in the life


In the Life






片付けをしているイルカを見て、思ったことがある。
この人はこういう光景がよく似合う。
日常というのか、地に足をつけて日々生きている人間というのか。
とにかく、こういう世界に溶け込んでとても違和感がない。
忍びとして、と言う観点から見れば、それはけして褒められるべきことではないのだろうけれど。
それでもそれは人間としては至極当然の、正しい姿。

反して自分はどうだろう。
自分に似つかわしい世界とは、あの昏い錆びた匂いのするそこだろう。
そう言う世界しか自分には似合っていないのだ。多分。
ここにこうして、陽光性の高いあの人と一緒にいることがとても不自然なような気がしてまた、いつものように少し悲しくなった。

こんな世界にいても、きっと自分は錆びた匂いがするに違いない。

ごろりと転がった床からイルカを見上げてその日常に混ぜてほしくて声をかけた。

「イルカ先生、何か手伝いましょうか?」

片付けの手を止めてイルカがこちらを向く。
黒い髪が陽に透けて映画のようだと思う。
映画のワンシーン。

「別にいいですよ、あんたはそうして転がってるのが似合ってますから」

似合ってます。
もう一度繰り返して何を思ったかイルカは不意に吹き出した。

「なんですか」

そう聞いても、答えてはくれない。
何をよからぬコトを思いついたのか、こういう時のイルカは存外意地が悪い。
というか、タチがよくない。
ほんの少し面白くなくて、どこかくすぐったいような居心地の悪さを感じて起きあがって腕の中に未だ笑いの止まらない想い人を閉じこめた。

「イルカ先生」

肩口に顔を埋めて拗ねたようにそう呟いた時イルカがまた笑った。

「カカシ先生、あんた日なたの匂いがしますね」

子供みたいだ。
イルカは笑いを止めないで腕の中で珍しく大人しくしている。

困ったことにこれだから、いつまで経ってもこの人にかなわないのだ。
情けないけれどひどく心が満ち足りて、カカシはイルカを抱きしめる腕の力をそっと強めたのだった。


fin


←back