甘い声
風呂上がり、髪を拭きながらカカシを探したら珍しく居間のテーブルに腰をかけて巻物と古い書物を開いていた。
カカシの髪もまだ濡れている。
珍しい、光景だと思う。
逆は良くあるけれどこのパターンは珍しい。
イルカが風呂から出たことにも気が付かないで、もしくは気が付いていたとしてもイルカ以上に目の前の本に気を取られている。
珍しい。
とても珍しいことでイルカはしばし、仕事をするカカシとやらに思わず見とれていた。
そしてふと思い当たった。なぜカカシが執拗に仕事をするイルカの邪魔をするのか。
あらかた髪が乾いたのでタオルを洗濯機に放り込んでイルカはぺたぺたとカカシの後ろへ回り込んだ。
なるほど、そういうことだったか。
こういう気分だったのか。
なんか面白くない。
ぺたりとその背中に張り付いて手元を覗き込んでみた。
重要機密だったらどうしよう、と心密かに思いながら。
「カカシ先生、何してるんですか?」
風呂上がりにこんな格好して仕事なんかしていたら冷えるに違いないと思っていたら案の定、カカシの背中は冷え切っていた。
「イヤね、ちょっと火影様に頼まれ事されてたの忘れてまして」
カカシは手元を隠す様子もないからさほど重要な書類ではないのだろう。
よくよく覗いてみると記されている術式が複雑すぎて到底イルカには理解出来そうにない類のモノだった。
「それ、大事なモノなんですか?」
カカシの背中に張り付いたまま冷えたその肩に顎を乗せてイルカは訊ねた。
「えぇ、まぁ一応」
答えながらも巻物から目を離さないカカシにイルカは頬を擦りつけた。
その行動にカカシの手がぴたりと止まる。
「カカシ先生、それってオレより大事ですか?」
回した腕にほんの僅かに力を込めて笑いを含めたような声で囁いてみた。
甘えたように。
その言葉にカカシの動きが完全に止まる。
「ねぇ、カカシ先生?」
擦り寄るイルカにカカシはばりばりと頭を掻いた。
「あ〜、もう。アンタより大事なモノなんてありませんとも」
参った。
といいながらカカシはイルカの腕をさすった。
参ったと言って困った顔をするけれど、風呂で温まったイルカの腕に頬を押し当ててカカシはそれでも笑う。
「ところでイルカ先生、ここがイイですか?それともベッド?」
そう笑って言った。
ほんの少しだけ頼まれ事とやらはいいのか、と思ったけれどとても気分が良かったので火影にほんのちょっぴり謝りながらイルカはカカシの理性を砕くとても綺麗な笑みで笑い返したのだった。
「ベッドで」
そう笑った瞬間イルカがカカシに抱き上げられていたのは、言うまでもない話。
fin
←back