカ先生お願い、聞いて下さい」
「嫌です…っ、離せっ」
 しかしもがくイルカの抵抗は徐々に薄くなっている。ただ単に疲れただけとはいえない。
「じゃあ、一つだけ聞かせて。昔のその暗部ではなくて、俺のことは嫌いですか」
 その質問にイルカの動きがぴたりと止まり、イルカがこの世の果てでも見たような顔でカカシを見上げた。
 その顔が徐々に崩れてイルカは唇を噛み締め俯いてしまう。
「嫌いだったらこんなに怒ったりしない…!」
 搾り出すようなその声に安堵して、カカシは我ながら鬼畜だと再確認しながら、抵抗を失ったイルカの身体を無遠慮に抱きしめた。
「俺も好きです」
 腕の中でイルカの体がびくっと震える。
「俺も悩みました。名乗り出る事は出来ないし、正体は結局これで幻滅されそうとか、俺に媚薬が入ってたから気持ちに自信も無くて」
 そこまで言っても、イルカに媚薬の効果が伝染っていたことは言えない。もしイルカがカカシのような心境に陥って、『あの時の気持ちは媚薬で舞い上がっていたからではないのか』と疑いだしたらたまらない。
 多少ずるくてもいいのだ、イルカがカカシの手許に残るなら。
「イルカ先生の言うとおり、先生と俺は両思いだということを知っていましたけど、その表現も正しくは無いでしょ。イルカ先生は過去の俺が好きだけど、今の俺にはどうだかわからない…」
「……」
 イルカはカカシの腕の中で大人しく話を聞いている。カカシは絡め取るための手法というよりも、ただじっと耳を傾けているイルカが可愛く思え、そっと爪の先で頬を撫でる。イルカは抵抗せずにじっとその愛撫のような動作を甘受していた。もしかしたら泣いているのかもしれなかった。指先に感じる頬が熱い。
「でも、けしてイルカ先生の言ったからかう気持ちとかそういうのは、一切無いよ。俺だって、媚薬の所為かもしれないけど、あの時すっごく気持ちよかった」
 そのカカシの言葉にイルカは身を縮ませて、耳を真っ赤にした。顔は俯いていて見えない。
「今のイルカ先生だって可愛いと思う」
「…からかわないで下さい…」
 漸くイルカが消え入りそうな声で反論する。よろよろとカカシの腕の中から抜け出そうと身を捩ったから、今度はカカシもそれを許し、手を離した。
「……信じてもいいです。カカシ先生の言っている事、全部。でも…」
「でも…?」
 イルカは俯いてカカシに視線を合わせないままポツリと呟いた。
「…俺はまだ、カカシ先生の顔を知らないんです」
「…見たいって事ですか…?」
「………」
 見たいとははっきりと言えないらしい。
 カカシは少し笑って、まず額宛を取った。迷わずカカシが行動に出たことにイルカはびっくりして顔を上げる。その反応を意に介さずカカシは口布に指をかけて、イルカがごくりと固唾を呑む間にするりと引き下ろした。
 イルカはちょっと見ただけで顔を真っ赤にして逃げだそうと腰を浮かす。
「やっぱり、帰ります…!」
「え、ちょっと、どうして! 待ってください…!」
 慌ててカカシはイルカを捕まえて、元の位置に座らせるが、イルカはカカシと出来るだけ目をあわせないようにしながらもちらちらと此方を伺うようなそぶりを見せる。どうやら落ち着かないようだ。
「何? 俺の顔気に喰わないですか?」
「…気に喰うも喰わないも、あなた詐欺です…!こんな…」
 そこでもう一度イルカはチラッとカカシを見て、視線が合った瞬間にばっと顔を背けられる。カカシはメデューサにでもなった気分だ。
「こんな…?」
 語尾を反芻すると伏せられたイルカの睫毛がふるふると震えた。
「こんな美形だったなんて…!」
 あまりに悲壮なイルカのその声にカカシは一瞬呆然として、それからすぐに可笑しさがこみ上げてきた。
「な、なんで笑うんですか…っ」
「だって、あなたがこの世の終りみたいな顔をするから」
「…〜〜〜〜」
 折角落ち着いたイルカがもう一度カカシのもとから離れようと足掻きだす。しかし、もうカカシは躊躇わなかった。
「どうして逃げるの。それって、俺の顔も嫌いじゃないって事でしょ?そんな悲しい顔する必要はないじゃないですか」
 そう言いながら逃げを打つイルカを巧みに絡め取って離そうとしない。
「…だって、これだけの美形なら本当に俺じゃなくてももてるでしょうに…」
 イルカの声は自信なさ気に語尾が弱くなる。
「おれは、イルカ先生がいいの」
 例え薬無しの状態で体の相性が最悪だとしても、一緒に居ることは出来る。イルカの傍はカカシにとっておままごとが現実に展開されているような居心地の良さがあり、それがないと最早生きていけそうにもないことをカカシは久々の長期任務で理解していた。
 それをようやく理解したのだ。
「俺の顔がイルカ先生の好みだからって、そんな理由で俺を振らないで」
「…カカシ先生…」
「俺達、正式にお付き合いしましょう。イルカ先生」
 その言葉にイルカはじっとカカシの目を見て、本当に石のように暫く固まっていた。瞬きだけを何度も繰り返し、それでも目を大きく見開いている。
 泣くかなと思ったが、イルカはそんな様子を全く見せず、ただこくりと大きく頷いた。
「…よろしくお願いします」
「――――!」
 カカシはその返事のあまりの衝撃に、かっと頭に血が昇るのを強く感じた。そして衝動のままにイルカを抱き寄せて唇を奪う。
「ん――――っ」
 いきなりのカカシの激情にイルカは付いていけず目を白黒させていれば、抵抗も緩い。カカシはこれ幸いとイルカを床に押し倒し、舌を咥内に潜り込ませる。
「ふぁ…っ、ん、カカ…っ」
角度を変えて何度も口付け、カカシはこれに嫌悪感を抱かない事を確認した。それどころか、これはイイと細胞が訴えている。息苦しいと訴えるイルカをいたわる事も出来ずに自分の欲望が突っ走ってしまう。
 唇を離せば既にイルカは抵抗する力も抜けたようにぐったりとカカシの下に敷かれるだけだった。朦朧としているのをいいことにカカシは何度もイルカの唇を啄ばむ。
「……」
 イルカは黙ったまま、暫くカカシの好きなようにさせていてくれたが、顔を離して見詰め合った時に、ふとその視線がカカシの左目に移動する。そしてゆっくりと手を持ち上げて、そっとその傷に触れた。
「…本当に、カカシ先生があの人なんですね…」
 そっとイルカの硬い指先が頬を辿る。あの時と同じように。
 あの時と違うのは、宝石のように真っ黒の双眸に見つめられている事、お互いに完全に素面である事。だからこれは気の迷いだとかその場しのぎではない。相手そのものを求める行為だ。
 そっとイルカがカカシの首に腕を伸ばして、カカシの事を抱き寄せた。
「…会えて良かった…!」
 その言葉にカカシはぐうっと腹のそこから波のようなものが押し寄せてきて、突き動かされるままにイルカの身体を抱きとめる。うなじや頬に吸い付いて、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「ちょっ…、かかっせんせ…っ 今までどうやって女の子を扱ってきたんですか…っ」
 イルカが呻きに近い抗議の声を上げる。思いも寄らないその言葉の内容にカカシは思わずイルカを手放して真意を伺うためにその顔を覗き込んだ。
「…今までそんな風に力のままに抱き寄せてたんですか…?もう少し丁寧に扱ってください…っ」
「あ、はい」
 イルカに言われるがまま、優しく首筋に吸い付き、そっと上着を押し上げようとした。
「えっ、ちょっと…!」
「なに…?」
 今度の制止の声にカカシは行為をやめなかった。イルカのジャケットのジッパーを引き下ろして、上着の中に手を入れる。柔らかい皮膚に覆われた肉を掴むとイルカの体がびくっと震えた。
「今するんですか…っ」
「…次の機会を待ってたらお互いこういうことに至りにくくありませんか?」
 最初が肝心ですよ〜と適当なことを言いながらカカシはイルカの首筋を舐め上げる。ひっと息を呑むイルカの様子が可愛い。
「…せ、せめて今度は柔らかいところで…っ」
 流石にその言葉でカカシの動きが止まった。一瞬硬直した後、カカシはイルカを慌てて抱え上げて、その際の抗議の声も聞かずに寝室に飛び込んだ。ベッドにイルカを投げ出すと手早くその衣服を全て剥ぎ取る。イルカはそれに少し抵抗したようだったが、カカシには全く障害にならなかった。
 何か言葉を紡ごうとする唇を自分の唇で塞ぎ、シーツに押し付ける。胸の下に敷いた身体は熱くて、こちらの熱もそれに煽られる。
 再会してどうしてこれまで手を出さずに居られたのか、今となっては理解できない。
「カカシせんせい…」
 艶っぽい声で名前を呼ばれただけで、カカシは歓喜に眩暈がするようだった。あの時カカシがイルカに名前を教えることが出来ていたら、こんな気分をもっと早くに味わえていたのだろうか。
「ごめん、余裕ないみたい」
 カカシはきょとんとしたイルカにそう最終宣告をして、そのぽってりとした唇に噛み付くように口付けた。抱きしめた手を下にずらしてすぐに穴を探る。勿論そこは乾ききっていてカカシを遇するような余裕はない。
「あ…っ」
 カカシは自分の指にたっぷりの唾液を絡ませて、アヌスにあてがった。もう片方の手でイルカの緩く立ち上がった性器を刺激すれば、カカシの唇に阻まれてくぐもった悲鳴が上がった。
「いや…っ、や…っ」
 すぐにそこはカカシと同じような状況になって、先からよだれをたらし始める。カカシは身体を下にずらして立ち上がったものゆっくりと舐め上げた。
「ああっ」
 そうだ、イルカはこの行為に恥ずかしがりながらも嫌いじゃなかった。気持ちよくなって悶えて、最後は全身を震わせながら我慢できずに白いものを漏らしちゃうほどに好きだったはずだ。
「だめ…っ、いやだ、カカシ先生…! 変に、変になる…っ」
 やはり感じすぎるのか、イルカは股座にかがみこんでイルカを責めるカカシの頭をどうにかしてはがそうと必死になる。
「ああっ、あ…っ、出る…、もう…!」
 そのまま口に咥えて吐き出されたものを飲み下しても良かった。しかしカカシはイルカの求めるままそこから顔を離し快楽に震えるその身体を抱きしめて、あとは指と掌での刺激を続ける。
「んん…っ、ふ…っ」
 耐え切れずにイルカが脚を伸ばしたり縮めたり、閉じたりするときにシーツとの衣擦れがおこってひそやかな音を立てる。カカシは興奮した呼気を抑えてイルカを横抱きにし、イルカがイく瞬間を虎視眈々と待った。
「み、見ないで…っ」
「無理でしょ、二年前から見たいと思っていたんだから…」
 イルカはその言葉にぐっとつまり、それからそんななけなしの余裕もカカシの手管に掻き消されて、ただ胸にすがるだけになった。
 弾力のある先端を執拗に弄り、握りこむように竿を扱くと、イルカの声が高くなり、あっという間にカカシの手に吐き出した。
 その瞬間のイルカの表情はたまらなくいやらしい。それまで反応の一つ一つが商売女よりもすごいと漠然と思っていたが、イルカの品行方正な普段を知ってしまった今、そのギャップと相俟って壮絶なほどの色気をカカシに印象付けた。黒の瞳は、清純さと色香を併せ持つ最強の目だと本気で考えた。
 カカシはその手を拭わずに、ぬめりをもっと後ろの穴に送り込む。
「ん…っ」
 快楽に弛緩したイルカの身体は、難なくカカシの指、一本目を飲み込んだ。それを中で縦横無尽に蠢かしながら、カカシは息の荒いイルカの唇を舐める。
「可愛い…。イルカ先生って、こんなに可愛かったんだ…」
「…この、バカ…っ」
 顔を真っ赤にさせてイルカはカカシを押しやろうとするけど、そんな動作は今更だ。それにもうイルカの性器は少し硬さを取り戻している。
「そうかも」
 おしゃべりはそこまで、とカカシはイルカに軽く口付けて、その唇を胸のとがりにもって行き舌を這わせれば、イルカが触れられた途端に息を呑んだのがわかった。
「あ…っ、あん…っ」
 中をかき回しながらその尖りを強く吸ってやればイルカは甘い息を吐き出し、腰を浮かせる。二本三本と指を増やしていけばそこは拒むだけではなく、締め付け誘い込むように蠢動して、カカシを誘った。
「アアッ!」
 びくっとイルカの腰が震えた一点は、二年前と変わらないイルカのいい場所のようだ。繰り返し何度もそこを性器で突き上げるように刺激すればイルカは甲高い声を上げて仰け反る。
「…後ろで感じちゃうのは、相変わらずだね…」
「…言うな…っ」
 恥ずかしそうに赤らんだ目の縁に涙が溜まっている。ぽろっとそれがこぼれた瞬間にカカシはぐうっと腹のそこから競りあがる性欲を感じた。
 あれだけ性欲を持たないかもしれないと不安に思っていた日々がアホらしい位に、カカシは今旨そうなイルカを目の前にして性欲に塗れてしまっている。カカシの性器も服の中で痛いくらいに張り詰めて、解放を訴えていた。
 手早くカカシも全裸になって圧し掛かればイルカは両手を広げて迎え入れてくれた。
「かかしせんせい…っ」
 続きをねだるように身体を擦り付けて来るイルカの両足を思い切り広げて、そこに身を進めれば、イルカは苦しみに耐えるように仰け反って、顎の裏をカカシに晒す。
「はあ…っ、ん…っ」
 寄せられる眉根やきらきらと光る黒目を見ながらゆっくりとカカシはイルカの中に入り込む。熱くて狭くて、吸い付いてくるような中に、魂を持っていかれそうだ。
「あ…、――――っ」
 最後奥まで貫くようにぐうっと中に張り込むと、イルカが黒い瞳を見開いて身体を強張らせる。中のいいところを擦られた所為なのか、触ってもいないのにイルカの性器からはとろっと白い液体を溢れさせていた。そしてその影響で中が引き絞られて、油断した瞬間に目の前が真っ白になってしまった。
 あっと思った瞬間にはカカシは既に中に吐き出してしまっていた。
 もしかしてさっきのイルカの声だと思った声は自分の声だったかもしれない。意識的に声を抑えられないほど突然カカシは持っていかれてしまった。
 酷いと思うのと同時に、恐ろしく気持ちよかった。
 もう二年前の快楽の記憶なんて殆どないけれど、それの遜色はないくらいに気持ちがいい。カカシが進入してしまっただけでイってしまった感じやすいイルカのお陰だが、入れたすぐ後に暴発なんて経験初めてだ。そもそもイルカを好きになってから誰一人抱いていない身だから、右手だけでは発散できない欲求が溜まっていたのだろう。
 カカシは何とか自分にそう言い訳を付けて、息の荒いイルカの中に少し力をなくした竿を入れっぱなしにして抱きしめる。少し腰をゆすればまたすぐにでも固くなりそうだったが、続けざまに二度も吐いたイルカを落ちつかせるために、出来るだけ緩やかな動作でイルカを腕の中に収めた。
「…やっぱり…変…」
 イルカは息も絶え絶えでカカシにそう訴える。無防備に開かれた唇は真っ赤に染まってイルカのエロさを引き立たせていた。
「…何が…」
 カカシも頂点に達した後なので、必要以上にけだるい声になる。しかし、イルカはその声にすら反応してくれるようで、ひくりと中のカカシを締め付けた。
「…からだ…。いつもこんな風にならない…のに…」
「…いつもっていう発言が気になりますね…」
 カカシはイルカの髪を梳くためにその髪紐を解いた。白いシーツにぱらっと黒髪が広がるのは絵になった。カカシが白いシーツを使うのは自分の髪の毛が落ちても目立たないように、というずぼら精神からだったが、イルカの髪が残った場合には目だっていいかもしれない。そんなくだらないことを考えてしまうカカシの脳は、既にイルカに向けて腐ってしまったのだろう。
「…『これまで』に訂正します…」
 それはそれで気になるのだが、あんまりにも気分が良かったからカカシは深く追求する事をやめた。だってイルカは薬に感染していたあのときと変わらない達成感があったと言っているのだ、これで浮かれないわけがない。
 その浮かれ具合は下半身にも影響が出たようで、イルカが圧迫感に顔を歪ませた。
「…お強いのは薬の所為じゃなかったんですね…」
 快楽の坩堝に落ちる一歩手前の冷静さなのに今にも泣きそうな顔でイルカは一言そう漏らす。
「そうですよ、覚悟してくださいね」
 お互いに抱きしめあう形でカカシが奥を突けば、イルカは柔軟にその衝撃を快楽と受け取り、そのイルカの反応がカカシを締め付ける。まるでお互いに快楽をフィードバックすることのできる相手を見つけることは難しい。それなのにカカシは見つけてしまった。それも愛する人間として手に入れることが出来た。
 泣きそうなくらい幸せな気分でゆるゆるとイルカを抱く。イルカのほうは感極まって何度も泣いた。
 カカシも横で眠るイルカの穏やかな寝顔を見て、眠りに就く前に一筋涙をこぼした。
 それは誰に捧げられたものか分からない涙だけど、カカシは祈りたい気分だった。



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