walk [after]
バカみたいに幸福な時間を過ごして。
帰りに商店街で夕飯の買い物をしてきた。
結局家に辿り着いたのはもうそろそろ太陽が夕日に姿を変え始める時間だった。
薄暗い玄関に明かりを灯して。
荷物を持ったカカシ先生を先に中に押し込む。
台所のテーブルに買った荷物を置いてカカシ先生がマフラーを取ったとき。
ふいに鼻先を掠めた匂い。
あ。
とてとてとカカシ先生に近付いて少し屈んでその胸元に鼻面を埋めてみる。
くん、と匂いをかぐと、やっぱり。
カカシ先生からは冬の匂いがしていた。
澄んだ空気の匂いというのか。
その答えは曖昧で巧く言葉には出来ないけれど。
懐かしい、冬の香り。
「イルカ、先生?」
頭上から聞こえてきた困惑した声にくすりと笑いが零れる。
「カカシ先生、あなたから冬の匂いがします。」
背中に腕を回してそのまま冬の匂いを肺に吸い込んだ。
冬の匂いにカカシの匂いが混ざり合って。
それはなんて暖かで、優しい。
カカシの腕が自分の背中に回されて、肩口に顔を埋められる。
そうしてカカシが呟いた言葉。
「イルカ先生からはイルカ先生の匂いがしますね。」
とても、それはとても嬉しそうな声で。
「何当たり前のこと言ってるんですか。」
耳元でくすくすと笑うカカシの声。
「イエね、あんたからはいつだってお日様の匂いがするんですよ。」
ゆるく抱きしめあったまま。
いつでもほどけるはずの抱擁がなかなか手放せずに。
優しい腕に甘く拘束されたまま。
夜の帳が落ちるまでの少しの間、そうしていた。
fin
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