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 別にいい。勘違いでも何でも良い。カカシが優しくしてくれるなら、それがイルカ個人に優しくするのとは意味が違っても良い。ただ商品を大事にするのと同じことだとしても、構わないではないか。
 もう彼とは会うことはないのだから。今日で最後。これっきりなのだから。最後に冷たくされるよりはきっとずっと良いに決まってる。
 濡れて肌に張り付いたカカシのシャツに頬をくっつけて、イルカはその広い背中にそっと手を這わす。
 埋めた肌からはひどく馴染んだカカシの匂いがした。甘えたように頬を寄せるイルカをどう思っているのか、カカシは何も言わないままただ抱きしめてくれている。
 そうしてゆるりとイルカの背骨をカカシの手が撫で下ろした。教え込まれた感覚がぞくぞくと這い上がる。
「アンタちゃんとここ洗ったんですか?」
 耳元で甘い声がして、イタズラなカカシの手が背筋なぞり奥まったイルカの秘部につぷりと差し込まれた。
「…あっ、や…やだ…」
 カカシの長い指が何の潤いも与えられないままのそこにぐいぐいと進入してくる。昨夜さんざんカカシの精液を飲み込んだそこは易々と指を飲み込んでしまった。
「あぁ、まだすごく濡れてる。自分じゃ洗いにくかった?」
 ざあと流れるシャワーの音に混じって、くちりと粘着質な音がイルカの鼓膜を振動させた。嬲るようなカカシの声は低く甘くイルカの思考を鈍らせる。
「しょうがないですね、オレが洗ってあげますよ」
 くすりと笑ったカカシの声が聞こえてイルカはかっと頬に血を上らせた。
「…えっ、や、やだ…!」
 カカシの言葉にイルカは慌てたように身を捩ったが、もう遅い。イルカの抵抗などまるで気にしないままカカシは二本目の指をねじ込んだ。
「ひ…ぅ……んっ」
 狭く窄まった後口を広げるようにカカシの指はうごめいている。掻き出すようなその動きに、イルカの体内に留まっていた濃い液体がどろりと内股を伝った。カカシの前で粗相をしているみたいだ。ひどい排泄感に苛まれながらイルカはカカシの濡れたシャツをきつく掴む。ぞくぞくと身を震わせながら堪えきれない嬌声がイルカの唇からこぼれ落ちた。
「…あっ……んん!」
 こんなことすらもイルカの中の快楽を呼び覚ましてならない。ぬちゃりと音を立ててカカシがイルカの内部をかき回すたびに、とろとろと飲み込んだ精液が流れ落ちていく。
 堪えられない、と思った。カカシに後を弄られ指を突っ込まれるだけで、教え込まれた快楽がずるずると目を覚ます。
 堪えられない羞恥だ。何という浅ましい身体。上がる息が押さえられなくてイルカはカカシの肩に噛み付いた。昨日カカシにひどく爪を立てたのと同じ理由で。
 何の気まぐれか知らないけれど、カカシとの情交をもう一度持つことが出来るのなら。もう少し深くカカシに傷を残したって構わないではないか。
 噛み付いたイルカをどう思ったのかは分からないけれど、カカシは小さく痛みに息を詰めただけで何も言わなかった。そうしてカカシは噛み付いたままのイルカのこめかみに小さなキスを落とす。
 優しいキスだった。カカシのその優しさにイルカの力がふと抜ける。
 優しくして欲しくて、けれど優しくして欲しくなくて。でもこんなにもそのふいの仕草が心をざわめかせる。
 イルカの力が弛んだ隙にカカシはその顎を掴んで無理矢理口付けた。口付けを解かないまま奥へ奥へと進入するカカシの指がある一点を付いたとき、イルカの身体は面白いように跳ねた。
 噛み締めていた唇は甘たるい嬌声を吐き出そうと不意に弛む。
 カカシがその隙を見逃すはずもなかった。力の抜けた唇からカカシの舌が潜り込む。
「んふっ…ふっ……」
 熱いカカシの舌がイルカの咥内を蹂躙する。眩暈のするような歓喜がイルカの全身を震わせた。膝の力が抜けそうでイルカは必死でカカシにしがみついている。身体の震えは止められない。
 すでに後ろへの刺激でイルカの性器は痛いくらいに張り詰めていた。この熱から解放されたい、と思う。快楽を覚えた身体は指なんかじゃ足りないとイルカに訴える。
 もっと熱くてもっと太い、確かなものを咥え込みたいとイルカを急かし続けている。執拗な口付けを落とすカカシの肩をゆるく叩いてイルカは弱い力で顔を背けた。シャワーから迸る水蒸気をふんだんに含んだ湿った空気がイルカの肺を満たす。
「何?」
 イルカの耳を甘く噛みながらカカシはそう囁いた。低く鼓膜を揺さぶったその声にぞわりと快楽が背中を駆け上る。
「あっ……、あの…もう、イイから…」
 それでも羞恥にイルカは最後の一言が言えない。カカシが欲しいと、素直に口に出せない。
「イイから、どうして欲しいの?」
 くすりと耳元でカカシが笑った。分かっているのにこうしてイルカに言わせようとする意地の悪いカカシ。いつものことだけど今になってもイルカは直接的な表現でカカシをねだることが出来なかった。顔を染め俯くイルカの頬にカカシは口付ける。
「挿れたいのは山々なんだけどね。アンタここで最後までしちゃったら腰が立たなくなっちゃうでしょ」
 口でしてあげるから我慢して。そう囁いてカカシはイルカの唇に優しい口付けを落とした。ちゅ、と音を立ててカカシの薄い唇が離れる。
 ゆったりとした動作で屈み込もうとするカカシをイルカは慌てて留めた。
「…………い、イヤです」
 挿れて欲しいと思った。これで本当に最後なんだからちゃんとカカシを感じたかった。立てなくなろうがどうしようがイルカは構わない。
 ただ、本当に最後なんだからカカシと一つになりたいとそう思った。
 止まったと思っていた涙がまたほろりと零れる。こんなに煽っておいて、こんな風にしておいてイルカの熱だけ解放して終わりだなんてそんなの酷すぎる、と。
 シャワーに紛れてほろほろと涙を零すイルカにカカシは困ったように笑った。
「駄目ですよ、今日は大事な日なんだから、ネ」
 諭すように柔らかく発せられたカカシの声。けれどイルカは頑なに首を振った。
「や、です。イヤ」
 カカシに縋り付いたままイヤイヤと首を振り続ける。子供じみた態度を取っているとは分かっていた。浅ましい事をねだっていると、分かってはいたけれど。
 どうしてもカカシが欲しかった。
「ダメですよ」
 イルカの涙を舐め取りながらカカシは柔らかく言葉を落とす。優しいカカシの言葉にイルカの涙は止まらない。
 どうして、どうして優しくするのだろう。昨日からどれくらい繰り返したか分からない疑問がまた胸をよぎる。こんな風に諭すみたいに優しくいうのなら、有無を言わさずしたいようにすればいいのに。
 カカシに縋ったまま泣きながら首を振るイルカの耳元に小さな溜息が聞こえた。びくりと強張る身体を宥めるようにさすってカカシは困ったような笑みを湛える。
「どうしちゃったんです?いきなり可愛くなっちゃってまぁ」
 参ったな、とカカシが呟いたのが分かった。困らせているのは分かっていた。
 カカシの優しさを履き違えて勝手に勘違いしているのは自分だということも。けれど、この最後の瞬間くらい勘違いさせておいてくれてもイイじゃないか。
 嗚咽が知らずこぼれ落ちた。泣くまいと思っていた自分はいったいどこに行ったのだろう。カカシに縋ってさっきから泣いてばかりだ、とイルカは思った。
 けれどそれは、それを鬱陶しがらないカカシが悪い。優しくするからつけあがるのだ、と半ば開き直るように思う。
 抱いて欲しいと本当に強く思う。このまま口でイカされるなんてイヤだ、と。本当に痛切に思ってイルカはカカシにしがみついた。
 震える手で背に縋るイルカをどう思ったのかカカシはふ、と息を吐き出した。
「オレだってそんなに堪え性がある方じゃないんですよ」
 イタズラを仕掛けたのはオレの方だしねぇ……。そうしてくすりと笑う。しがみついていたイルカをやんわりと引きはがして、カカシは改めて小さくキスを落とした。
「仕方のない人ですね」
 そう言って笑ったカカシの顔にはとても優しい笑みが浮かんでいた。落とされるキスに目を瞑ってイルカは脳裏にその笑顔を焼き付ける。
 忘れないように。この人の全てを忘れないように。二度と会えなくても、忘れてしまわないように。
 埋め込まれたままの指がずるりと抜かれてイルカはくるりとひっくり返された。
「壁に手をついて、そう、もうちょっと腰を上げて」
 カカシに向かって尻を突き出すような格好をさせられる。恥ずかしさに勝手に頬が上気していく。堅いタイルの上を爪が滑る感触が心許なくて、イルカはきつく手を握り締めた。
「これならすぐ入るかな」
 さっきから弄られてじくじくと疼く襞を撫でられてイルカはこれから訪れる快楽の予感に身を震わせた。シャワーの湯が背中を滑る。
「アンタのここ、ひくひくしてるね。そんなに挿れて欲しかったんだ」
 くす、と笑ったカカシの声にイルカはかーっと頬を染めた。恥ずかしい、けれど、もう待てない。早く、なんて恥ずかしげもなくねだりそうになったその時、ようやく待ち望んだものが入り口に触れた。
 熱い、と思った瞬間ぐっと襞を割り広げられる。張り出した部分がイルカの柔らかく溶けた肛道を押し広げる感覚。もう慣れた、馴染んだ感覚。
 何の抵抗もなくずぶずぶとイルカはカカシを飲み込んでいく。
 あぁ、気持ちいい。身体の中がカカシで満たされるこの瞬間がもう訪れないのかと思うと、胸を掻きむしりたくなるけれど。
「…はっ……」
 挿入の衝撃に堪えて僅かに強張っていた身体から力を抜くと、それを合図にカカシが動き始める。何も考えられないほどに揺さぶられ突き上げられて、前を解き放った瞬間イルカは意識を失ってしまっていた。



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