autumn
翌日の、話。
昨日言ったとおりイルカが余った栗御飯でお握りを握ってくれたので、昼飯の時ナルトを筆頭にした欠食児童どもにそれを分けてやった。
分けてやる、という表現は適切ではない。
これは元々こいつらのために握られた物でもあるから。
イルカの分け隔てないそういう誠実さに非道く救われているくせに、それで居てどことなく悔しいような気もしてしまう。
馬鹿だとは分かっているけれどどうしようもない。
誰にでも優しいイルカ先生の、だけれども自分に向けられるほんのちょっとの特別に縋るくらいしか、思いつかない。
「ねぇ、カカシ先生。これ先生が作ったの?」
握り飯を食べながらどこかぼんやりしたカカシに何気なくサクラが尋ねる。
カカシの呆れたような視線はお握りをがっつくナルトとサスケに注がれているようだった。
なんだかんだ言いながらサスケは思いの外意地汚い。
ナルトと張るくらいには。
隙だらけだ。
「んぁ?」
よく聞いてなかったらしく生返事を返すカカシにサクラはもう一度尋ねた。
「だからぁ、これ、どうしたのって?」
自分の持っているお握りをカカシにずいと差し出してサクラは息巻く。
ようやくサクラの質問の意味を理解したカカシは、あぁ、と呟いた。
「イヤ、ウチの奥さんが、ナルトがどうせろくなもん食べてないだろからって……。」
「奥さん!?」
驚いたように声を上げたサクラに気が付いているのかいないのか。
ナルトとサスケは食べるのに忙しいようで二人の会話に参加する意志はまるでなさそうだった。
「奥さんって、カカシ先生結婚してたの?!」
サクラの目は見開かれたまま、お握りはその手の中で無惨にも握りつぶされていた。
そんなことに気が付く余裕もないようである。
「あ〜、イヤまだだけど、もうすぐするって言うか昨日やっと同棲オッケーの返事貰ったっていうか…。」
覗いている右目の目元をなんだか赤らめて照れたように言うカカシにサクラは生暖かい視線を注ぎながら、顔を引きつらせて呟いた。
「同棲?結婚間近?」
この人格破綻者が?
どんな物好きなんだろうか。
薄気味悪くなってカカシを見たサクラはふと疑問を感じた。
「っていうかなんでカカシ先生の奥さんがナルトの心配なんかしてるのよ。」
そもそも何で面識あるわけ?
胡乱げな視線を向けるサクラ。
いかにも胡散臭いような気がする。
他でもない、カカシ自身が。
「あ〜、それは…。」
言いかけたカカシを遮って話に話題のナルトが割ってはいった。
「カカシ先生、カカシ先生ってばよ!」
話を中断されてサクラは行儀悪く舌打ちしてナルトを睨む。
怯むナルトに助け船を出すようにカカシが合いの手を入れた。
「ナニ?」
ホッとしたようにナルトは元気を取り戻してカカシに懐きながら言った。
「あのさ。これ無茶苦茶うまかったってイルカ先生に伝えといてくれってばよ!」
満面の笑みを浮かべるナルト。
見ればあれだけあったお握りはあらかたなくなってしまっていて、残りわずかなそれらもサスケの腹に収まりそうな気配である。
邪気なくカカシに笑うナルトの台詞にまたしても驚いたのはただ一人、サクラだった。
「い、イルカ先生?!」
完全に声が裏返っている。
そうしてサクラはカカシを見た。
カカシはといえば相も変わらずちょっと照れたように頬を赤らめちゃったりなんかしてて。
はっきり言って気味が悪い。
「え?サクラちゃん、どうしたんだってばよ。」
突然叫んだあげくカカシを薄気味悪いモノを見るように眺めているサクラに、ナルトは驚いて目を見開く。
その声にやや自分を取り戻したのかサクラは今度はナルトを標的にして声高に問いただした。
「ナルト!あんた何でこれがイルカ先生の作ったものだって分かるのよ!?」
はっきり言ってサクラが怖い。
ナルトはいつもより数段殺気の籠もったサクラの視線にしどろもどろと答えた。
「や、だって俺前イルカ先生に栗御飯作ってもらった事あるし…。」
おどおどと答えを返していたナルトを捨ててサクラはカカシに食って掛かった。
「それホントなの?カカシ先生?!」
さっきからサクラの顔は赤くなったり青くなったりせわしい事この上ない。
カカシはサクラに片目だけでにんまりと笑った。
「イルカ先生って料理は美味いし可愛いし優しいしもう文句の付け所もないよネェ。」
完璧。
そう言いたげなカカシにサクラは猛烈に驚いて声を上げた。
「えぇ〜!?」
あのイルカ先生が?!
カカシと?!
まさか、でも。
ちょっと待ってこれってひょっとして美味しいネタ?
高速回転する内なるサクラに気が付きもしないでナルトは困惑した表情を浮かべていた。
「二人とも何の話してるんだってばよ??」
任務報告書を携えて受付所に戻ったサクラによってカカシの不用意な発言が洗いざらいイルカにばらされてしまい、同棲の話が保留になってしまったのはまた別の話。
fin
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