この感情についての2、3のこと
何がどうとか、どこがどうとかそんな問題ではないのかもしれない。
ただひたすらに煩いと思う。
それは初めて会ったときから変わらない印象で、今でも変わらない。変わり様がない。
うるさいというよりもその熱気が煩わしいとさえ思うのに、何がどう間違ってこの熱血漢が好きになってしまったのか。
日向ネジは隣で自分以外の男について熱く語り倒す熱血少年を盗み見て、気付かれないようにそっと溜息を付いたのだった。
ああ、うるさい、とそう思う。
何だって自分が好きな相手の口からよりにもよって他の男の自慢話を聞かなくてはならないのか。
そりゃ口を付いて出る話題の男は自分も認める凄腕の上忍で、あまつさえちょっとその実力には尊敬の念すら抱いてはいるのだが。
暑苦しいのさえ除けばそうイヤなところはないと、思う。
だが、それとこれとは話が違う。
大体こいつはガイに傾倒しすぎている感が否めない。
似たもの同士気が合うというか、何にしても面白くはない。
これがただの嫉妬心でしかないことなど聡いネジには分かりすぎるほど分かっていて、いつものこととはいえどうにもムカムカする胸の裡を思ってネジはまた溜息を付いた。
「ネジ、聞いてるのか?」
よほどつまらなさそうな顔をしていたのか、いつもだったら我関せずで一方的にまくし立てるリーがようやく気が付いたようにネジに問うた。
正直な話全く聞いていなかったのだがそうそう素直に聞いていませんでしたと言えるはずもなくネジは曖昧に頷いた。
「あぁ、まあ、聞いてるが」
颯爽と歩いているにもかかわらず内心トボトボと歩いていたネジはリーの視線から逃げるように前方に目を向けた。
その視線の先に人影が映る。
高い位置で括られた黒い髪と姿勢の良いその歩き方、後ろ姿には確実に見覚えがあった。
「…イルカ先生」
何とはなしに呟いたその言葉をリーが耳ざとく聞きつける。
「え?あ!」
自分もリーもアカデミー時代随分と世話になったその教師。
明るく優しい、芯の強い、今にして思えばとても先生らしい先生だった。
何となく感慨に耽っていた自分をいとも容易く置き去りにして気付けばリーはイルカの後ろ姿に向かって走り出していた。
「イルカ先生!」
おまけに叫びながら、である。
これではアカデミーの生徒とあまり変わらない。
下忍にもなって何と落ち着きのないことだと思いながらやや速度を上げながらその後ろ姿を追う。
イルカの隣にはもう一人忍がいた。
銀の髪と顔の半分を覆う怪しげな口布と左目を隠す額当て。この特徴はどこかで聞いたことがある。
しかも最近、というか下忍になってから割と頻繁に。
あれが、ガイのライバルの、カカシ、か?
自分の師から何度となく聞かされたライバルらしい人物がイルカの隣にいかにも自然に収まっている。
一体どういう知り合いなのだろうか。
「リーじゃないか。どうしたんだ、こんな所で。元気でやってるみたいだな」
「イルカ先生こそ、お元気そうで何よりです!」
何だか妙に張り切ったようなリーの態度が何となくまた気に入らない。
またしても嫉妬である。
自分も案外に独占欲が強いようで、まだ手に入れてもいない思い人の言動いちいちに腹を立てているようでは身が持たない。
イルカはリーとひとしきり話をしたあとそうしてこちらにも視線を投げる。
「ネジも元気で頑張ってるか?」
「見ての通り、元気です」
お久しぶりですと頭を下げながらようやく追いついてリーの隣に並ぶ。
実際の話、イルカ何かよりもガイのライバル、カカシらしい人物の方が気になった。
妙にイヤそうな目をしているような気がする。
実際の所は隠れている部分が多すぎてよく分からないのだが。
本当に、これがカカシか?
「カカシ先生、こちらガイ先生の班の……」
「あぁ、知ってます」
思いがけずイルカの口から決定的な証拠が飛び出してネジは内心喜んだ。
これがカカシか。
イルカとカカシとネジが何かワイワイと話していたが思いがけず出会った師のライバルを一人まじまじと観察していた。
歩きながらリーとイルカは仲良く話をしている。
ノリが似ているせいかリーはイルカのこともいたく尊敬しているようだった。
ひどく楽しそうである。
また面白くない。
今度は自分など彼の眼中には全くないようだし。
横を見ればやはり会話から弾き出されたカカシが面白くなさそうな顔で歩いていた。
どうにも姿勢が悪いその姿からはガイのライバルだという気配は伺えない。
カカシは不意にこちらを見ると人の悪そうな顔で笑った。
「相手が鈍いとお互い苦労するねぇ」
誰にも知られてはいないはずの内側を急に引き出されて返答につまった。
顔が赤くなる。
「まだまだだねぇ、ルーキー君」
くつくつと笑いながらカカシはイルカとリーの間に割り込むべく不自然に会話に入り出す。
赤くなった顔が気にはなったがこうしてもたもたしているわけにもいかない。
そう、これは鈍くて誰かが自分を好きだとかそんなことには一生気が付かないかもしれないのだから。
だからカカシの言うように苦労するのだ。
苦労して、いつか必ず手に入れる。
うかうかはしていられない、そう思いながらネジもリーの隣に移動したのだった。
fin
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