第三話 くだらない話
「なかなか出来ませんね」
情事のあとイルカの腹にぺったりと顔をくっつけてカカシが言った。鋭敏になった肌はカカシが喋る振動だけでまた快楽を拾い上げようとしていた。上手く整わない息を小さく飲み込んでそれからゆるゆると吐き出すと、イルカは腹の上に乗ったカカシの頭をくしゃりと混ぜた。
「何がですか」
柔らかいカカシの髪の毛。イルカの毛並みはどちらかというと堅い方だから、つい気が付くとカカシの髪の毛に手を伸ばしている。柔らかくてふわふわしているそれを情事の最中にかき混ぜるのが好きだ。
カカシには絶対に言わないけど、本当にすごく好きなのだ。キスをするカカシの髪にそっと手を差し入れてくしゃくしゃと混ぜるその瞬間が。とても。髪の柔らかい感触が手の平から伝わって、じんわりと温かい気持ちになるのだ。
こうして情事のあとの気怠い空気の中でカカシの髪を触るのも気持ちいい。少しだけ湿ったいつもと違う感触がすごく、いい。イルカに撫でられるままに気持ちよさそうに目を細めたカカシは、もう一度腹の上で出来ないかなぁ、と呟いた。そうして汗ばんだイルカの肌をやんわりと撫でる。
「カカシさん?」
愛撫と言うには物足りない優しい触れ方。イルカのへそにキスをして、カカシはゆったりと顔を上げた。
「子供」
そのままずるずると伸び上がって、カカシはイルカの顔を正面から至極真面目に覗き込んだ。
「子供、出来ませんね」
そうして再度イルカの上に乗り上げるとその鼻先に小さなキスを落とした。ちう、と音を立てて離れていったカカシをイルカはぽかんと口を開けたまま見つめた。この男、何を言っているのだろうか。
「……カカシ、さん?」
ぎゅ、っと抱きつくカカシを受け止めて、イルカはその名を小さく呼んだ。まさか、まさかとは思うけれど。
「あの、オレ、オスだから子供産めませんよ?」
まだ汗の引かない湿った肌を撫でて、言い含める様にカカシに言ってみた。本気だとは思わないけど、本気だったらちょっと怖い。
「何言ってるんです、イルカさん」
ごろごろとイルカに懐いていたカカシはがばりと身を起こすと真上からイルカを見下ろした。
怖い、目が本気だよ。引きつった笑みを浮かべたイルカのことなど特に気にしないままカカシは真面目な口調でこう言った。
「いいですか、メスだからとかオスだからとかが問題じゃないんですよ。受けか攻めかです。受けは子供産めるんですよ!」
真面目な顔のままもの凄く意味不明な言葉を発したカカシをイルカはどうしたらいいのか分からなかった。諭したらいいのか叱ったらいいのか、それとも無視してもう寝るべきなのか。なんというか、もうどこを突っ込んだらいいのかそれさえも分からない。
「イルカさん、聞いてます?イルカさんは受けだから子供産めますよ!大丈夫」
自信満々に言われてもイルカに出来ることといったら、薄ら笑いを浮かべることぐらいだ。
「オレとイルカさんの子供、可愛いだろうなぁ…」
うっとりと遠くに目を馳せるカカシ。一体何を見ているのか。もうこれ以上は怖くて聞きたくない気がする。
そんなイルカの気持ちなんかお構いなしにカカシはうっとりとしたまま話を続けていた。
「どっちに似るんでしょうね。毛並みはオレに似るのかな、それともイルカさんかな。目の色はイルカさんに似た方がいいよね。オレすごい好きなんですイルカさんの瞳の色。そりゃもちろん目の色以外のところも好きですけどね。あぁ、でもどっちかっていうとイルカさんに似て欲しいよね。可愛いだろうなぁ、イルカさん似の子供…」
何を言ってるんだか、と思う反面イルカもなんとなく自分たちの子供のことを想像してしまった。カカシはイルカに似た方がいいと言うけれど、絶対カカシに似た方が可愛いと思う。
ふわふわの銀の毛並みの小さな猫。オッドアイにはならないだろうから多分青い瞳を受け継ぐんじゃないだろうか。それとも毛の色だけは自分に似たら黒いふわふわの毛並みに青い瞳ってことになるのかな。それも悪くないかも。
顔は絶対カカシに似た方がいい。オスだったら格好いい猫に育つだろうし、メスだったらすごく美人になるに違いない。
うん。カカシに似た子がいいな。
「オレはカカシさんに似た子供が欲しいです」
イルカに乗っかったまま子供の妄想に一人浸っていたカカシは、その言葉ににこりと顔を綻ばせた。
「そうですか?でもイルカさんに似た方が可愛いと思いますよ」
頬をすり寄せながらカカシは言う。イルカはその背中を抱きしめて、そうだろうか、と思った。そんなことないと思うけど。
「ネェ、イルカさん。もう一回頑張っちゃおうか?」
頬にキスを落として、そうしてカカシはイルカの耳をぱくりと齧って言った。耳に吹き込まれた声と齧られる感触にイルカは首を竦める。
「な、何いってんですか?!子供なんて出来るわけないでしょ!」
ちゅっ、ちゅと顔中にキスを振らせるカカシを引き剥がしながらイルカはあわあわと身を捩った。
「オレは雄です、産めませんたら産めません!」
じたじたとカカシの下から這い出ようとしたら項にがぶりと噛みつかれた。
「何言ってんの。イルカさんだってちょっと乗り気だったクセに。成せば成るかもしれませんよ」
くつくつと笑いながらイルカはカカシの背中にどっしりと乗りかかった。
「駄目です、もう今日は無理ですよ!」
さっきから何度したと思ってるんだ。身を捩って必死で逃げようと試みるけれどそれは無駄な抵抗だった。がっちりと肩を押さえられ、そうして腕を縫い止められる。
「もう一回だけ、ね?」
そうして後口に押し当てられるカカシの熱源。何が、ね、だ。そう言って一回で終わったことが一体どれほどあったと思ってるんだ。
「駄目です!」
必死の抵抗もむなしくカカシの精液がたっぷりと注がれた後口は、押しつけられた性器を簡単に飲み込んでいく。
「もっ、や、やだっ………!あぁっ!」
「あー、気持ちいい」
ずぶずぶとイルカの中に押し入りながらカカシがうっとりと呟いた。子供の話はどこまで本気かイルカには判断が付きかねたけれど、今日は気を失うまで責め立てられるに違いない。
快楽に歪む思考の中、イルカはカカシの有り余る体力と意味不明の思考回路にほんの少しだけ泣きそうになった。
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