月と甘い涙
「イルカ先生」
頬を伝う涙を唇で拭いなからそっと囁きを落とす。
組み敷いた相手は短く息を吐き出して、何です?と律義に答を返してきた。
「いや、ね」
くくっ、と喉を鳴らせば怪訝そうな顔で続きを促される。
こんな事言ったら、また怒るのだろうけど。
「こーゆー時のあんたの涙は、ひどく甘いな、と思って」
案の定顔を真っ赤にして怒ってしまった。
ああ、そんなに怒んないで下さいよ。別にからかってるわけじゃなくて。
それとも集中してないんで怒ってるんだろうか?
そんなことを言ったら今度こそ本当に拗ねそうだから言わないけど。
ああ、でも、こんな時じゃなくても、いつだってあんたの涙はひどく甘い。
秘密だけど。誰にも、あんたにも。
「何、考えてるんですか」
「イルカ先生のことですよ」
続きの言葉を口付けで飲みこんで、月だけが無関係な顔で空に浮かんでいる。
fin
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