かけら
六
緩やかな風がながれている。
里を見渡せる、火影岩麓の屋敷の屋上。
ついにイルカとアスマは火影に個人的に召喚されていた。カカシは、今日は子供達と修行にでている。安静にしているならば、今日の体調ならば大丈夫だろうと、彼がそう言ったのだ。信じようと決めたイルカは、無理しないで下さいと、それだけ告げて、見送った。
火影に何を探っていたのか、問われて大方のことを報告した。機密を勝手に調べたのだ、今後暗部の監視下に置かれても不思議ではないていどの掟破りである。
イルカとアスマは並んで火影の言葉を待つ。火影は里を見下ろしたまま、二人を振り返らない。
尾の長い大きな鳥が高い声を一つ上げて、火影が眺めている方向に翼をはためかせて、優雅に飛び去っていく。
抜けるような青空にその、鳥の白い翼はとても心地よかった。
「…いらん心配をかけたようじゃのう」
火影はその鳥が見えなくなった頃にぽつりと呟いた。背を向けたままだったが、かくしゃくとした老人の声は、難なく二人の耳に届く。
「まさかカカシのことをお前ら二人が探り回ってるとは思わなんだ…。そして、殆ど真実までたどり着くとは、の…」
「……」
イルカもアスマも黙ったままで、くつろいだ態度で、火影の言葉を聞く。
「今まで、カカシにまとわりついた女の何人かも気がついて探ろうとしたらしいが、暗部が影にあるとわかった時点で諦めた…。まさか暗部の働きを無視してまで探っていたのがお主らだったのが意外じゃよ」
火影はふうと溜息をついて、柵から離れ、振り返ると歩み寄ってくる。
「イルカ」
「はい」
「カンナのこと、知らせられずに済まなかった。人道に基づくのならば教えねばならなかったのだが…」
「…いいえ」
そう言うのでイルカは精一杯だった。やはり、火影は全てを知っていて沈黙していたのだという、不信感と、その事について罪悪を感じている様子に、恐れ多い感情が入り乱れて、なじる言葉も労る言葉も何も出てこなかった。
火影もそれ以上の言葉は不毛だと、頭を下げるように深く頷いた。
「知っているとおりカンナはカカシと共に里に戻ってきた。しかし、お互いに何時事切れるともわからん状態だったのだ。それでも、カンナが先に意識を取り戻してな、自分の臓器をカカシのために使えと、そう儂に談判してきたのだ」
イルカは思わずその言葉に息を呑む。
「…今まで黙ってきたのだからこんな事を言われても信用できないのも当然の事じゃ…。これを…」
火影は懐から、白い懐紙に包まれた手紙を取りだし、イルカに手渡す。
「これは…?」
「開いてみるがいい」
イルカは言われるがままに懐紙を剥ぎ、封筒を切って便せんを取りだした。ぱらと紙を開くと、見慣れた、しかし既に懐かしい筆跡が眼前に飛び込んでくる。
「…これは…!」
「カンナの遺書じゃ…」
イルカはあからさまに動揺した。こんなものが残っているわけがない。カンナに関係するものは全て、イルカがカンナの殉死を知る前に全て、処理されていた。服だって、手紙だって、家すらも。
「しかし、そんなものは普通、とっておけないでしょう」
そう言うアスマの言葉に、無言で頷く。
「直接託されたのだ。暗部に入る前にどうしても、とわがままを言われてな。そして、それをどうしても手渡せなかった」
震える手でイルカは、カンナの手紙を開いた。
イルカへ
イルカがこの手紙を読んでいるということは、私はもう生きていない場合だと思います。火影様にわがままを言って、この手紙を残します。
先に死んでごめんね。
イルカは案外、淋しいのが嫌いだから私が死んだら泣くんだろうね。
有り難うね。それだけで私は嬉しい。
きっと、イルカの本当の人が居るはずだから、今度はその人を捜して下さい。私のことは忘れない程度に忘れてくれてば嬉しいなあ。
ただでは死にません。
その時、私にできるしたいことを全てしてから、悔いのないように死んだことを誓います。まあ、往生際の悪い私のことだし、イルカはわかってるんだろうね。
それじゃあね。
お元気で。
カンナ
今は何かしらの残骸を残すことが出来ない身だから、この手紙は、開かれてから暫くすると文字が消えるようにしました。イルカに何も残して上げられなくてごめんなさい。
気がつくと、イルカは涙を流していた。
カンナはその時に出来る最上のことをして、そうして、イルカにカカシを残してくれた。確かに、カンナだったらその道を選ぶかも知れない。自分よりも実力のある者を生かして糧となり、里のために死ぬことぐらいは普通にしただろう。
ああ、こんなにも愛されていたなんて。
その気持ちを疑ったことはないけれども、こんなにも大きなものだとは思いも寄らなかった。
「…カカシの様子はどうじゃ」
「……」
イルカは子供のようにしゃくり上げて、上手く言葉が紡げない。
「…薬を頑なに拒んでいるようです」
そんな様子を受けて、アスマが応える。
「カカシ本人もあの薬が記憶障害に繋がるものだと気がついているようでした。ぶっちゃけ、カカシはイルカのことを好いているらしくて、記憶を失って関係を白紙に戻すのが恐いそうで」
「ほお」
そのアスマの言葉に火影が目を丸くして顕著に反応を示す。
「何の因果か、イルカが好いたカンナはカカシに臓器を提供し、カカシはそして、イルカを好いたのか…」
あやつに恐いこともあるのだな、と火影はしみじみと呟いた。
「…今までの全てに説明をしよう。二人ともついてくるがいい」
火影はイルカにハンカチを手渡すと先だって、屋上を下る階段に脚をかける。アスマに促されるようにして、イルカも階段を下った。
手に握り締めたカンナの手紙から、うっすらとタバコのそれと同じ程度の煙が立ち上っていた。香のような、やわらかな香りだった。
先にカカシの家に着いたイルカは夕食の準備をした。
カカシが薬の効果を知っていたのは最初からだったそうだ。火影はだからこそ暗部を配置させたのだという。
『折角カンナの犠牲の上に取り留めた命を、落とされては困るからな…。半ば無理矢理に薬を飲ませた事もあったし、さすがに人の口には戸は立てられんからな、カカシの不調を知って寝込みを襲う人間を排除するためにも、暗部を配置した…』
どうにかして、この薬でなくてもカカシの熱がでないような方法を探しているらしい。アスマは未だに半信半疑だったようだが、イルカは自分でも甘いと思うが、火影を信用したくて、頷いてカンナの死を隠匿したことも許した。
許すも何も、火影は掟に従っただけなのだから、憚ることは何もないのだが。
白飯が炊けた頃になって、カカシが帰ってきた。
疲れた様子でぐったりしていたが、イルカの姿を見るなり、こちらが嬉しくなるくらい満面に笑みを浮かべて抱きついてきた。
「お疲れさまです」
「あー生イルカだー」
カカシはそんな訳の分からないことをいいながら、イルカを抱きすくめ、首筋に耳の裏に鼻を寄せて、思い切り息を吸い込んだりする。
たまらなく恥ずかしくなって、イルカはカカシを引き剥がして、風呂場へと投げ込んで置いた。
夕食が済んでも、カカシはやはり薬を飲もうとはせずに、イルカを伴って布団に潜り込んだ。カカシはセックスをしたがったが、体調に障るからと言う理由で、ただ、寄り添って眠るだけにした。
その明け方、カカシが酷くうなされているのに気がついて、イルカは目を覚ました。
カカシはイルカを抱き込んで、ぶるぶると体を震わせている。イルカは慌ててカカシの額に手を当てて簡易的に熱を計ると、あまりの熱さに、思わず手を引く。
「カカシ先生」
昨晩は結局、薬を飲まなかったのだ。カカシがどうしても折れず、三十九度以上にならなければ、イルカも強要しないと言うことを約束させたのだ。
慌ててイルカはカカシの腋に水銀式の体温計を差し込んでおいて、手桶に水を汲みに行った。
タオルも手に戻ってみると、カカシは依然として苦しそうに深い呼吸を繰り返し、胸を喘がせる。
「カカシ先生?」
起きればもう少し楽なのかも知れないと、カカシの体を揺すってみるが、目を覚ます気配はない。
体温計を抜いてみると、水銀は八度五分まで上昇していた。イルカは冷たい水でタオルを絞り、カカシの額に当てる。
カカシはきっと寒くて震えているのだろう。このままではもっと、体温が上昇する傾向にある。
薬を飲ませるしかない。
イルカがその場を離れようとしたときだった。
「…イ、イルカ…」
カカシが喘ぐ声の中に、イルカの名をなぞる。はっとして振り返ると、カカシはぐったりと体を横たえたまま、顔だけをイルカの方に向けて、荒い息を吐く。
「今、薬を持ってきますから…」
「…戻って…」
「え…?」
意識はしっかりしているようだが、様子がおかしい。
「戻って、きたの…」
「……?」
カカシはイルカの袖を引き、起き上がろうとする。それを慌てて制して、イルカがベッドに腰掛ける。
「無事な形で戻れなくて、ごめんなさい…。この人もあなたも苦しめてごめんなさい…。ただ、もう一度逢いたかった」
そう言ってカカシは、涙をこぼした。
「…カカシ先生…?」
カカシは小さく笑った。口角と目元を緩めるだけの、優しい笑みだ。それに反して、隠しもせずに声もなく涙を流す。ぼろぼろと惜しみなく流れる涙に触れて、一度手を引いて、改めてそれを拭った。
「しあわせにね、イルカ。あたしは幸せなうちに、自分の思うように生きられた。あなたのおかげだわ」
カカシがイルカの頬を熱い両手で包み込んで、うっとりと微笑む。
「行かなくちゃ。この体に負担がかかりすぎるからね」
「え…、あの…」
何も、問えずにいるイルカに、カカシは笑顔を崩さないままに、その手を下ろした。その顔にはさっきまでの苦しみは感じられない。
「さようならイルカ。あたしはいつでもここにいる。あなたをいつだって愛しているわ」
「…カンナ…?」
その呟きに、カカシは一瞬驚いたような顔して、それから、目を伏せるようにして小さく頷いた。
「アタシもカカシも、あなたを愛してる」
カカシは、イルカを抱き寄せて、小さく口づけをした。
薄い唇が重なって、その熱を直接交換した。
あの日を、カカシと初めて交わした口づけを彷彿とさせた。
「さよならイルカ」
「…カンナ…」
名前を再び呼んだ瞬間、カカシはふわっと笑い、そして、イルカを抱きしめる力を急になくして、その腕をベッドに放り出した。
「カンナ?」
カカシは急にぐったりと体を弛緩させて、ベッドに埋もれるようにして、体をぴくりとも動かさない。思わずイルカがカカシの顔を覗き込むと、何のことはない、気を失うか、眠りに再びついたのだろう、深く、穏やかな呼吸を繰り返していた。
イルカは思わずそこに、呆然とへたり込んでしまった。
そのまま、何も考えることも動くことも出来ずに、ただただ体も意識も硬直させて、カカシの穏やかな寝息だけを聞いていた。
それは、ほんの数分の出来事だった。
朝日が射し込んできてイルカは、やっと体を動かした。
カカシに薬を持ってこなければいけなかったのだ。だいぶ落ち着いたような呼気だが、まだ薬を飲んでいない。油断は禁物だ。
随分長い間同じ体勢で居たため、体の節々が痛かったが、無理矢理立ち上がってカカシの顔色を伺う。
カカシは、穏やかで規則的な呼吸を繰り返し、普通に眠っているだけのようだった。顔色も悪くない。放置していた体温計を振って、低い位置まで戻すと、再び差し込んで、薬を取りに行った。
時間になるまで、桶の水を換え、カカシの浴衣の着乱れを正し、イルカは固まった体をほぐすように動き回る。
薬を飲むための水を用意して、窓際におかれた鉢植えにそのコップから水をあげた。
だいたいの時間にイルカはカカシの袷から手を入れて、体温計を取りだす。ふと触れた胸部は程良い熱と、心地良い鼓動をイルカの手に伝えた。
体温計は五度九分を差している。相変わらず、体温の低い人だ。
下がったのか。
思わず、安堵の溜息をついて、イルカはベッドの端に腰を落ち着けた。
今朝の、あの現象のことばかりを考えている。
アレは、確かにカンナだった。
カカシの口調ではなかったし、カカシはあんな風には笑わない。カンナそのものの仕草だった。
ふと、腰に熱を感じてイルカがベッドを見ると、カカシがイルカの腰に腕を回してきて、ゆるーと笑っている。
「おはようございますー」
機嫌良さそうにすり寄ってきて、イルカをベッドへと引き込もうとする。イルカはちょっと苦笑しながらそれに応じて、同じシーツにくるまった。
「気分はどうですか? 夜うなされていましたよ。熱も出ていましたし」
「あー、今は平気ですよ。…ただ、変な夢を見ました」
「夢…」
カカシは子供のようにイルカに縋り付いて、ふふっと笑った。
「イルカ先生とカンナが話しているところです。オレは幽体離脱したみたいに、ふわふわとその様子を上から眺めて居るんです。結構リアルな感じがしました。それだけなんですけどね」
ああ、やっぱり、カンナだったのだ。
正真正銘。カカシの中にあって、いつでイルカを見ていると。
「それ、きっと夢じゃないですよ」
カカシもカンナもそうする気持ちで、イルカはカカシの体を抱きしめた。
なんて、愛おしい存在。
「イルカさん?」
戸惑うカカシに、イルカも泣きたいくらいに笑ってしがみついた。
窓から射し込む光は、既に強さを増して、水を貰った観葉植物の葉の鮮やかな緑を、反射させていた。
髪を梳かれて、額に唇を寄せられる。解れた髪を耳にかける指がくすぐったくて、イルカは身を竦ませた。
するりと、イルカの浴衣の裾を引き上げられて、シーツが素足に絡む。
「…カカシ先生…?」
ふと、カカシを見上げると、すかさず唇を奪われた。
開いていた口にカカシの舌が滑り込み、あっという間に深い口づけになる。歯列をなぞられて、唇が、何度も触れる。逃げられないように、髪を梳いていた手が、額をベッドに抑えつけ、いつの間にか、イルカはカカシの下に敷かれるような体勢になっていた。
空いた手が、狂おしいほど切羽詰まった動きで体中を撫でてくる。
「カカシ…せんせっ…」
口づけの合間に抗議しようとするが、カカシはそれを許さず、何度もそれはカカシの唇に吸い取られてしまった。
やっと長く深いキスが終わると、イルカが息を整える間もなく、浴衣の袷を左右に掻き開き、色づく乳首に吸い付いた。
「あっ」
思わず声が上がる。
カカシの膝が遠慮なくイルカの両脚を開いて、両手でイルカの下半身を愛撫した。
「あ…っ、ヤダっ、ああ」
こんな明るいうちから、同意も得ないで。
抗議をしたかったが、そうするにはイルカの体は余りにもあからさまに反応をしすぎていた。竿と袋と、既にそこでの快感を覚えつつある肛門を弄られて、あっという間にイルカの欲望はしっかりと立ち上がってしまって、はしたない汁をこぼしていた。
「ごめん、すごくしたい」
カカシは、乳首を交互に舐り、首筋にきつく吸い付いて跡を残した。
「ああ、…ンっ、カカシせんせ…っ」
イルカは堪えきれないと、目尻に涙を浮かべ、必死にカカシにしがみついて、荒い呼吸を繰り返す。
じっくりとカカシはイルカのアヌスを丹念にほぐす。指を二本三本と増やして、直接唾液を送り、イルカの好いところを時々突いては、反応を見て、幸せそうに笑った。
「や…っ、こんな…朝から…っ」
熱くなった体に、最早上から掛ける物など不要だと、カカシは完全にシーツを剥いだ。
お互いに浴衣に袖を通しているが、袷も裾も淫らに広がり、腰にしっかり巻き付いている帯が、余計に卑猥な感じを際だたせた。
「ああ、いい格好」
そのはだけた両脚を痛いくらい開かれて、肛門に指を呑み込んだまま、それでもペニスと乳首を立たせたままで、イルカは喘ぎ涙をこぼす。朝の白い光の中でひくひくと蠢き、暗闇でするよりも、生々しく煽られる。
「も…カカシセンセ…」
イルカの声は興奮に掠れている。しかし、それに気がつかない振りをしてカカシは、小さく口づけて、イルカに言葉を促す。
「もう…何? どうしたい…?」
「や…っ、カカシ…っ」
ひくひくと淫らに、その秘部はカカシの指をきゅうきゅうと締め付ける。
「ねえ、言って。イルカ先生…」
「やあ…だって…っ、はずかし…」
「恥ずかしいことないよ」
カカシはそう言うと、イルカの、シーツを掴む手をそっとそこから剥がして、自分の股間に触れさせた。
「オレも一緒です…」
思わずイルカは手を引っ込めようとしたが、カカシが手首を強く掴んでそれを許してくれない。イルカと同様に興奮しているそれは、イルカに触れられて、ふるふると震える。恐る恐る握ると、カカシは眉根を寄せて、たまらないという風に息を吐き出した。
「あなたの中に入りたい…。ねえ、イルカ…」
ゆるりと握ったままで硬直したその手に、こすりつけるように、カカシが小さく腰を揺らす。少しすると、その手に、湿り気を感じるようになった。カカシも、限界が近いのだ。
「い…入れて…」
思わずといった風に、イルカは口走ってしまった。
そうなればもう止まらない。
「入れて下さい…、あなたの…」
イルカは握っていたカカシのものを、恐る恐るまだカカシの指が入ったままの秘所に宛う。
カカシは、何の躊躇いもなく指を引き抜き、イルカを串刺しにした。
「アアアッ!」
いきなりの衝撃をイルカは無防備に受けてしまい、前から汁をこぼす。
「イヤ…っ、ああ」
イルカは中を一杯にされて、はあはあと喘ぐ。カカシが緩く動くたびに、イルカの秘部から水濁音が響いた。
「ああ、気持ちイイ…」
暫くカカシはその内部の熱を楽しむようにじっとしていたが、やがて腰を打ち付け始める。慎重にほぐされたイルカの肛門は、最早痛みを感じず、内部を思うままに犯すカカシに快楽のみを覚える。
「ああっ、…ん、ふあ…っ、…んんっ、ん」
カカシが突き上げるリズムで、イルカは抑えきれない声を漏らす。中のいいところを擦られては、イルカの欲からだらしなく汁が零れ、下生えを濡らした。それでなくてもカカシのフェラチオや先の愛撫によってドロドロだったのに、乾く間もない。
「濡れまくってるね。気持ちいい? 女の子みたいだよ、イルカ先生」
こんなに溢れさせて…、とカカシはイルカのペニスに触れ、精をすくい取ると、イルカの口に含ませた。青臭い匂いが鼻腔を抜けて、思わずむせそうになる。
「やだ…」
「おいしいのに」
イルカが嫌がって顔を背けると、代わりにカカシはその手に着いたものを全て舐め取る。いたたまれなくなって、イルカは枕で顔を隠した。
アア、ダメだ。
熱に侵されていく。
堪えきれなくて、イルカは喘いだ。枕を捨てて、カカシの浴衣にしがみつき、口づけて抱きしめられれば、その肩口に強くかみついた。カカシは小さく呻いて痛みを訴え、イルカにも同じ所に吸い付いて、いっそ青いほどの痣を残す。
「んっあ、ああっ、ぁっ、んっ、あああっ」
激しくなる律動に、置いて行かれないように、イルカは必死になってカカシにしがみつく。名残惜しくなるほどギリギリまで引き抜かれ、あっと思う前には最奥まで突き上げられる。それを何度も繰り返されて、イルカはめまいを感じた。
「も…!だめ…っ」
体中の全ての孔が収縮するような感覚に襲われる。切羽詰まった快楽に、アヌスを引き絞り、乳首が震え立つ。
「うん、オレも…」
カカシがその乳首に吸い付いて、イルカの好いところをペニスで擦ると、イルカはカカシを痛いくらいに締め付けて、嬌声をあげる。
「あああっっ!…いやっ、…やめてっ! でる…もう、出ちゃうっっ!」
「うん、みてて上げます、たくさん出して…」
カカシは激しくイルカを押し上げてくる。
臍の、下で燻っていた熱がイルカの堰を溶解し始めて、飽和した熱が、体を浸食し始める。
「ああんっ、んんっ、ふあ…っ、カカシセンセ…っ! も…っ、もぅっ!」
カカシのペニスが深くイルカをえぐり取る。その瞬間、流れを止めていた堰が壊れ、体中に熱の奔流が迸った。
「いやァ…っ、あああっ、アアーっ!」
つま先にまで緊張が走り、胸を震わせて、イルカは達した。長く精を吐き出す。キツイ締め付けにカカシもイルカの中に思う存分吐き出した。
「ああ」
カカシは短く嘆息し、うっとりと、未だにイルカの中に居座る。
「…抜いて…。仕事に行かないと…」
イルカが体を捩り、腰を引くと、カカシはそれを許さずに、再び腰を押しつけてくる。
「ヤ…っ」
カカシのものは既に中で半立ちになっていた。
「足りない。全然」
カカシはイルカのこめかみに口づけて、体を抱き上げると、膝の中に座らせる形になる。自分の重みの分だけ深く繋がって、目眩がした。
「やだ…っ、カカシ先生」
カカシは構わずにイルカの腰を引き寄せて、もっと深く繋がろうとする。喘息を漏らす唇にキスをして強く抱きしめる。
「ね、イルカ先生…。もう一度…」
うっとりと、唇が触れ合うほど近くで囁かれて、ガラス玉のようなオッドアイに見つめられて、イルカは腰に快楽が響くのを感じた。
そろりと、腕をカカシの首に巻き付けて、腰を浮かすと自然に性感帯が擦れ合い、カカシが乳うんに吸い付く。思わずイルカは嬌声をあげて、肛門を引き絞った。
「ああんっ」
さっき自分が吐きだした物で汚れた性器を扱かれれば、イルカはもう、カカシを感じる意外のことを一切停止させた。
カカシの上で求められるままに、妄りがましく腰を振り立てて、まるでカカシを使って、自慰をするように乱れた。
そうして、二回三回と己を放つと、意識をとばした。
目が覚めたのは昼過ぎだった。
がばっと起き上がると、酷く腰と背中と、人様には到底言えないような場所が痛んだ。アカデミーに出勤しないといけないのに、この前も休んだばかりで、仕事にしわ寄せが来ているし、何より、連絡を入れていない!
イルカは痛む腰を持て余しながら、浴衣を着直す気力もなく何とか起き上がり寝室を這い出る。
「あれー、もう起きちゃったんですか」
ふと声を掛けられ、見やると、カカシがのほほんとした風に笑い掛けて、イルカの腕をとって体を支えてくれる。
こんな時は人畜無害な顔をして、酷く色白で清楚そうに見えるのに、やってみるとおおよそ淡泊とは言えない。イルカはカカシの笑顔を見ながら、騙されたような気がした。
「連絡しないと…」
「アカデミーですか? 連絡しておきましたよ。明日は休日だし、思わぬ連休になりましたね」
にこにこと嬉しそうなカカシにイルカは藻掻いて、それでも、それだから、とどうにか動こうとする。
「でも、仕事が…」
「受付の方は何とかなるって火影様は仰ってましたけど。アカデミーの方は、副担任がどうにかしてくれるみたいでしたが…」
「ああ」
副担任…。
そう言えばそんなものも居たか、とイルカは急に脱力して、カカシの腕に縋る。確か、新米教師が多い副担任の中で、幸いにも教師をやって五年目のそこそこ経験のある中忍だったはずだ。仕事を押しつけることになるが、初めてのことだし、大目に見てくれるだろう…。
「無理させてごめんなさい」
カカシはイルカを抱き上げながらベッドにするかお風呂にするか、食事にするかと甲斐甲斐しく世話をやいてくれる。
幸せすぎて涙が出そうだった。
風呂を選択するともれなくカカシがついて来るというのを、丁重にお断りして、イルカはカカシが用意してくれた湯船にゆっくりと浸かった。
じんと熱が染み渡り、イルカはうっとりと溜息をついた。
イルカとカカシはその日、一日中じゃれ合いながら過ごした。平日の昼間から、真面目に動いている社会に悪い気がしたが、カカシが一年のうちに何日かはイイじゃないですか、とじゃれてくるのに、そんなものだろうかと納得した。
「明日は慰霊碑に行きませんか。いろいろと報告したいことが」
「そうですね」
カカシの言葉に同意して、翌日は慰霊碑まで脚を伸ばした。天気が良くて、イルカとカカシは途中で弁当と酒、花を買い求めて、慰霊碑を参った。
花を供え、一升瓶で買ってきた酒を二合ほど残して、残りは黒っぽい花崗岩で作られた碑石に惜しげもなく振りかけると、二人で並んで黙祷を捧げた。
かがみ込んでイルカはカンナの名前に触れる。カカシもイルカの手元を覗き込むように屈んで、同じように労るように、その名を撫でる。
ぽつりと、有り難うと呟く声が聞こえた。
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