ぼんやりとしたまま見上げれば、にいと人の悪い笑みを浮かべたカカシと視線が絡む。
「キスだけで感じちゃったの?」
え?笑いながら首筋に顔を埋めてきたカカシの言葉をイルカは上手く理解出来ない。
え、何?首筋を這うカカシの舌の感触に身を竦ませていたら、突然性器を握られた。
「勃ってる」
ゆるく勃ち上がりかけた性器を柔らかく扱かれて、イルカはようやくカカシの言葉を理解した。今日会ったばかりの男に口付けられただけで反応を返し始めている自分の身体。
理解した出来事は深くイルカを打ちのめした。
「や、やだっ、触らないで…!」
恥ずかしくて悔しくて情けなくてイルカはまた涙を零す。ゆるゆると扱かれればあっけなく硬さを増していく自分自身に、イルカはもうどうしていいのか分からなかった。あれだけ嫌悪した男に扱かれて、例えようもないほどの快感がぞくぞくと駆け上がっていくなんて。
「触らないでって、ちょっとキスして触っただけでココこんなに堅くしてなに言ってるの」
片手でイルカを扱きながらカカシは鎖骨をきつく吸い上げた。
「いたっ、痛い!やめて…!」
びりっと走るような痛みを感じてイルカは重たい手を無理矢理持ち上げてカカシの髪の毛を引っ張った。けれど。
「ひあっ……!」
小さな抵抗は割れた先端を指先でぐりっと撫でられただけであっさりと封じられてしまう。カカシの堅い爪の感触にイルカは背中をしならせた。
体が熱かった。カカシが手を動かすたびににちゃにちゃと水音にも似た粘着質な音が鼓膜を震わせる。自分の零した恥ずかしい液が立てる音。自覚した途端にずんと腰が重くなったような気がした。
「あ、あぁっ…ん…!」
初めて人から与えられる刺激はひどく簡単にイルカを追いつめていく。カカシの髪に絡ませた指は今やもう鎖骨を囓るその顔をまるで自分に押しつけるかのように置かれているだけだった。
手の震えが止まらない。ちかちかと赤く点滅する視界にイルカは眦から涙を零した。
「イヤらしい身体。初めてなの?ホントに。凄い淫乱なんじゃない」
くつくつと笑い声を漏らしながらカカシは扱く手の動きを早めていく。
「あ、あぁっ…!」
先端に爪を立てぐりぐりと弄ればイルカはあっけなく精を吐き出した。どろりとしたそれを手の平で受け止め、カカシは解放の余韻に浅い呼吸を繰り返すイルカを見下ろして笑った。
「まだまだ先は長いですよ」
ほとんど温度を感じさせない口調でそう言ったカカシにイルカはひくりと身を震わせる。身体のどこもかしこもが熱くて、脳が沸騰しそうだとイルカはぼんやりと思っていた。
四肢に力は無く、泣くことしか自由がない、と思う。ただこうして無様に身体を投げ出したまま泣くことしか。
先が長いといったカカシはだらりと力の抜けたイルカの左足を持ち上げ、自分の肩に担ぎ上げる。自分の取らされたあまりにも卑猥な格好にイルカはこれ以上ないくらい顔を赤く染めた。
「…な、なに?」
自分の性器を人の眼前に晒している。その羞恥。
乗せられた足を外そうと試みてはみたものの、それが叶うはずもないことはイルカにも十分に分かった。がっちりと抱えられて外すどころか動かすことすらままならない。
「男同士のセックスってどうするか知ってますか?」
にいと笑ってカカシは抱えた足ごとイルカに顔を近づけた。折りたたまれる身体。
質問の回答を持たなくて、イルカは小さく首を振った。女とだってどうするかなんてよくは知らないというのに。
局部を無防備に晒していることの恐怖。喰われるために差し出されたこの身体。小さく震えたイルカの頬をいっそ優しげに撫でてカカシは目蓋に口付けた。
「ここにね、挿れるんです」
イルカの精液でぬめった指が尻の間につぷりとわずかに差し込まれる。今まで誰にも見せたことさえないところを無遠慮に撫でられイルカは引きつった声を喉から漏らした。
「…ひっ!」
つぷつぷと入り口で抜き差しされ、縮こまった襞を撫でられてイルカの身体は勝手にがたがたと震えた。
そこは排泄器官だ。けして何かを挿れる場所なんかじゃないのに。
未知の行為への恐怖でイルカの身体は酷く強張ってしまう。浅く含まされるだけでぴりと痛みが走るのに。
怖い。
「よく聞いて。ここにね、オレのを挿れるんですよ」
にこりとカカシは綺麗に笑ったけれどイルカは今度こそ本当に青ざめた。無理だ。どう考えたって入るわけがない。
けれどカカシは何の躊躇もなく尻の辺りを彷徨っていた指を深々と差し込んだ。
「いっ……あっく……っん!!」
精液のぬめりを借りてやすやすと潜り込んでいくカカシの指先。わずかな痛みを伴いはしたけれど思っていたよりもあっさりと自分はカカシの指を飲み込んだようだった。
痛いというよりも気持ちが悪かった。内側から圧迫されるような感触にイルカは背筋を強張らせる。
「…や、やだ、抜いて……」
内部を探るように動き始めた指の動きをまざまざと感じ取ってイルカは弱々しい声を上げた。気持ちが悪い。体内を浸食するその動きに吐き気さえ込み上げてくるようだ。
「抜きませんよ。ちゃんと解さないとね。オレも痛いのは真っ平ゴメンだし」
笑いをわずかに含んだ声でカカシはさらに奥へと指を潜り込ませる。
「アンタも痛いのやでしょ?良い思いさせたげるって言ってんだから大人しくしなよ」
良い思い?カカシの言葉が理解出来なくてイルカは眉を潜めた。こんなにも気持ち悪いのに何が良い思いなのだろうか。
くちくちとカカシの指がイルカの内部を探る。これ以上奥を犯されるのがイヤでイルカはその身を捩ろうとした。けれど。
薬のせいで緩慢になった身体は、カカシの行動によって本当に封じられてしまった。一度の射精と後ろを犯される恐怖で萎えた性器を、カカシは躊躇無く口に含んだのだ。ぬるりと温かい物に包まれてイルカは背中をしならせる。
「あぁ……!」
何もかも初めての感覚だった。舐られ吸われれば身体がじんじんと熱く疼いた。痛みにも似たそれは初めてイルカが知った快楽。性の経験のないイルカに薬とその手管で深い愉悦を植え込んでいくカカシ。
後口に差し込まれた指はいつの間にか三本になっていたけれどイルカはそれに気が付かなかった。
腹の辺りにどろどろと熱い塊がある。吐き出してしまいたい熱い熱い塊が。一度射精させられた身体は簡単に二度目の解放をねだる。空いた手で根本を押さえ込まれてイルカはほろりと涙を零した。イきたくてイきたくて堪らない。
弄られて後ろはすっかり柔らかくなっている。イルカの精液とカカシの唾液で濡れそぼったそこはまるで女のように濡れてぐちぐちと粘着質な水音を立てていた。浅ましい恥ずかしいその音でさえイルカを煽る材料にしかなっていない。
そうして。奥深く差し込まれた指先がある一点をかすめたときイルカは一際大きく体をしならせた。
「あああぁぁぁっ!」
びくんと身体は震えたけれど、吐精することは叶わない。目の眩むような快感にイルカはぼろぼろと涙を零した。
「あぁ、ここがアンタのイイトコロ?」
くすくすと笑いながら顔を上げたカカシはその一点をぐいぐいと押した。
「っや、やだ!やだ、もう、触らないで…!」
目の前が赤く点滅している。イルカはそう思った。深すぎる快楽はイルカにとっては拷問と同じ苦痛でしかない。ぼろぼろと涙を零すイルカの頬をそっと舐めてカカシはようやく指を引き抜いた。
「初めてなのに後ろで感じるんだ。随分と素質あるんじゃない?」
笑いながらカカシはイルカの目蓋にキスを落とす。
カカシの台詞にイルカは顔を赤く染めた。カカシの言う通りだ。身も世もなく快楽を感じている自分に吐き気さえ覚える。浅ましい自分の身体にまた涙が零れた。
カカシはその涙を舐め取り、頬に唇に柔らかなキスを落としてイルカがほんの少し落ち着くまで優しい愛撫を繰り返す。身体の疼きは消えないままだったけれど、カカシの行動にイルカの恐怖はいくらか薄らいだ。
髪を梳く手。優しいキスの仕草。言葉の辛辣さとは裏腹にカカシの行動はとても優しくて、イルカはひどく混乱する。ぱちぱちと瞬きを繰り返してイルカはまだ籠もったままの湿った息を吐き出した。
「ネェ、イルカさん」
見計らったようにカカシが呼びかける。一度は降ろされた足をまた担ぎ直しながらカカシはまだ涙の残るイルカの頬をゆるりと撫でた。
「見えますか?これがアンタの中に入るんですよ」
呼びかけに応じてのろのろと視線を動かせばそそり立ったカカシの性器が目に映る。自分のよりも大きいそれをまじまじと見せつけられてイルカはひくりと喉を鳴らした。
「よく見てね、これがこれからアンタを犯すんです」
カカシの顔に浮かんだ笑みはどこか優しくさえ見えた。けれど。
「……む、無理です。そんなの入るわけがない…!」
先立つのは恐怖。あんな狭い場所にこんな物を突き立てられたらきっと裂けてしまう。首を振ったイルカに頓着することなくカカシは肩に掛けた足を抱え直してそのままイルカの身体を折った。
「無理じゃないよ。アンタは見かけによらず随分と淫乱みたいだからきっと挿れられたら気持ちよくてあんあんよがっちゃうんじゃないかな」
辱めるためのひどい言葉とは裏腹にカカシは優しい口付けを落とした。そうしてイルカの肛門に熱い塊が当てられる。
「無理、無理です!や、やだ、やめて…!」
突っぱねるように、あがらない腕を無理矢理持ち上げてカカシの肩を押したけれどその行為は抵抗にすらならなかった。散々に嬲られ解かされたそこはカカシの挿入を拒まない。ぐぬりと差し込まれずぶずぶとのめり込んでいく熱い塊。
「い、痛い!やだ、抜いてっ!」
ちぎれるほどに首を振ったけれどカカシは少し眉を寄せてうっすらと笑うだけだった。
「きついねぇ、流石に…。マァ何とかなるか…」
抱え上げた足を引き寄せて奥へ奥へと潜り込んでいくカカシ。痛みとひどい圧迫感にイルカはぼろぼろと涙を零した。気持ちが悪くて吐きそうだ。自分の内側を犯されていく感覚。
突っぱねるためにカカシの肩に置いた手で、救いを求めるようにぎりぎりとそこに爪を立てる。痛みよりも苦しさの方が大きかった。
「イルカさん。息吐いて」
イルカの身体を折りたたんでカカシは少し上がった息でそう聞いた。
わずかに顰められた眉。カカシの額に浮かんだ汗がぱたりとイルカの上に落ちて頬を滑った。
笑っていないカカシを見るのはひどく珍しく、痛みと苦しみに捕らわれていたイルカは言われるがままに息を吐き出した。
「そう、いい子だね」
息を吐き出し弛んだ隙にまた奥へと進入していくカカシ。ゆっくりじわじわと体内に埋め込まれイルカはカカシに縋った。内臓に異物が収められているのが気持ち悪くて苦しくて誰かに助けて欲しかった。縋る人間なんて他にいない。それが苦痛を与えている本人に他ならないとしても。
「あぁ、イルカさん全部入りましたよ。分かる?オレが身体の中にいるのが」
柔らかく髪を梳きながらカカシは優しい声でそう囁いた。そのまま身体を折りたたんでイルカの耳を甘く噛む。いっそう深い所を突かれてイルカはびくりと身体を震わせた。
「や、やだ…。お願い、抜いて…」
イルカはカカシの背に縋ったままぽろぽろと涙を零す。限界まで割り広げられた襞がじんじんと熱く溶けるようだと思う。
身体の中に自分とは違う体温がある。イルカの何もかもを溶かし尽くすような熱い塊が。
「抜いてあげません。それよりもそろそろ動くよ」
耳朶を囓りながらカカシはくすりとまた笑った。そうしてイルカの返答も待たないままカカシはゆるゆると腰を動かし始める。抜き差しされる感触に内臓がひっくり返りそうだった。
「…っ!うぁ……!う、うご…っちゃだめぇっ…!」
挿入の衝撃に萎えていた性器をおもむろに扱かれイルカは身も世もなく鳴いた。
「あ、あっ…やぁ…!」
前を弄られれば放置されていた快楽がじわりと染み出してくる。もう苦しいのか気持ちいいのかすでにイルカには分からなかった。
ただ水に流される木の葉のように、ゆらゆらと不安定に揺れながらいつしか絶頂を迎えていた。カカシと自らの腹に精液をぶちまけてびくびくと身体を震わせる。引き絞るように蠢いた後口にカカシも堪えきれず最奥に熱い飛沫を吐き出した。
熱い。脳が溶ける。身体の奥が濡れた感触にイルカは再び身を震わせて、ゆるゆると目を閉じた。
覆い被さったカカシは息を乱している。イルカの前では飄々とした態度を崩さなかったカカシが今いったいどんな顔をしているのか知りたかったけれど、一度合わせた目蓋はなかなか剥がれようとはしてくれなかった。
ぺちぺちと頬を叩く感触にイルカは目を覚ます。目を開ければ覗き込む男の顔。
「あぁ、目が覚めましたか?」
ぼんやりとした視界に男が笑った顔が映る。自分を犯した男の顔が。
腹の底に湧き上がった感情はイルカのコントロールを離れ、瞬時にカカシに襲いかかった。
振り上げた手がカカシの頬を叩いた。パン、と小気味いい音が辺りに響いてイルカは自分を突き動かしている感情の名が憎しみだということに気が付く。
憎い憎い憎い。
辱め犯されたこの身体を今更どうすることも出来ないけれどこの男だけは許せない。驚いたように目を見開いたカカシにわずかに溜飲が下がった。けれど。
一瞬後ににいと笑みを浮かべたカカシにイルカは思わず背筋を震わせた。
「まだ分かりませんか。逆らうとろくな事がないって」
くつくつと笑いを漏らすカカシ。そのあまりの恐ろしさにイルカは思わず身を捩った。逃げなくちゃ。
どこか、どこでもいいからこの男の手の届かない所に。有り得ない選択肢を頭に思い浮かべたイルカをカカシは易々と押さえつけた。
萎えた自分の性器を扱いて勃たせながら昏い光を宿した瞳でイルカを覗き込む。
「分からないなら身体に教えておきましょうね」
そうして動きのすっかり鈍ったイルカの足を担ぎ上げるといきなりその後口に勃ち上がった性器を突っ込んだ。
「ひぃっ……!」
さっきまでカカシを呑み込んでいたそこは裂けることもなく猛った肉棒を受け入れたけれどあまりの衝撃にイルカはぼろぼろと涙を零す。一気に貫かれ硬直した身体。上から覗き込むカカシは引きつった悲鳴を上げるイルカの頬をぺちぺちと叩いた。
「力を抜きなさい」
ぎゅうぎゅうと締め付ける襞にカカシはわずかに顔を顰めている。身体の震えを止められない。
ひっきりなしに嗚咽を漏らすイルカの耳にカカシの低い声が響いた。
「息を吐いて。言うことを聞けるね?」
その言葉にイルカはびくりと身を揺らした。
怖い。死刑宣告にも聞こえるその言葉。言うことを聞かなかったら今度は何をされるのだろうか。
震える唇を無理矢理開いてイルカは大きく息を吐き出した。
「そう、ゆっくり吐いて。大きく吸い込んで」
深呼吸を繰り返しようやく強張っていた身体から力が抜ける。
「いい子だね」
その言葉が合図だったように、そうしてカカシは腰を動かし始めた。
「……ッや、あぁ……!」
恐ろしくて制止の言葉すら上げられなかった。ただオモチャのように揺さぶられ突き上げられ、漏れる喘ぎ声も何もかもをカカシに絡め取られたままイルカは泣いた。
泣くことは咎められなかったから。それがイルカに残された最後の自由のような気がして泣き続けた。
憎しみは恐怖にすり替わり、そうして心は絶望に塗り潰される。助けを求める人さえこの世のどこにも存在していなくてあまりの孤独と絶望にイルカの心は壊れてしまいそうだった。
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