adagio in C minor
「今桔梗峠は紅葉がきれいじゃろうなあ…」
わざわざカカシを呼び出したはずの火影は、執務室の窓から望める木の葉の里を見下ろしながらそう言った。そこから見渡す限り紅く染まった木など一本も見えない。里の木々が色づくにはもう少し後だ。
「桔梗峠がお主を呼んでいるぞ」
火影はたっぷりと皺を寄せながら口角を吊り上げカカシを振り返った。
そうだろうと思った。こうの老獪な人物が勿体ぶった言い方をするときは、大概カカシにとっては余り良くない通達をしてくる。
そして、カカシの予想通り、火影は執務机の上から巻物を一本取り上げてこちらに差し出してきた。
「任務だ。既にアスマと紅には通達している」
同期下忍担当の二人も動員されているというのであれば、カカシが子供を理由に断るのは難しいが、それなら、誰があの新米下忍共の面倒を見るというのだろうか。
「子供達はどうするんですか?」
仕方なくカカシは差し出された巻物を受け取り、紐解き始める。
「ちと骨だが儂とエビスで面倒を見るつもりじゃ。図書館の整理でもさせようかのう」
カカシは巻物を開き、ざっと中身をあらためる。
任務は木の葉と外を繋ぐ主要な街道で出没する賊の掃討。賊の狙いは外から入ってくる物資。桔梗峠、白鶴峠、神木峠を通る商隊の荷物を誰も傷つけずに奪う手口から、賊の中に忍が在籍し、何らかの幻術が使われていると考えられてカカシ達に声が掛かったようだ。
「かなり広範囲で暗躍しているんですね。大きな部隊なのかな…」
三つの峠は木の葉のおよそ東西南に位置していて、木の葉は交通の要所を賊に抑えられている状況になる。ともすれば三つの峠に出没する賊が連携した大部隊で、且つ、混ざっている忍が抜け忍ではなく明確な意志で木の葉の物資を狙っているという可能性も有り、被害が物資だけで留まっている今の内に叩きつぶしておかなければならない。
「…確かに、これは放ってはおけませんね…」
任務の重要性を確認してしまったカカシは、気乗りしないまでも、断る気はすっかり失せていて、溜息混じりに巻物を巻き戻した。
「お主は桔梗峠だ。アスマは白鶴峠、紅は神木峠に向かい、それぞれ準備を進めている。中忍を二人と、この被害について調査をした一人がチームに就く。もし、四人で手に余るようだったらすぐさま連絡をくれ。出発は明朝八時。既に関係者には全員集合場所を報せてある。…今日みたいに遅れるでないぞ…」
「…了解…」
本来ならば、紅とアスマと三人で同時に話を受けるはずだったのだが、カカシだけいつものように遅刻してしまい、一人でこの場に立っていることを漸く窘められる。くどくどと説教が始まる前に退散してしまった方が得策だ。カカシは来たときとはうって変わってそそくさと早足で執務室を退散した。
翌日カカシが集合場所へと到着したのが八時十分。
間違いなく火影から手渡された巻物には集合時間八時とそう書かれているし、集合場所も間違っていない。里の南門前。
しかし、そこには人待ちをしている人間の気配など無く、里の内へ外へと行き交う人が居るばかりだ。門番の忍が時々こちらを見ていて、視線が合うと会釈をしてきてきたから、思わず会釈を仕返す。
途方に暮れて何度も巻物を確認してみるが、やはり南門に午前八時。日付も今日。一応部隊に上忍はカカシ一人きりだから、カカシが部隊長という立場になり、まず置いて行かれるようなことはないはず。
しかし、忍の装束の人間も、商人も次々とカカシの前を通り過ぎて行ってしまう。呆然と朝の働かない頭は何も行動を起こす気にならず、暫く立ちつくしていると、一人の忍がやってきた。頭のてっぺんで結わえた長い黒髪がひょこひょこ動いているため、カカシのぼんやりとした視界でも注意を引かれたのだ。
その人物に焦点を合わせてみると、それは見知った人間だった。
「あ、おはようございます、カカシ先生」
それはカカシが担当している下忍の元担任、うみのイルカで、カカシがそこに惚けているのを見つけて、さわやかな挨拶を仕掛けてくる。この人、朝が強そうだな、と思いながらカカシは「どうも」と顕著に低血圧なテンションで挨拶を返した。
イルカとは面識があり、何度か喋ったことがあるものの、親しいという訳ではなく、知らない間柄では無いという微妙な関係が居心地悪い。こんな時間に出歩いていて良いのだろうか、アカデミーか受付で仕事じゃないのか。里から南門の方へと歩いていたから、カカシと同じように里外の任務なのだろうか。色々と疑問が浮かんだが、カカシの口は重く、声帯を震わせることさえ億劫に感じたから、それ以降押し黙ってイルカを見送ろうとした。
しかし、イルカはにこにことしたままカカシの方へと歩み寄ってきて、あろう事かカカシの横に並んで人待ちの体勢を作った。その、当然の流れだというイルカの様子にカカシは戸惑った。
「他の面々はまだですか? もう少し集合時間までありますからね」
イルカははきはきとした様子で懐中時計を取りだして時間を確認したり、周囲を見渡したりしている。
「しかし、ナルト達から毎日遅刻してるって聞いてたもんですから、カカシ先生が遅刻しないでいらっしゃるとは思っても見ませんでした」
「…………」
流石にイルカのそんな言葉を聞いてしまえば、ぼんやりとしたカカシでも色々な可能性を思い付いてしまう。
「……もしかして、イルカ先生も桔梗峠へ…?」
「そうですよ、任務でご一緒します。あ、よろしくお願いします」
慌ててイルカがカカシに向き直り、ぺこりと頭を下げてくる。その拍子で髪束の先がカカシの鼻先を掠めそうになった。
「…こちらこそ…」
そういえば、火影は中忍が着くと言っていたが、誰とは言っていなかったし、自分もそれを確認する前に御前を辞してしまった。ここで自分は一体誰と待ち合わせをするつもりだったのか。
「…それで、オレの集合時間は八時って言われてたんですけど…」
「ええ? オレは九時って…」
慌てて懐からイルカは巻物を取りだして、詳細を確認し出す。カカシもイルカに倣って巻物を取りだして照らし合わせてみれば、確かにイルカのものには九時、カカシのものには八時と明記されていた。
「…ああ、カカシ先生は遅刻するからって、きっと三代目が集合時間を早く書いたんですね…!」
イルカは楽しそうに笑って頷いている。カカシはあのじじい〜!と心の中で怨嗟を念じながらながら、巻物を巻き戻した。しかし、これで、カカシが派手に遅刻したわけではないということが判明して良かった。それに、実際に八時と指定されて間に合っていなかったのだから、文句も言えない。
「早くカカシ先生が来てたから吃驚したんですよね」
そういうからくりか、やるな三代目〜。と、イルカは非常に愉快そうだ。普段ならここでカカシはカチンと癇に障っていたかもしれないが、今日は珍しく、してやられましたと苦笑するに留まった。いつもより短い睡眠時間に、怒るというテンションのハードルは高かったのかもしれない。
残りの二人の中忍も九時までに南門へと現れて、二人が受け取った任務指示書を確認してみれば集合時間は九時と記されていた。遅刻しなくて良かったと思う反面、あと一時間弱は寝られたのにと考え、カカシは釈然としない気持ちを抱えたまま三人を連れて南門を出発した。
桔梗峠まではおよそ六時間ほどで、その道々今回チームを組む面々の自己紹介をした。目の細い男がタイゴ、アスマと変わらないような巨体の最年少がコブシというらしい。そして、火影の言っていた前調査をしていた人間というのがイルカのようだった。それをカカシは意外に思った。
「イルカ先生はアカデミーや受付だけじゃなくて、任務で外にも出るんですね」
「ええ。子供達相手でもそれなりに体力は付きますけど、やっぱり任務の感覚を失いたくなくて」
その言葉でカカシは漸く、穏やかそうな外見とは裏腹にイルカも根っからの忍なのだと認識した。言外に衰えることを恐れているイルカの発言は、この仕事に誇りを持っている証でもあり、努力が窺えて好ましく思うと同時に、範たれという教師根性も見え隠れして、結局「ふうん」と曖昧な返事に留まらせた。
イルカはタイゴやコブシとも顔見知りのようで、道すがら親しげに言葉を交わしていた。それとも誰とでも仲良くなれるという希有な能力の持ち主なのか。どちらにしろイルカはこの二週間の任務の中で仲立ち役として、役に立ってくれそうだ。
カカシが時間を厳守したことにより宿にはいくらか早めに着いた。そこは木の葉の里の息が掛かった宿場で、一般客とは別の棟、別の出入り口が用意されている忍の施設だ。カカシ達はそこを拠点として二週間以内に結果を出さなくてはならない。
もしも四人で殲滅してしまうことが出来るなら殲滅、不可能なくらい奥の深い賊であったなら、実体を調べて火影に報告――――というのが今回の任務だ。
宿が用意してくれた遅い昼食を摂って、それからすぐに地図を広げてどうやって任務を進めていくか話し合いの場を持った。
「イルカ先生、最初に分かっていることをもう一度説明して貰えますか?」
一応報告書でことのあらましは確認しているが、四人の意識すりあわせのため、イルカに状況の説明を求める。イルカは面倒そうな素振りを見せずに頷いた。
「それじゃあ、最初から説明させて貰いますね」
イルカは膝立ちになりテーブルに広げられた地図を真上から覗き込むような体勢になって、口を開いた。
「賊による襲撃が起きているのが、桔梗峠、白鶴峠、神木峠の三カ所。いずれも里の交通の要所となる峠です。被害は九月から全部で十七件。商品だと思って運んでいたものがいつの間にか瓦礫や岩にすり替えられていたそうです。被害者は桔梗峠、白鶴峠、神木峠を越えてきたと言っています。彼らの話によると記憶が曖昧でぼんやりとしている時間帯があり、それがみんな共通して二十一時から二十三時の間。この時間帯に何らかの術を受け、自分の運んでいるものが商品だと思いこんで木の葉に持ち込んだものだと思われます」
それからイルカは手持ちの資料を引き寄せて、術の被害を受けたおおよその予測箇所を地図上に記していく。
「…結構集中してますね」
「そうですね。ただ、これは彼らが朦朧としている状態での記憶なので、確証は無いんですが…」
被害者の記憶が曖昧になったとされる箇所は三つの峠の全てで、道が大きく曲がった箇所になり、外から木の葉へと向かう道では上り坂。おそらくはその近くに身を隠せる茂みがあるのだろうと簡単に予測できる。自分も通りがかりの人間に術をかけるのなら出来る限り見つかりにくい場所で印を組みたい。
「…う〜ん…」
これが小部隊だと分かっているのなら、手っ取り早く囮商隊でも組んでその付近をうろつけば良いのだろうけど、まだそうと決まったわけではなく、これがもし人海戦術で来られたらこの人数ではひとたまりもない。あくまでも四人という人数は隠密行動に適した頭数で一点突破型。敵の背景や規模が定かでない今実際に敵と接触するのは避けたい。
「この中で医療忍術に一番長けているのは? 因みに、おれは全然ダメ」
三人の中忍はそれぞれ顔を見合わせた結果、出た答えはコブシと言うものだった。恵まれた体格をしている最年少が、一番治癒能力に長けているとは意外だ。
「…何か、体術とか得意そうだけどねえ…」
「はあ、よく言われます…」
もしかして筋肉で体が重いタイプなのかもしれない。少し気を配っておかないといけないようだ。
「まあ、じゃあ、コブシ君はここに常駐で、残り三人で見張ってみることから始めますか〜」
イルカは異論が無いようで、はいと百点満点の返事をして立ち上がる。
「じゃあ、ちょっと現場を見ておきたいんですが」
どこかイルカの声が弾んでいるように聞こえるのは気のせいだろうか。しかし反対する理由もなく、カカシは頷いた。
「そうだね…見張るポイントも三人で共通して置いた方がいいかもしれないし、ちょっと行ってみますか」
旅人と同じような素朴な衣服を身につけ、背負子を背負う。一般的なそれよりもいくらか体格が良い四人だが、ちょっとそこまで買い出しに行く格好に見えないこともない。昼間だから問題視されないだろうという甘い考えのもとの緩い変装だが、こんなところでチャクラを使った変化など使いたくない。カカシにはスタミナが無いから出来るだけそういう精力は溜めておきたい。
四人で揃って出掛け、イルカの示したポイントをじっくり眺めることができた。幸いそこには紅葉の木が群れていてそこだけ綺麗に色づいていたので、誰もカカシ達四人を訝しい目で見る人間は居ないだろう。
「うわーすげー…」
カカシの隣でイルカが目をきらきらとさせてそう呟いた言葉が脳裏に焼き付いた。
本当にこの人、仕事でここに来たのだろうか。それともカカシの周囲には極めて希な、感激屋という人種なのだろうか。
宿に戻って実際に見張るポイントを決めた。必ずカカシの口寄せした忍犬二頭と一緒に日中は一人、夜間は二人というローテーションを組むことになった。
コブシが「オレ一人だけ楽して良いんですか?」という明後日なことを言っていたので、パックンに甘噛みして貰い、実際にその日から監視に就いたのだった。
九月からこっち十七件もあった商隊襲撃事件。頻度から言ってすぐに賊は馬脚をあらわすと思っていたが一週間は音沙汰が無く、若いコブシとタイゴはイライラと落ち着かなくなっていて、宿の人目のない場所で組み手や術談義に花を咲かせていた。一方イルカは見張り役の合間を縫って宿の温泉を楽しんでいて、ストレスと無縁の任務ライフを送っているようだ。勿論一般人は入らない忍専用の温泉で、最初こそカカシもコブシもタイゴも物珍しく入ってみたが、結局シャワーで済ませてしまうため、今はイルカ専用のようになっている。
カカシはチームの面々を見て少し緊張感が足りていない、とは思うものの、ここまで収穫が無ければだれてしまうのも仕方のないこと、自分だけでも気を張っていようと心に決めて、畳の上に寝転がり愛読書を広げるのだった。
そんな中異変が起こったのは任務に就いてから十日目の夜で、その日はカカシとイルカが街道の監視に就いていた。
月は半分より細く鋭利な先端を見せていたが、その分光りは弱く一般人には視界が暗いことだろう。それを懐中電灯で補った商隊が近づいてくるのをカカシは木陰から見ていた。
こうした商隊はこの十日間嫌と言うほど見送ってきた。木の葉内外へと向かう商隊は日中も合わせて二十は行き交う。今が秋で、実りと蓄えの季節であることが商隊の交通量を増やしている一因になっているのだ。里の中でも農業や畜産は行われているが、それでも長年の平和で膨れ上がった人口を支えるには外から物資を買い付けないと冬場は越せない。ましてやカカシの好きなサンマはこの時期に外からしかやってこないのだ。それを止められてしまえば秋の楽しみが減ってしまう。
そんな越冬物資を運んでいると思われる商隊の様子が気に掛かった。
どこか、彼らの様子がおかしい。じっと様子を観察してみると彼らの視線は懐中電灯に照らされた場所ではなく、虚空を眺めているようだ。明かり自体も一定の場所を照らしている訳ではないようだ。
まさか、とカカシは額宛を引き上げて写輪眼を晒した。
じっと左目で彼らを見つめると、経絡の流れが淀んでいるのが分かる。
――――幻術だ!
「カモがネギ背負って来たよ…! イルカ先生に伝えて…!」
カカシは側にいた忍犬の一頭にそう伝えると、ゆっくり坂道を上っていく商隊から目を反らし、茂みの中を隈無く捜す。術者が必ず近くにいるはずだ。カカシもイルカもお互いの気配を断って潜んでいるからお互いの居場所が察知できない代わりに、相手からもこちらを見つけることは難しいはずだ。カカシのように犬でも使わない限り。
幻術にも色々効果があるから、もしかしてもう既に商品を奪い逃げ去った後かもしれないが、勿論その場に止まって術をかけ続けている可能性も高く、カカシは必至に目を凝らす。すぐ側にイルカが到着したことが分かったが、それでも集中を解かなかった。イルカはじっと商隊の動きを目で追っているようだ。
もう少し下の方の暗がりで、ついにカカシはチャクラを練っている人間を見つけた。どうやら人数は多くない。術者一人に護衛が三人程度。
「…居ましたよ」
カカシの言葉にイルカは動揺も見せず、一つしっかりと頷く。
「商隊の方はどうしましょうか…」
「荷物の安否と術解除はタイゴ達に任せましょう。オレ達は術者を見張って拠点となっている場所を探しましょう」
すぐにカカシの意志を察した忍犬が宿に向かって駆け出す。一瞬それに気を取られたイルカだったが、カカシの提案に異論は無いようで「それで奴らはどこに…」とカカシの説明を促してくる。
「…今はあそこの角の先にある茂みにいますね。距離はおよそ百メートル。多分四五人で行動していますが、忍術を使っているのはその内の一人のようです」
イルカはその場で目を凝らしカカシが示した場所を見ていたが、やがて首を振った。
「…オレには見えません…。奴らが移動し始めたら指示もお願いします。もう少し明るければ見えるような気もするんですけど…」
イルカは恨めしそうに空を見上げる。夜目が利くとは言え忍でも夜の視力はそう高くない。カカシだって彼らが見えたのは左目に備わる写輪眼のお陰だ。
「…もしかして、この十日間姿を現さなかったのは月が明るかった所為かもしれませんね…」
「え…?」
カカシの呟きにイルカがふっとカカシを振り返った。
「だって、これからどんどん新月に近づいてくるわけでしょう?そうすればいくら忍だって視界が不自由になってくる。隠密行動を取るなら新月の晩が一番良い」
「…ああ…、なるほど…」
新月に近くなればなるほど頻度が上がっているのではないだろうか。これまで十七回にも及ぶ襲撃の日の統計を取ってみる必要がある。
「…奴らは商隊を追いかけていないんですか…?」
「…追いかけていませんね…」
――――もしかしてもう商品を奪ってしまった後なのか…?
イルカも考えたことは同じようで、思わず顔を見合わせると、静かに木から降りた。二人に一頭ずつ附いていた忍犬が擦り寄ってくる。
「臭いを採取するか、何か特殊な臭いを付ければ奴らを追うことが出来ます。とにかくやっと掴んだチャンスなので逃さないようにしましょ」
カカシが音も立てずに歩き出すと、イルカもそれに倣いカカシの後を附いてくる。近くに寄るとイルカも姿を確認出来たらしく、視線が賊の方へと定まった。
「カカシ先生、オレはここで…。商隊の方を見張っています」
イルカはそう言うと、来た道を戻ろうとした。
「ああ、待って。忍犬を連れていって。タイゴ達と商隊が接触したのを見届けたらまたここに戻ってきて下さい」
賊が途中で移動しても忍犬が居ればカカシの臭いを辿ってまた合流できる。イルカは素直に頷き、側にいた一頭を連れて踵を返した。
商隊は既に通りすぎているのに、幻術の仕掛け人はまだ印を切りつつ、チャクラを練っている。余程緻密な大技なのか、術者が未熟なのか、距離があってチャクラの質が判断できない。もしも自分の目にはまっているものが写輪眼ではなく白眼だったなら判断できたのだろうが、無い物ねだりをしても解決しない。相手の力量が分からない内にこれ以上近づくのは危険だと判断して、彼らの出方を窺う。
「奴らの臭いを探って」
忍犬は了解したとばかりに小さく頷いて、すんすんと鼻を鳴らし臭いに集中し始める。
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