かぜひき
今年も、ナルトが風邪を引いた。昨日からすれば、だいぶ落ち着いたようだった。
イルカにも身に覚えがあるが、どうしても小さい頃には風邪を引きやすい。年に一度は三十八度以上の熱を出して、アカデミーを三日ほど休むのが毎年、冬の恒例だった。
ナルトは今年、サクラから頂いてきたらしい。
「オレのおかげでサクラちゃんのカゼは治ったんだってば」
氷嚢を取り替えるイルカに、ベッドの上にぐったりと体を横にしたまま、力無く笑ったナルトが愛おしかった。
見舞いに訪れたサスケとサクラを任務に障るといけないからと、さっさと返したのだが、二人とも、既にごほごほと痛々しい咳を繰り返していた。
上忍は一人けろりとした表情で、彼にも身に覚えがあるのか、こればっかりはしかないねと苦く笑って、林檎やら蜂蜜やら生姜湯やらを置いていった。しかし、彼もまた、今朝方少し赤い顔をしていたのをイルカは知っている。
明日には完全に学級閉鎖ならぬカカシ班閉鎖になりそうな勢いだった。
「明日には、完全に下がってしまいそうだな」
ナルトの少し汗ばんだ額に手を当てて、イルカはやっと安堵の声を出した。長いこと高熱が続く今年のカゼには、内心冷や冷やさせられた。肺炎にでも罹られたら大事だ。
「もう、だいじょうぶだってばよ。ありがとう、センセ…」
「明日も休め。無理はいけないからな」
そのイルカの科白に、少しヤな顔を見せたナルトは、病み上がりが一番恐いところだと言うことを、まだ理解していないらしい。
「解熱剤で今は落ち着いているだけかも知れないからな。それに、完全に治してからでないとみんなに迷惑をかけるぞ」
「はーい」
渋々と言った調子でナルトは布団の中に潜り込んでしまう。イルカはその布団を上から少し直してやった。
オリオン座が南天に達する頃、イルカは自宅に戻った。
ひんやりと僅かに湿度のある部屋にあがり、入ってすぐのキッチンの明かりをつける。わびしい単色光がチカチカと朝の洗い物が残ったシンクを照らした。
この侘びしさだけでも風邪を引きそうだ。外の冷たい空気に触れるまで傍にあった子供の熱が既に、懐かしい。
凍えたつま先で大股に風呂場へと駆け込んだ。
こんな夜は、さっさと一っ風呂浴びて、気が向いたら少量のアルコールを胃に供給して、布団に潜ってしまうに限る。
湯船に栓をして早速イルカは熱めに湯を溜め始めた。残念なことに追い炊き式ではないし、湯温調節器などついていないから、具合が難しく、暫くそこで湯加減を見ていなければならない。
そう言えば、今日体を拭いてやったナルト。
だいぶ、骨格がしっかりしてきた。
鍛錬を怠っていないんだなあと、まだ小さな背中を拭きながら、感心してしまった。
口にすると調子に乗ってしまうから何も言わなかったが、あの時、口と目の端がゆるむのをどうしても抑えられなかった。
「あ」
そう言えば、ナルトの薬が切れかけていたっけな。
湯の温度がイルカ好みより少し熱い頃を見計らって、イルカは風呂場を後にした。
台所の食器棚の上に常備薬入れを探る。
忍びの家に薬は付き物だ。しかし、イルカがとりだしたその箱の中には忍びの道具的なものは一つとして入っていない。それはまた別の所に隠して保管してある。この箱には、例えば頭痛薬だとか体温計だとか、ちょっとした包帯、ガーゼなどが入っているだけだ。
その中から木の葉病院の薬剤局でもらった白い袋をとりだして中味テーブルにぶちまけて改める。
抗生物質ほど強い薬ではない。喉から来るらしい今年の風邪に効くといわれてもらっていたものだ。薬局の薬包紙に包まれ、まだ7つ残っている。
そんなものか。
とイルカは元に戻そうとかき集めた。その時にちらりとテーブルの端に八つ目の薬包紙を見付けて、それも一緒に袋の中に入れた。
その時だ。
チャイムを鳴らす音がキッチンに響き、イルカは思わずびくりと身を震わせる。帰ってきて間もない薄暗い家では、さすがにびくついた。それになにより、近づく気配が察知できなかったのだ。
と、なれば訪問者が誰か、限られてくる。そして、この時間だ。
「こんばんわ」
案の定、訪問者はカカシだった。
「こんばんわ、上がられますか?」
玄関を大きく開いてやり中へと促すと、カカシはお座なりに挨拶をして、まるで何かに誘われるように中へとゆらゆら入っていった。
「カカシ先生…?」
玄関の鍵をかけ直すと、イルカは慌ててカカシの後についていった。
まさか…。
カカシは、椅子にぐったりと座り込むとそのままテーブルに突っ伏してしまった。
「カカシ先生、どうしました?」
お茶よりも何よりも、先に、イルカはカカシの口布を下げて、額宛をむしり取った。
「…あなた…」
「やー…ん、イルカ先生のエッチィ…」
カカシは大きく呼吸しながら、イルカの手中にある額宛を取り返そうとした。が、その手は虚空を掻くだけで、どうにもならなかった。
いつもは、夏にも日焼けしにくく白い肌が、酒気を帯びたように赤く、その呼吸は、明らかに喉に何かしらの抵抗がある事を伺わせる音を伴う。
「風邪引きましたね」
「ごめーとー…」
イルカは大きく溜息を吐きながらかぶりを振り、カカシを抱え上げた。
「上忍と有ろう方が、しっかりとガキ共から頂いてきてどうするんですか」
カカシの体をベットまで運ぶと、重いジャケットを脱がせる。足のサポーターや手っ甲、ホルダも全て取り上げてから、掛け布団を被せた。
「ナルトでさえ、自宅で寝てるって言うのに…」
「ここが一番、安心するんですー…。あなたを恨む人間は、まず居ないだろうから…」
「…はあ」
間の抜けた返事を返すまでにたっぷり時間を空けてしまった。
イルカだって中忍だ。それなりに人を殺しもしてきたのに、この人は夢見たようなことを言っている。それとも、熱での譫言だろうか。
そっと、すべらかな額に手を添えてみる。露を結ぶに至らない汗がしっとりと手に吸い付いてきた。そして、それを通しての熱量はナルトの比ではないようだ。
なまじ女のように体温の低い男だから、同じ三十八度でも、高温持ちの子供が三十八度の熱でうなされるのとは全く違う。
「意地を張って死ぬのはバカみたいですよ、カカシ先生」
「殺さないで下さいよー…」
「いずれ。このままだと肺炎になりますよ。放っておくと本当に死にますからね。明日は病院に行きましょう」
「お医者さん、嫌ですう…」
はいはいと、適当に返事をして寝室を後にし、氷嚢を準備した。
はたと、イルカはナルトに準備した風邪薬の袋を目にする。
カカシにも効くだろうか。
薬に耐性が出来ていて、最早飲むだけ無駄かも知れない。しかし、イルカは一応、その薬を三包み、抗生物質のカプセルを二つ、胃薬を一つと、水差しにたっぷりの水も寝室に持ち込んだ。
「カカシ先生、薬です。飲んで効くようでしたら飲んで下さい」
そこでイルカははたと風呂のことを思い出して隣の風呂場に駆け込み、どうどうと流れ込む湯を止めた。危うく湯船から溢れさせる寸前だったようだ。
「お風呂に入る元気有りますか? ちょうど準備が出来た所なんですけど」
カカシは起き上がって水を飲んでいるところだった。早速薬を飲み干したらしく、全ての薬の残骸が盆に載せられていた。
「…暫くして、元気が有れば…」
そう言いながらカカシはしおらしくイルカの布団に潜り込んでいった。
一言断ってからイルカは当初の予定通り、風呂に入った。しかし、カカシが入り込むというたった一つの要因だけで、今後の予定が覆されてしまった。
今日は客用の布団を和室に敷いて、寝るしかなさそうだと、湯船の中、とろけた頭で考えた。
最早イルカの安息の場所は風呂しかない。そこでイルカは湯をつぎ足しながら、たっぷり一時間ほどうとうとやりながら、体をほぐした。
上がってみるとカカシは咳き込みながら起きていたようだ。
「まだ、寝ていなかったんですか?」
「…なんか、咳がひどくて…」
その声も掠れている。
「…からだ起こして、壁に寄り掛かって下さい。ついでに体拭いて上げますから、服を脱いで」
返事をしないうちにカカシはのそのそと這いだして、汗に濡れた服を、どうにか脱ぎ出す。応えるのも億劫だったようだ。
イルカは洗面器に熱めの湯とタオル、着替えの浴衣をを用意して、寝室に持ち込んだ。
カカシはイルカに言われたとおりに、壁にもたれて、荒い呼吸を繰り返している。頭からシーツを被って少し震えているようだった。
寒いのだろうか。だとしたらまだまだ熱が上がってもおかしくない状況だ。
「辛いですか…? 眠れる薬、差し上げましょうか」
カカシは小さく首を横に振っただけでイルカのほうを振り向きもしない。
今日は寝ずの番だな…。
タオルを、手を突っ込むだけでも熱いほどの湯で絞って、シーツを剥いだ。いつも白い背中が、今日は少し赤い。
自分とセックスをしてるときもこんな色なのだろうか、と、タオルを宛ながらイルカはぼんやり考えた。肩甲骨のあたりに、イルカがつけたものだろうか、比較的新しい引っ掻き傷の跡が残っていた。 カカシは。始終、細かく震えている。
内心、ヤバイと思った。
このまま悪化するようで有れば、更に39度まで熱が上がるようならば、病院にこのまま連れて行かざるを…
「…イルカ先生…」
「はい?」
ふと、嫌な想像からカカシの声で現実に引き戻される。
「つかぬ事を聞きますが、頂いた薬…四種…」
四種?
「三種ですよ? 咳止め三包、解熱剤二錠、胃薬一包」
「…あー… 四種、有ったんですけど…。木の葉病院の薬包紙の…、一つ違う味がしました…」
「え」
まさか、薬剤局が間違った薬を処方したのだろうか。
それを、ナルトと、この人に…!
イルカは一瞬にして青くなった。
「は、吐いて下さい!!」
おたおたとして、カカシを立たせようと、イルカが前に、回り込んだ瞬間、信じられないものを見た。
「必要ないです…出所、知っていますから…。それに一時間も経てば、吐いても意味無いですよ」
苦しそうにそう呟いたカカシの、ペニスが痛いくらいに勃起しているのを。
見た瞬間青かった顔が真っ白になり、その次いで赤くなった。思わずイルカは後ずさる。
「ど、どど、どう言うことですか…!」
「…あー…、多分オレが今朝、間違えて持ってきてそのまま忘れてしまったヤツだと思います…」
「も、もしかして、キッチンのテーブルの上に…」
カカシは小さく困ったように笑った。なんとか、イルカが用意した浴衣をたぐり寄せて、袖を通した。
あの、八個目の薬包紙は、だからあんなに端の方にまで追いやられていたのだ。今更ながらに、自分の鈍感さに目眩がする。
「ちょっとバチが当たりましたかねえ。この薬をあなたに飲ませてイイコトしようと思っていたんですが…」
「…媚薬、だったんですか」
「はい。オレが調合したヤツです」
なんてあほうな事を…。
イルカはその場で頭を抱えて蹲ってしまった。
なんて、子供みたいなバカなんだ。いや、子供よりも脳みそが回転するだけに質が悪い、始末に負えない。
多分イルカが騙されやすいように、木の葉病院の薬包紙を使ったに違いない。まんまと騙された。そして、それを危うくナルトに与えてしまうところだったのだ。
「そんなもの、要らないのに…」
「まあ、そうですね…」
カカシは適当に浴衣を着付けて体にシーツを巻き付けた。
また、お互いに言葉が通じてないな。
そんなもの、なくったって、十分なのに。
「そのままだと、辛いでしょう?」
え、とカカシが声を上げる間もなかった。
イルカはカカシの拙い着付けの裾を割り裂いて、今にも弾けそうなペニスを掴んだ。
「ヒッ!」
カカシの喉から引きつった声が漏れる。
「こんなことに付き合うのは、最初で最後ですからね」
そう、強がって言わなければ、とてもじゃないが恥ずかしくて死にそうだった。手の中のカカシは、まるで別の生き物みたいに、ひくりとうごめく。覚悟を決めて、口の中に引き込んだ。
「イッ イルカ先生!!」
驚いたのと、媚薬の効果でか、カカシの体が跳ね上がる。イルカの口内で、それは一層大きさを増した。カカシの体は支えきれずに、そのまま壁を伝ってずるずると崩れていった。
露わになった、カカシの、いつもは白い内側の皮膚が、今日は薄赤に染まっている。熱ばかりの変化ではないだろう。
イルカは、その手中でぴくぴくと別の生き物のように動くカカシのものに、むせそうになりながらも必死で舌を這わせた。
「せンせ…、出る」
離れなければと、思う暇もなかった。カカシの喘ぐような声と殆ど同時にその熱が口内に、だく、とそそがれた。
「ヒ…」
カカシは辛そうに眉を寄せて、体中を強ばらせ、いつもより快楽が深いことをイルカに訴える。
むせながらもイルカはカカシの吐きだした物の全てを舐めとり、無理矢理に飲み下した。慣れぬ青臭い匂いが鼻孔を抜けていく。
思わず、カカシに用意したグラスで、水を呷らずにいられなかった。
カカシは普段より、かなり早かった。
「…少しは落ち着きましたか…」
自分が一息ついてカカシを振り返ると、カカシはゆっくりと起き上がっているところだった。しかし、そのまま重い頭を支えきれなかったのか、ゆらりと揺らめいて、イルカの方に倒れてきた。
「カカシ先生!」
慌てて倒れる彼の下に入り、その熱い体を抱き留めたが、イルカも体勢が悪く、そのまま布団に倒れ込んだ。
「何してるんですか…、もうだいぶ落ち着いたでしょう? このまま眠って下さい…」
取りあえず、衣服を整えて、気管支を圧迫しないような体勢をとらせて…
等と考えながら、カカシの下から逃れようとしたが、彼はびくとも動かない。それどころか、熱に浮かされたかのように、イルカの上着をめくり、その手を侵入させてきたのだ。
「カカシ先生…!」
「…まだ」
言葉少なにカカシはイルカに腰を押しつけてきた。それは達したばかりだというのに、いつの間にか力を取り戻していて、まざまざと見せつけるようにイルカの大腿にこすりつけられる。
「だめです、カカシ先生… 熱が…」
「薬を飲ませたのは、イルカ先生ですよ」
持ってきたのはあんたじゃないか!
イルカはそう叫びたかったが、さすがに病人相手に大声で説教する気にならない。しかし、このままなし崩しに…致されてしまうのは……
そうこうしているうちに、カカシの右手はイルカの小さな乳首を弄び始める。イルカは思わず呼吸を引きつらせた。
熱い吐息を伴う舌で、頸動脈をねぶられて、腰が顕著に反応した。
「やだ…カカシ先生…!」
「うそつき。もうこんななのに」
カカシが本当に病人かと思うほど素早くイルカの下穿きを、下着ごと取り去ると、覆われて隠されていたものが、反応を示して震えていた。
躊躇いもなくカカシはそれを口に含んだ。
「アっ」
覆われた悦楽に、イルカは腰を震わせた。
「あ…んっ はなし、て…!」
「きけません」
「ア、やめ…っ んぅ」
駄目だ。自然と込み上がってくる涙に視界がかすむ。もう、理性なんて保っていられない。普段よりも熱を持ったカカシの口内にイルカの熱も容赦なく煽られる。
「ヤ…! イ、イク…!!」
嬌声も抑えられずに、イルカは腰を震わせて、白濁を吐き出した。
「ヤだ…!! 放して…!」
カカシは達したイルカを口から離さずに、最後の一滴まで絞るとるようにして吸い上げた。
「アアア!!」
最早、イルカは快楽に体を震わせて、声を上げさせられるだけだ。
カカシは吸い取ったイルカの精をそのまま後孔に、なじませるように口づけた。跳ね上がるイルカの足を押さえ付け、拡げ、空いた指と舌で丹念にそこをほぐす。
本当は、このままイルカのそこが裂けようとも構わずに突き上げてしまいたいほど、切羽詰まっている状況である。しかし、イルカは、堪えているよりも、強請ってくる方がとても淫靡だ。煽られるように自分も燃えてしまうことをカカシは知っている。
「ねえ、イルカ先生。入れてイイ?」
「…あ」
「ねえ、ここ、もう、こんなになっちゃってる」
カカシは、音を立てるようにしてわざと中に入れた指を動かした。そのたびに、カカシが中になじませた唾液やイルカの精が、淫猥な音を立ててカカシの指を伝う。
「ああ」
「ねえ、イイって言って」
きゅうっと自分を締め上げるそこに、早く埋もれたくて、体をすりつける。いつの間にか、達したはずのイルカは立ち上がっていて、存在を誇示するように、先走りの雫を流して、カカシのそれとこすれるたびに、カカシが意地悪く中のいい場所を刺激する度に、ふるふると喜ぶ様を見せつけた。
「ねえ、イルカ先生」
誘うようにのけぞらされた胸の薄く色づいた突起に、カカシが歯をたてると、イルカは無意識に中の指を痛いほどに絞り上げた。
「イ…」
触っても居ない、イルカの花心はかたく立ち上がって、2度目の限界が近い。
「…イイから…! は、早く…!!」
しっかり掴んでいたシーツを放り出し、イルカはカカシのはだけた浴衣を掴んで引き寄せて、自らの性器と擦り合わせた。
その足を痛いくらいに持ち上げて、カカシは一息に自分の欲望を挿入した。
「ヒ、アアっっ!! ンンっ」
「ひ」
押し入って、カカシは眉根を寄せる。薬や、熱などで快楽に耐性が無くなっている。それ以上にイルカの媚態に、堪えきれないほどの衝動を感じた。
後ろでの行為に慣れきった体は、後孔だけでもイけるように作り上げられて、今も、カカシの太いものをくわえ込んでなお、刺激が足りないとひくひく疼き、中の肉が煽動する。立ち上がったものは触るカカシの腹を遠慮なく先走りで汚していた。
「かわいい、イルカ先生…。だれにも、こんなこと、させないで」
「ア…ン!」
ゆっくりと腰を前後させると、イルカは薄く唇を開けて、息を吐くたびに切ない喘ぎをこぼした。
「うん…ン、はア…」
「ああ、気持ちいい…」
中を堪能するように、ゆっくりとギリギリに引き抜き、最奥まで押し上げる。イルカがもどかしそうに誘うように、胸を揺らめかせると、その度にカカシの唾液に濡れた乳うんが、妖しくひかる。
「や、かかしせんせい…、もっと…!」
「えっちだね、イルカ先生。すごい、淫乱だよ。あなたが媚薬、飲んだみたいになってる」
「ヤダ…、もっと、して…!」
「もっと?」
イルカは、もどかしくて、何度も頷き、無意識のうちに誘うように腰を揺らす。
「ここに、沢山精液入れて欲しいの? ぐちゃぐちゃにして、沢山、これくわえ込んでイきたいんだ?」
「ヤダ…!」
「ヤじゃないでしょ、気持ちよくなりたいんでしょ。もっと、ほしいんでしょう?」
「は…はい」
「ごめんね、あなたの体をこんな風に変えちゃったのは、オレだもんね…」
カカシはイルカの羞恥に赤く染まった体を、抱きしめると、律動を開始した。
「あん、や…っ、んぅ…、ひ」
カカシの律動に合わせて、イルカはあまりの快楽に抑えきれなくなった嬌声をあげる。皮膚を張り合う音と、結合部の濁音、そして、カカシの荒い呼気、イルカの甘い悲鳴が寝室に絶え間なく上がる。
もう、とどまることを知らず、二人は互いに翻弄され、互いを貪りあった。
「ヒア、アっ、んん」
「気持ちイイ…?」
イルカは必死に何度も頷いた。
そして、カカシを引き寄せる。その体は熱がある所為か、はたまた媚薬の所為か、いつもよりも汗で濡れていた。
口づけて欲しい。
今日は、一度も口づけを貰っていない。
唇を塞いで、もう、言葉なんて要らないから、吐息ごと奪いあって、イってしまいたい。
少し伸び上がれば、届く距離。しかし、そうしてイルカが背伸びをすると、カカシがそれを察して、軽く指で、その唇を制してきた。
「駄目です、イルカ先生。キスは駄目」
「な、んで…」
「オレも我慢してます」
それ以上の問答は無用と、カカシは今まで焦らして与えなかったものを、不必要なくらいに与え始める。イルカは縋り付いて、甘く喘ぎながら揺らされるだけだ。
その代わりとばかりに、カカシはイルカの至る所に口づけた。押し上げながら乳頭を交互にねぶり、鎖骨に鬱血の痕をつけ、目蓋に頬にこめかみに。
「ヤあッ、アァ、な…んで…」
「…なんでって…」
カカシは、律動を緩めて、イルカの頬をゆっくりと撫でる。その感触で初めて、自分が涙を流していたのだと自覚した。
「実は今だって薬で何とか持ってますけど、実際はふらふらなんです」
体も性欲もね、とカカシは意地悪に笑う。
「風邪があなたに伝染ったらいけないでしょう?」
イルカは腕を首に、足をカカシの腰に絡めて、逃げられないようにしがみつくと、自ら口づけた。
驚いてカカシは体を引こうとするけれど、イルカにしっかりと抱きしめらている上に、体が重くて叶わない。しかもイルカからの濃密なキスに酸欠になってきそうだ。
互いが熱に浮かされたキスは、不器用で必死で、きっと見栄えの良いものではないだろう。
イルカがキスを続けたまま、腰に絡めた足で、ゆっくりと強請るように腰を揺すってくる。ぞくりとカカシの腰に泡立つような快楽が走った。
イルカのリズムを無視してカカシは腰を打ち付けた。
「アアッ!!」
イルカは思わず唇を離してのけぞったが、すぐさまそれを追い、引き寄せてカカシは唇を自由にはしなかった。
「ンー、ンンッ、ふあ」
舌を必死に絡めて、逃がさないように抱き留める。唇と唇の間で、イルカの悲鳴が漏れた。
痛いくらいに拡げられて浮いた両脚が、快楽に引きつり、浴衣を掴む拳は震えた。カカシの腹に当たるイルカの欲は、痛いくらいに張りつめ、それこそ女性器のようにどろどろに濡れていた。カカシの腰が打ち据えられるたびに、愛しいと涙をこぼす。
「ア、イく…、イく…ッ」
「いいよ…、イって。沢山出して」
何かに堪えるように、イルカがカカシの体を強く抱いた。
「あ、あ、アアーッ!」
「ヒあ…っ」
高い声を上げて、イルカは最初よりも長く、精を吐き出した。その引きつりにつられてカカシも声を上げて、イルカの中に無遠慮に注ぎ込んだ。
そのまま二人は倒れ込み、死んだようにぴくりとも体を動かさなかった。
暫くしてから、イルカはどいてくれとカカシに肩を叩いて合図をするが、カカシはその体勢のまま動かない。力を失ったものはまだ、イルカの中に有る。
「カカシ先生…?」
カカシからの返事はない。
慌ててイルカが起き上がってもカカシは倒れたまま、ぐったりとしていた。相変わらずその体は熱を持っていて、今更ながらにカカシが病気だったことを再確認する。
「カカシ先生!」
情事に汚れた体を早く清めたかったが、最早それどころではない。慌ててカカシの脈を取り、呼吸の有無を確認する。
そうして、やっと安心してその場にへたり込んだ。
何のことはない、カカシはただ、気を失っているだけのようだ。脈も呼吸も少し速いぐらいで、異常は見受けられない。
きっと、自分の調合したという催淫剤がウィルスを持った体に効きすぎたというだけのことだろう。
イルカはカカシの体を清めるために持ってきていたタオルで、自分の吐き出した精をカカシの腹から拭き取り、乱れた衣服を整えて布団にきちんと寝かせてやった。
その後にやっと自分の後始末をしに風呂場に向かった。歩くたびに、カカシが中で出したものが、太股を伝い流れ落ちる。
それにしたって、なんて可愛いところが有るんだろう。
子供達から風邪を貰ったり、薬を全部飲んでみたり(抗生物質は一つで充分なのに)、挙げ句、自分の調合した催淫剤で欲情して、失神してみたり。
もしかしたら、ああして、情事の後始末をして上げるのは実は初めてかも知れない。いつもならイルカが先に陥落してしまうのだ。何度も求められた挙げ句に、過ぎた快楽から身を守るように。
シャワーのコックをひねり、熱めのお湯で汗を流す。あらかた体をキレイにすると、後ろに吐き出されたものを出し切ってしまうために、自分で指を入れた。
こんな事も、いつもならカカシがやってくれる。無遠慮に指を突き入れて、わざと快楽を引き出しながら処理する事を楽しんでいた。
一年に一度程度のこういった機会は構わないけど。
ふと、イルカは考える。
やっぱり、何だってカカシ先生にして貰うのが一番気持ちいいし、安心できるなあ。
カカシの精を掻き出してしまって、人心地着いてから、溜息をついた。
上がったらカカシの体をもっとキレイにして上げよう。
カカシの目が覚めたのは、しっかり朝になってからだった。
味気のないものは自分が好きじゃないから、お粥ではなくて、一手間かけて雑炊を作った。もう準備をして出ていかなければいけない時間になっても、カカシが起きてこないため、寝室に持ち込んでみれば、カカシが起き上がって、肩から何も羽織らず寒々しい格好のまま、布団の上に蹲っている。
「ああ、目が覚めましたか。気分はどうですか?」
カカシはイルカの姿を認めると、寝ぼけたように小さく笑った。無邪気でなんて子供みたいなんだろう。
雑炊の盆を適当に置くとカカシの秀でた額にそっと手を置いてみる。そこはひんやりとしていて自分の手よりも僅かに冷たいくらいだった。
「喉に痛みが残るくらいで…」
「熱は無いようですね。薬は、まあ、効いていたようですからね」
そのイルカの言葉にカカシの顔色がさっと変わる。
「…あの、おれ、記憶が無いんですけど…、イっちゃった後から、今までの…」
「ああ、気を失っていましたからね」
「ええええ!」
今度は青から赤く色が変わる。色白のカカシは顔色がはっきりしていて見ていて面白い。
「よっぽど効くみたいですねえ、カカシ先生が調合した薬は。あんまり気持ちよすぎて、失神しちゃったんでしょう」
「…確かに、昨日は凄く気持ちよかったですけど…」
カカシは打ちひしがれて、土下座をして謝るような形で、シーツにだれた。
「恥ずかしいィ…、消えたいィ…」
「もう過ぎちゃったことですよ。それよりも、朝食作ってきたので、食べられるようでしたら食べて下さいね」
「幻滅しないんですか…?」
「はあああ?!」
何を言ってるんだ、このバカは。
「だって、後戯も後始末も、一切のお膳立てもなく、あなたに負担しか…」
「そんなことで幻滅するようでしたら、とっくにオレからこの関係の清算をお願いしていますよ。逃げられないようでしたら首くくってでも終わりにしてました」
カカシは複雑そうな顔をして、イルカを見上げる。
「大切にしてくれるのはありがたいですけれどね。昨日のあなたは正直、かわいかったですよ」
そう言いながら、カカシに水銀式の体温計を渡した。カカシはまだ、納得しない様子でイルカからそれを受け取り、脇に差し込んだ。
「でも…あの薬がカカシ先生に効くとは思いませんでした」
駄目元で上げた薬があんなに効くとは。一般人用のものだから、忍びとして長けたカカシに効くとは思えなかったのだが。
「ああ、多分効いてませんよ」
脈で時間を計りながらカカシはけろりと言った。
「駄目元であなたが出したんなら飲まなきゃ怒るでしょう…? 多分昨日は沢山動いて汗をかいた所為ですよ」
「なら、結局風邪を治したのはあの媚薬と言うことですか…」
「そう言うことになりますか」
カカシを見ると、よからぬ事を考えている顔で、イルカのことを見上げている。
「イルカ先生」
「…はい」
カカシはにこにこと上機嫌な顔で手招きをする。イルカは渋々カカシの言うままに布団の端に腰を下ろす。すると。急にカカシが覆い被さってきて、唇を奪われた。
「ん…うっ」
舌を絡められて、呼吸がままならない。
体温計なんてそっちのけで、カカシはイルカの体を探り出す。それだけはと、イルカは何とか唇を振りほどき、一歩後ずさった。もうすぐ出勤の時間だというのに、体が反応を来してしまったら、いくら性欲に淡泊なイルカといえども、抑えることは難しい。
「朝からは、駄目だって…!」
抗議しようとカカシを睨むが彼はそんなことどうでもいい、むしろ目的を達した顔で、満足げに体温計を差し直している。
「イルカ先生はおれと何回もべろちゅーして、風邪菌ももうすぐ活発化しますよねー」
「…?」
起きたばかりの無邪気さは何処へやら、ありありとよこしまな想像をした顔で、嬉しそうに口角を吊り上げる。唇はキスで濡れていた。
「これで、イルカ先生が風邪を引いたら、オレが責任持って看病しますし、あの薬、飲みましょうね」
今度はイルカが青くなった。
そう言えば、昨日から少し喉が痛いような気がする…。
イルカはふらふらと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「あれー、何処に行くんですか? 逃げても無駄ですよー」
「……出勤です」
カカシは納得して、いってらしゃいーと明るい声を掛けた。
その後、イルカは結局風邪を引かずに、カカシに不興を買うことになる。
それはまた、別の話。
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