Weather forecast
8月の空は吸い込まれそうに青く、晴れ渡っていた。
こんな天気の休日に、何であんなにも熱心に働きたがるのか。
多少他よりは冷たい床にごろりと横たわって、嬉々として洗濯物を干すイルカをカカシはぼんやりと眺めていた。
多分、絶対ココよりは、庭の方が暑い。
なのに何だってアノ人はあんなに元気そうなのだろう。
ごろごろと床に這いつくばって、そうしてしばらくの間ぼんやりとイルカの背中を眺めていた。
背後からは意味のないニュースがつっけっぱなしのテレビから流れている。
『………続いては今日の天気予報をお伝えします。』
しかし暑い。
まだ午前中だというのにこの暑さは何だろう。
『南西の海上から湿った空気が流れ込み地域によっては、午後から雷を伴う強い雨の降るおそれがあります。』
ちら、と画面に目を向けるとどうもこの辺りも『一部地域』にはいるらしく、可愛らしい笑みを浮かべたアナウンサーと共に傘マークが張り付いていた。
イルカ先生の干した洗濯物はどうなるのだろう。
雨が降ったら。
今日のこれまでの労働はまるで無駄になることは疑いようもなく、寝転がったまま日差しの中のイルカに声をかけた。
「イルカ先生」
「何ですか?」
「午後から、雨が降るそうですよ」
「え?雨、ですか?」
「はい。今、天気予報でそう言ってました」
ジリジリと照りつける太陽を仰ぎ見て、首をかしげる。
そしてふと、こちらに視線を向けた。
「カカシ先生はどう思います?」
「いかにも降らなさそうな感じですね」
イルカ先生の額から流れ落ちる汗に見とれたままそう生返事を返す。
「ちゃんと答えて下さい」
真面目な顔で問われたので仕方なく縁側の方へ移動する。
暑いのは、好きじゃないのに。
縁側から寝転がったまま空を覗くと抜けるような、青い空。
そして、沸き上がる、遠くの入道雲
「ああ、こりゃ降りますね」
かすかな、水の匂い。
「そうですか。で、どのくらい持ちそうですか?」
「んー。あと2、3時間は持ちそうですけどねぇ」
「2、3時間かぁ。まあ、でもそれだけあれば何とかなるか」
ぶつぶつと一人ごちた後、柔らかな笑みを浮かべて、有り難うございます、と言う。
何だか、何だかたかがそんなことで跳ね上がる心拍数がおかしくてちょっと我が儘を言ってみた。
「イルカ先生。せっかく雨が降るんだし、家の中でゴロゴロしましょうよ」
「何ですか、その『せっかく』っていうのは」
残りの洗濯物を干しながら、呆れた様な返答を返してくる。
「だって晴れてたら、イルカ先生オレの相手してくれないでしょ?だから『せっかく』」
最後の洗濯物を干し終わって縁側にだらしなく横たわるカカシを上から覗き込む。
「じゃあ、雨が降ったら相手してあげますから其処どいて下さい」
「えー。今からゴロゴロしましょうよー」
「ダメです」
「イルカ先生のケチ」
「何ですか、子供みたいな事言わないで下さい。ほら、どいて」
「イヤです」
「昼ご飯、作ってあげませんよ?」
そう来るか。
仕方なく転がってイルカ先生の入るスペースを空ける。
通りすがりに
「昼、何か食べたいもんありますか?」
と聞かれた。随分と高い位置から聞かれてぼんやりと視線を巡らすと、台所へ向かうイルカの後ろ姿が見える。
普段の様にきっちりとは結い上げられていない髪が汗で首筋に張り付いている。
「そうですね、しいて言うならイルカ先生かな」
「そうめんでいいですね?」
あっけなく無視される。
「………はい」
どうも今日は大人しくからかわれてはくれないらしい。
相変わらず日差しは強いまま風もなく、部屋の中もちっとも涼しくない。
早く雨が降ればいいのに。
バカみたいに晴れ上がった空を恨めしく眺めて、カカシは深いため息をもらした。
fin
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