テレビから流れる雑音に混じって、コトコトと何か幸せな音が聞こえている。
火にかけた鍋がコトコトと。
幸せな音を立てている。
大晦日の夜。
大晦日
炬燵に足を突っ込んだままお猪口の酒をくいと流し込む。
ほんわりとした気分で冷たい机にぺたりと頬を付けて目を閉じて。
台所から流れてくるいい匂いに思わず笑みが漏れた。
こんな時、幸せが形になって現れているような気がして。
とても暖かな気分になる。
テレビから流れているのは年末特有のどこか騒々しい特別番組。
誰もが新しい年の到来にどこか胸を躍らせている。
そんな、季節。
今日が終われば新しい年がやってくる。
夜が明ければ、もう新しい年なのだ。
いつもと変わらないはずの夜は、どこかそれでも特別で。
その特別な夜を、誰よりも大切な人と過ごせることの。
倖せ。
とろとろと優しい気配に包まれた暖かい夜。
お猪口の酒をちびちびと飲みながらカカシは背中を丸めてぼんやりとテレビを眺めていた。
「カカシ先生、出来ましたよ」
半分眠っているようなカカシの前にイルカは、とん、とお椀を置いた。
お椀の中は年越しそば。
湯気の立つ蕎麦からは食欲をそそるいい匂いがしている。
「おいしそうですね〜」
酒のせいかどこか眠そうなカカシがそう言ってとろりと笑った。
「美味しいですよ」
そんな無防備なカカシを見てイルカも笑う。
空気がひどく優しくて。
ゆるくゆるく抱きしめられているような、そんな甘い拘束感にどことなく捕らわれて。
甘い、空気に溶かされたみたいに。
バカみたいに幸せで、イルカはまた笑った。
蜂蜜につけられた果物にでもなったのではないだろうかと。
そんな気さえして。
これ以上幸せに浸りきる前に。
イルカは箸を持ち上げた。
「いただきます」
「イタダキまーす」
それにならってカカシも神妙に箸を持った手を顔の前で合わせる。
何だか奇妙な、光景。
自分の作った蕎麦を啜りながら、我ながら旨いと心の中で自賛する。
「イルカ先生、天才ですね。これ無茶苦茶旨いですよ〜」
嬉しそうなカカシの顔とかち合う。
「カカシ先生褒めすぎです」
「ホントのことですよ」
笑い合う。
蕎麦を啜りながら。
今年は色々あったなとか。
色々のほとんどにカカシがかかわってるな、とか。
幸せ、だな、とか。
何でもない会話をしながら。
「あ、イルカ先生。聞こえます?」
唐突にカカシが言った言葉に耳を澄ませば。
遠くで除夜の鐘が鳴り出していた。
今年もあと少し。
「聞こえますよ。今年ももう終わりですね」
少し高い、コーンという鐘の音が。
テレビの雑音に混じって聞こえている。
暖かい部屋で、蕎麦なんか食べながら。
優しい、時を。
過ごす幸せ。
「来年もよろしくお願いしますね、カカシ先生」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってまた、笑い合った。
おおみそかのひ。
fin
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