その戦闘は夕方まで続いた。味方が善戦したのかどうかなんていつの間にか夢中になっていたカカシには解らなかったが、始終カカシの相手をしていた敵に余裕は無かったし、引き上げたところを見ると、敗走したように見える。
刀の血糊を拭ったが脂までは払拭できず、仕方なく抜き身のままで誰かと合流するために森を移動した。
カカシに異変が襲ったのはその途中の道だった。
体中に熱い蛇が這うような感覚が腹の奥底から湧き上がりふつふつと煮えたぎる。
最初は人殺しのあとの興奮かと思ったが、何時にも増して勢いが激しく、押さえ込む事が難しい。長手袋の中は汗をかいているようだ。
――――まさか、これが。
薬の効果だと、そう気づいた時には既にいつもどおりに大地を駆けることは困難になっていた。全ての力が肚に奪われ膝や指先に力を込められない。効果自体が生き死にに関るような状態ではないという事は解るが、それによって力が奪われるのは歓迎いたしかねる事態だ。
「やばい…」
きっと部下達もこういう症状が出たのだろう。これでは歩く事も侭ならないな、とカカシは自嘲する思いで足を引きずるようにして進む。
確かに開放したくてたまらない。時々眩暈のように目の裏が白く霞むのを感じた。カカシもキャリアの一人だったのだと漸く自覚したのだ。
早く何とかしないと、と思うものの身体は意志の通りには動かず、自分の唇を乾かすほどに熱い息が漏れているのを感じる。もう相手が男でも女でもどちらでも構わないと本能は訴えているが、そこには生憎カカシが一人きりだ。
地図を確認して何とか川を目指す。身体を冷やしてどうにかなるものではないと解っていても、この下半身から湧き出るような熱をどうにかして押し留めたかった。
できるだけ急いで川へと向かうが、それも眩暈と熱のために普通に歩く速度とあまり変わらない。この調子では川への到着は半時ほどもかかりそうだ。自分がそれだけの時間耐えられるだろうか。今にもズボンの中に手を突っ込みたい気分で、触らなくても解るが今既に股間は硬くなってしまっている。
その時がさりと右手の茂みから音がして、カカシははっと振り向く。今まで人の気配は無かったのだから、それは獣か忍びか。カカシは咄嗟に手にしていた刀を構える。
「『火の奥に』…」
カカシがそう声を掛けると、ふっとその気配が明瞭になってひとりの人間が立ち上がった。
「『ぼたん崩るる』…!」
木の葉の合言葉を正しく返した声は健全な男の声だ。
「木の葉の忍びか」
カカシがほっとして切っ先を下ろすと、男はがさがさと無防備な音をたてて近寄ってくる。夜色の髪が既に暗くなった森の中に溶けていて、遠近感を狂わせている。それともカカシの視界にガタがきているのか、男は案外近くに潜んでいたようだ。
間違いなく木の葉の額宛をした男は、鼻梁を横切る傷を持った凡庸な顔の――――どうやら中忍だろう。
「わっ大丈夫ですか!」
男はカカシを見るなり一歩後ずさる正直さを見せたすぐ後に顔をゆがませて、手当てを、と申し出てきた。
「いや、殆ど返り血だから大丈夫。それよりもあんたはここで何を?」
「あ、後方のトラップ班所属で班長達と待ち合わせをしていたんですが、戻って来ないので…」
それはもしかして、この男だけが迷子になったのではないかとカカシは一瞬思ったが、それは口に出さなかった。
それに、それならば都合がいい。
「ちょっとついて来て。俺チャクラが切れ掛かっててしんどいのよ」
男ははい、と一つ返事でカカシに肩を貸してきた。進む方向を教えてやれば男は巧くカカシを庇いながら歩き出して、カカシが一人で歩くよりは格段に速度が上がった。
男は朴訥な顔をしていたけれど、じっと伺ってみればけして醜くもないし、肉感的な唇は魅力的ですらある。
そう思えば思うほどそれが薬の効果なのか、身体の熱が上がってくる。外套を脱ぎ捨てていなくて良かった。外套で身体を覆っていなかったら如何にこの男が鈍くてもカカシの高ぶりに気がつかない訳が無い。
「陣地に戻らなくていいんですか?」と訊ねる男にカカシは曖昧に応えただけで、今からこの男にどんなことをしてしまうのか自分でも想像出来なかった。
聞きもしないのに、男は自分をイルカと名乗り、階級を中忍だと言った。カカシは勿論自己紹介することも出来ないし、男は期待しているわけでもなさそうだった。
たどり着いた小川は部下達のいる川のはるか上流且つ支流にあたる僅かな流れで、流れ自体は緩やかで深さも脹脛くらいまでしかなかったが、途中に流れが淀んでいる場所があり、小さな池のような体をしている場所があったので、カカシは着衣のままその水の中に入っていた。しかし、そんなことをしてもやはり熱は散らない。
「本当に部隊に戻らなくていいんですか?」
イルカはカカシの立場を知らないようではらはらと誰が居るわけでもない周囲を見渡している。どうやら彼は規律を守ろうとする律儀な性格らしい。
「大丈夫。アスマにも言ってあるから」
隊長の名前を出せば、イルカはそうですか、とあまり納得していないような声を出したが、少し落ち着いた様だ。すぐに帰る事は無いと悟ったのかカカシのために水気の無い岩の上で火を熾してくれる。気の利く様子に少しばかり胸が痛んだが、カカシはもうそんなことに気を遣っているだけの余裕は無かった。
ざぶざぶと水から出ると火に乾いた小枝を投げ入れているイルカの腕を掴む。
「…え?」
きょとんとした子供のような顔だ。今から自分がどんな目にあうのか全くわかってないという表情で、カカシの事を見上げている。
「今から、あなたを抱きますよ」
そう告げてもイルカは表情を壊さず、真っ直ぐカカシを見つめるだけだ。その濡れたような唇にカカシは誘われる。手早くイルカの額宛を彼の目までずらして目隠しにすると、今までずっと邪魔だった自分の面とマスクを剥いで、唇を吸う。
途端に甘い感覚がカカシの中に突き抜ける。粘膜が絡むのでさえ気持ちよく、カカシは驚いて硬直したままのイルカの口内に舌を侵入させた。
「ちょっ…なに…をっ」
イルカが我に返ってカカシの身体を突っぱねようとするが、暗部の顔を見てはならないという理性は失っていないようで、自分の額宛を上げて視界をクリアにしようとはしなかった。
「ごめん、薬をかがされてるの。媚薬」
そう言いながらカカシは恋人に擦り寄るしぐさで、イルカの頬に口付けて腰の高ぶりをイルカの柔らかい太ももに擦り付ける。イルカは目に見えて震えて、何かを言おうと口を何度か開閉させるが、言いたい事を思いつかなかったのか、そのまま唇をかんで俯いてしまった。きっと男同士だからだとか、顔も知らないのに、とかそういう道徳的なことを言いたかったのに違いないが、カカシとイルカの立場と出会い方や場所などを思い出して、何一つ選択肢が無かった事に思い至ったのだろう。カカシにもイルカにも選択の余地はなかったのだ。
カカシもこんな善良な仲間を犯したくは無いのだが、身体がその理性を完全に裏切っていて、その自制心さえも薬の効能が凌駕しようとしている。
「ごめんね」
カカシはもう一度謝るともう一度イルカの唇を丁寧に吸った。男との経験は今まで無かったけど、この感覚は女とするのと変わらない。とてもいいものだと思う。里支給のジャケットを剥がして衣服の上から硬い胸板をまさぐってもカカシの劣情はちっとも衰えず、それどころかキスに対するイルカの初心な反応に煽られる始末だ。焚き火の所為かもしれなかったが、赤く染まった頬が彼の必死な心情を表しているようだ。
意に沿わぬ性交につき合わされているのだから、少しくらいは気持ちがいいと思ってもらいたい。そう感じてくれればきっとカカシにもイイだろうということが簡単に想像できた。だからカカシの愛撫も自然と丁寧なものになっていく。イルカを組み敷くまであんなに切羽詰っていたのに、不思議な事だが今は相手のことを考える余裕がある。勿論下半身は硬いままだが、吐き出したいという欲望よりもこの羞恥に身を染めた男を啼かせたいと思う気持ちが強かった。
「こ、こんなところで…っ」
イルカの言い分はもっともだが、今したいのだし都合よく廃屋とか洞窟があるわけでもない。しかし、ここは川のそばで木々が開けている。目隠しをしていても、ここが外であるということを忘れられないのだろう。
「じゃあ、茂みの中のほうがマシ?」
耳に吹きかけるようにして聞くとイルカは一度大きく戦慄いて、それから何を考えたのか、ここでいいです、と呟いたのをカカシは聞き逃さなかった。確かにここなら大きな岩も多く虫が潜んでいる事は腐葉土の上よりも少なく思える。
一度イルカの身体を引き起こし、カカシの外套とイルカのジャケット上着を重ねた上に上半身を剥かれたイルカを横たえて、まずは首筋を吸った。
「あ…っ、何…!」
突然身に起きた事にイルカはついていけずに、悲鳴に近い声を上げる。それも仕方ない事だ、視界を奪われた今、イルカの感覚は鋭敏になるだろうから。視覚による次の動作に対しての予想が全く立てられないのだから。
ただ舌で首筋を舐め上げただけなのに、敏感な反応に気をよくしてカカシは耳殻を甘噛みしながらほぼ筋肉だけの胸をもみ上げる。
色づいた柔らかい部分に指が触れると、イルカはびくっと身体を震わせてそこが気持ちいいのだと素直にカカシに教えた。
まるで、男が初めてではないかのような敏感な反応を返す。
「もしかして初めてじゃない…?」
「…初めてですよ…ッ!」
イルカは半ばやけくそになったような怒気を孕んだ声をカカシに投げつけるが、それに勿論照れ隠しがふんだんに含まれていることにカカシは気が付いていた。イルカの不安を煽らないためにも、カカシは自分も男が初めてである事を告げずに、小さな乳首を指で転がした。
イルカの唇が真っ赤に染まって、色が付いたような熱い空気を吐き出している。
こんなに敏感な相手でよかったと思いながら、イルカのズボンと下着を一緒に引き抜いた。
「あ…」
そのとき目に入ったものは、ぷるんとゆるく立ち上がったイルカの性器だ。すでに先端が濡れ始めている。
イルカはその事に気づいているのか居ないのか、恥ずかしげに脚を閉じようとしていたが、カカシはそれを許さずに足首を掴んで左右に広げた。
「ひ…っ、やだ、恥ずかしい…!」
イルカはきっと身体を起こしてカカシをはがしにかかろうとしたのだろうが、それよりもカカシがイルカの性器に舌を這わす方が先だった。
「――――ヒ」
捉えていた足首がカカシの手を振り解き空を蹴る。イルカの性器も震えて一層硬さを増した。
カカシに嫌悪感はまるで無かった。
自分にこんな状況を許容するだけの広い性癖の持ち主だなんて思いもしてなかったのに、イルカの性器をそのまま口に含んで、舌を絡める事ができる。
「や…っ、やだ…っ! なんですか、ソレ…!」
勿論そんな光景もイルカに見えている訳が無い。おそるおそる自分の下半身に手を伸ばして自分の性器を覆うものを手で確かめようとして触れたものは、カカシの頭だった。血に塗れて固まりつつあるけれど、イルカの手には髪の毛だという事が解ったようで、小さく悲鳴を上げた。
「駄目です…っ、そんな…」
しかしカカシはそんなイルカの言葉なんか聞く耳を持たずに行為を進める。
迷いなく唾液をたっぷりとイルカの竿に絡みつかせて、唇で扱き上げる。今まで女たちに奉仕してもらった事を思い出しながら、張り出した所や先端の穴を舌先で刺激すれば、イルカの体が面白いくらいに跳ね上がった。
どうやらあまり経験の無い身体のようだ。カカシの施す事全てに敏感な反応を返してくる様はこっちの情欲まで煽る。
この人はいい。カカシはそれが舌に合う食べ物であるかのように夢中になってイルカに吸い付いた。
零れ落ちるイルカの体液とカカシの唾液を指に絡め取り、後ろの穴に擦り付ける。最初は緊張していたようだが、執拗に行為を繰り返しぬめりを帯びてくるようになると、イルカの体から力が抜けて、ただ快楽を享受するだけになる。
頃合を見計らってカカシは後ろに指を付きたてた。
「あ…っ」
イルカは眉を引き寄せてその感覚に耐えているようだ。その顔にまたカカシの箍が一つ緩む。
ここに入れたい。
カカシが施した水分をたっぷりと含みきゅうきゅうと指を締め付ける穴は、本来性器ではないことは分かっているのに、カカシを誘っているように感じた。そして、苦しみながらも抵抗一つしないイルカの様子がカカシを受け入れてくれているようだから、その感覚はとどまる事を知らない。
すぐに指を二本に増やして中を掻いてやると、イルカは耐え切れないように声を漏らした。
「あっ、いやだ…、な、何…っ」
急にカカシの口に含んでいた性器が膨れ上がり、イルカは精を吐き出してしまった。
「ぶ…っ」
咄嗟のことにカカシは口を離す間もなく、かといって飲み込むことも出来ずに、そのまま吐き出してしまった。口の周りはイルカの精液塗れになっている。
「――――すみません…っ」
イルカは荒い息のまま身体を起こそうとしたが、中にカカシの指が入っていることを射精のショックで失念していたらしく、「あ…っ」と腰に来るいい声を上げて、震えてしまった。
カカシは口の周り簡単に手の甲で拭っただけで、イルカの中にある二本指をうごめかせる。
「あ…っ、やだっ、あっ」
ある一点を突くとイルカは初めてとは思えない声を上げながら、それが演技ではない証拠を見せ付けながら善がる。
あっという間に一度達したはずのイルカの性器が立ち上がってしまっていた。これではまるで、カカシではなくイルカが媚薬に冒されているようだ。くたりと力なく横たえられた身体は、カカシの手練手管によっていいように動かされて、喘いでいる。愛撫に夢中になっているその姿は壮絶に艶かしいものがあった。
ただの凡庸な男に見えたのに。
高級な芸妓とはまた違うつやのあるこの男を支配したくてたまらない。
「あんた、かわいいね…」
思わず呟いてしまった言葉には獣のような情欲がふんだんに含まれていることにカカシは気づいていなかった。しかし、イルカも熱と快楽に膿んだ頭ではそれに気づくことも出来ずに、言葉を額面どおり受け取る事さえなかった。
ただたっぷりと欲に塗れた口付けを交わして、抱きしめてくるカカシの背中に手を回した。
もはやイルカの脚を開かせる手は要らなかった。抱きしめて穴に指を突っ込んでやればイルカは喘ぎながら自らそこを晒すように腰を押し付けてくる。だから空いた手で括られた髪を解いて梳き、喘ぎを引き出すために乳首を責めた。
「あっ、いや…っ、んん、ん…っ」
イルカは自分がどんないやらしい状態になっているか気づいていないだろう。頬も乳首も真っ赤に染めて、唇の端からよだれがこぼれている。もう後ろには三本の指を飲み込みカカシが突き上げるごとに立ち上がった先端から透明な汁をこぼしていた。
無骨な男なのに。
カカシが知ってしまったイルカのイイ中の一点を突き上げると、ひっとイルカはのどをさらけ出してしなった。
それを見た瞬間、カカシはもう我慢出来なかった。
前たてを寛げるとすでに臨戦状態の陰茎が顔を出す。イルカが名残惜しい声を上げたがそれに構わずに指を引き抜き、その手を添えて先端を押し当て入り口に潜り込ませた。
「あ…っ」
イルカがためらうように息を吐き出しだが、それに構っている余裕は無く、先端を入れた途端に、もっと奥へという欲望が一瞬にして高まった。
それでもできるだけゆっくり肉を掻き分けて、その肉に圧迫される感覚はたまらなく良かった。
「あ…、ああ…っ」
見えもしない顔を背けて、イルカは必死にその衝撃を耐えようとしている。与えている衝撃はきっと大変なものだろうとは思うが、全て収めきっても自分のものはこんなに短かっただろうかと錯覚するほど、もっと奥に潜り込みたくなる。おんなとちがって奥底がない所為なのかも知れない。ただつっこむだけでは到底満足できずに、カカシはイルカを突き上げた。
「あっ!」
鋭い、悲鳴のような声がイルカの咽喉を震わせた。
果てを求めたはずなのに、擦られる気持ちよさにその目的を奪われて、カカシは何度も腰を振りたてる。
「やっ、あ…っ、もっと、ゆっくり…ィっ」
泣いているような声でイルカが訴えても、止まることの出来ない快楽に下半身がどっぷりと浸っている。吸い付かれて熱を与えられて、溶けて消えてしまいそうだ。
「…すごい…」
無理矢理男に犯されているはずのイルカは性器を立ち上がらせたまま、カカシが腰を押し付けるたびに女のような声を上げて身体をくねらせていた。その動きがまたカカシの物を飲み込もうとする中の動きに酷似していた。
カカシも入れて長くは持たず――――そこに至るまでたっぷりと我慢してきた所為で――――、あっという間にイルカの中に漏らしてしまった。
「――――く」
奥歯を噛み締めていなかったら自分もイルカみたいに声を上げてしまいそうなほどの快感だった。膝が震えているのを止められない。
「…あ…っ」
中で吐き出されたのが分かったのか、それとも急に勢いを失って中のものが若干柔らかくなったことに不満なのか、イルカは僅かに腰をカカシに押し付けてくる。
カカシはそんなイルカに敬意をたっぷりと込めた口付けをすると、腕と脚がカカシの身体に巻きついてきて、イルカ自身がカカシに身体をこすり付けてきた。腹に当たるイルカのものは未だに勢いを失っていない。
「な、なんか体が変なんです…っ」
イルカは今にも泣き出しそうな声でカカシにそう訴えた。
「熱くて、気持ちよくて…」
きゅうきゅうと中に納まったままのカカシを締め付けて、蠢く腰が柔らかく刺激してくる。薬の蔓延した身体にはそれだけのことで十分臨戦態勢になってしまう。
「…もっと――――」
その次の句をイルカには告げさせずに、カカシは口付けでその唇を塞いだ。尻を掴み自分の方へ引き寄せて押し込む。カカシの口の中にイルカの声が吸い込まれた。
柔くはないし細くはないし、けして美しいわけでもないのに、この人が一番自分に相応しい人だと感じるのは、カカシとイルカの間を媚薬がうまく噛み合わせてくれているのかもしれない。
取りすがってくれるイルカを繋がったまま膝に抱き上げると、繋がりが一気に深くなる。尻を分けてもっと奥に突き進めると、感極まった声を上げてカカシの腹に性器を擦りつける。
「ああ…、あ…っ、あ…ン、んん…」
イルカがイニシアチブを取れる体勢での交わりは、少しばかりカカシには物足りなかったが、気持ち良さそうに唇を半開きにして感じ入っている様を見たいだけ見ていられるのはやぶさかではない。本当は目を隠す額宛ても奪って寄せられる眉や、快楽に曇る黒曜石の瞳を見ていたいと思うが、それだけは何とか理性で押し留めた。
見られてしまえば、カカシは暗部に居られなくなるか、若しくはこの純朴な男を暗部に引き込むことになってしまう。イルカに血の匂いは似合いそうにも無かった。
イルカに与えられるぬるい快楽に耐えられなくなって、カカシはイルカの腰を捉まえて下から突き上げた。
「ああ…っ!」
自分のリズムを崩されたイルカは非難の甲高い声を上げたが、カカシは聞く耳を持たずに――――それを鑑賞する耳は持っていたが――――、構わずに奥を何度も突き上げる。
振り乱された黒髪が、汗ばんで赤い頬に張り付く様はまるで風俗の女顔負けの色気をまとっていて、いくらでも搾り取られそうだった。
「ひああん…っ、ふぁ…あ、んん、ん…っ」
イルカの先端はカカシの腹に擦られて、既に先っぽがはじけそうになっている。そろそろ限界が近くなっているのだろう、手で追い立ててやろうとイルカの腰から手を離そうとする。しかし、その前に迷い無くイルカの手が自身を掴んで、カカシの目の前で擦り始めてしまった。
「…見るな…っ」
目の前の展開に見るなという無理な注文に、カカシは興奮しながらも少し笑った。
「見ないよ…。好きなだけ、して…て」
そうしてカカシはイルカの感じる部分を容赦なく突き上げて追い上げる。
「アー、あぁっ!」
一瞬イルカは身体を強張らせて抱きしめたカカシの身体も、中に入り込んだカカシも締め付けて精を吐き出した。
「――――く…っ」
カカシはその強烈な波を何とかやり過ごして、ぐったりと寄り掛かってきたイルカの身体を抱きとめた。
お互いに荒い息を吐き出してくっつく身体さえも気持ちがいい。カカシはイってもいないのに一緒に溶けてしまったかのようだ。
頬に張り付いた髪の毛を後ろに流してやるとそのままイルカが顔を寄せてくる。目の見えないイルカにあわせて場所を修正して唇を重ねた。
甘い食べ物は好きではなかったが、この人は甘露だ。まるでとろけてつややかな。
「…イルカ…」
思わず名前を呼ぶと、イルカの表情が一瞬正気に戻る。それから苦しそうに唇を噛んでそれからぎゅっとカカシに抱きついた。それから服を着たままのカカシの上着を引っ張り剥がそうとする。それに従ってカカシも服を脱ぐと目の見えないイルカが恐る恐るカカシの肌に触れてくる。脱げと指示したのはイルカのほうだったのに、おかしく思いながらも遠慮を払拭させるために、カカシがイルカのその手を取って指先に口付けた。そうすることがその時には自然だと感じたからだ。
イルカは暫く戸惑った様子だったが、カカシが何も気にしない事がわかるとそっと顔を探ってくる。
暖かい指がまず顎に触れて、それから躊躇って髪を梳く。掌をそっと頬に当ててくる。少しずらして左目を縦に走る傷に手を触れて、びくっと肩を震わせた。
「…もう痛くはないよ。随分昔のものだから」
そのカカシの言葉にイルカは何度か口を開けたり閉じたりしたが、結局、そうですか…と顔を少し伏せたようだった。この人だって顔に派手な傷を持っているのだから、きっと感覚は変わらないはずだ。
「…それよりも…」
カカシは煽られるだけ煽られて、放置されているような状態なのだ。そしてカカシを包み込んでいるイルカは今もずっとやわやわと刺激している。
「………」
そろそろとイルカの手がカカシの背中に回される。ゆっくりと躊躇うように自分の頬をカカシに宛てて、それから顔をずらすようにして唇を捜し当てる。ちゅっと吸い付いて俯いてしまった。
「それっていいってこと?」
声にすこし笑いが含まれてしまったのが気に入らなかったのか、イルカは少しだけ膨れた。
「…いまさらでしょうに」
本当にそうだ。すでにつっこんでいてびんびんなのだから、今さら遠慮なんてしないし、出来そうにもない。
ここが本当は自分のベッドだったら無茶してもいいと思うのに、残念ながら天幕もない外での行為で、しかも岩の上。そこに脱ぎ捨てた衣服を敷いただけの粗末な褥。こんな性交は初めてだ。
そこにイルカを再び横たえて肌を吸えば、治まっていたかのように見えた情欲が下腹部からこんこんとわいてくる。
こんな薬に冒されれば確かに戦意も失うだろうと、事の次第を思い出したカカシだったが、そのことさえ、二人の熱がお互いを行き来するごとに灰になって散ったかのように、カカシの思考から消えていった。
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