休日の前の晩だとか、それは主に金曜日とか土曜日の深夜、が多いのだけれど。
カカシには一つ、重大な仕事があった。
洗濯、である。
addicted to you
そうして、今日も今日とてカカシは洗濯に励んでいた。
洗濯をするのはイルカと寝たとき。
ぐったりとしどけなくベッドに躰を投げ出すイルカを洗濯することから始まる、のである。
別に頼まれたわけではない。
むしろ頼まれたいくらいだがそんなこと頼まれるわけがない。
ただ、イルカが目覚めたとき清潔なパジャマに包まれてすっきりと躰が整えられていると非道く嬉しそうに目を細めるから。
ただそれだけ。
その顔を見るためだけに、カカシは気怠い躰を引きずっていそいそと洗濯を始めるのだ。
セックスをした後のイルカはカカシに抱き上げられようと風呂に入れられようと億劫がってカカシの好きにさせている。
照れ隠しなのか、それはかなり都合のいい解釈に違いない、単にそれほど疲れているのかカカシにはいまいち判断が付きかねるが暴れられるよりはよほどやりやすいので深くは追求しない。
湯船に一緒に入ろうが身体を洗おうが髪を洗おうが為すがまま、である。
これは結構、と言うよりはかなり楽しい。
明るい風呂の中でイルカの裸体を余すことなく眺められる絶好のチャンスである。
布団の上でいたすときなんか明かりを付けたままだとものすごく嫌がられてしまう。
嫌がるのを無理矢理なんて言うのもそれはそれで楽しくてたまにはするけれど、なるべくならしない方がイルカの機嫌も取れて良い。
ので。
風呂に連れ込めるなんて言うのはそれはもう絶好のチャンスなのだ。
しかもその身体はついさっきまでの情交の跡を色濃く残しているときてる。
洗う振りをして体中に散った鬱血の跡を辿ってみたりすれば小さく体を震わせちゃったりして可愛いことこの上ない。
可愛い可愛いイルカ。
そうしてそんなとき大体においてイルカの抵抗は弱く小さい。
全く抵抗しないなんて事もザラなのである。
素面のイルカではそんなことは考えられないことなのだからして、それはもう楽しいに決まっているのだ。
ただそうは言ってもイルカの中に放った自分の精液なんかを掻き出すときは流石に抵抗したりする。
それでもその抵抗だって形だけだ。
形だけ抵抗しているような振りをしている、様に見える。
余韻の冷め切らない体を震わせて緩慢に中に放たれた精を掻き出す作業に耐えるイルカはそりゃあもうそそるのである。
熱く腫れぼったくなっているさっきまで自分が押し入っていたイルカの蕾に指を差し入れてぐるりとかき回す。
しとどに流れ落ちる白い液体が内股を伝っていく感触に身を震わせるイルカは顔を真っ赤にしてカカシに爪を立てたりするのだ。
小さく喘いだりなんかしちゃって本当に可愛いことこの上ない。
耐えきれなくてそのまま致しちゃうこともしょっちゅうだが、そうなると翌日のイルカは存分に怖い。
怖いというか機嫌がすこぶる悪くなっちゃってなかなか甘い雰囲気に持ち込めなくてちょっと困ったりする。
いろいろと、イルカの躰のこととか、考えると我慢も必要なのだろうけれどそうも言っていられない事情もあるというモノで。
まぁ、そこら辺はいろいろである。
存分に、ゆっくりと必要以上に時間をかけてイルカを洗って濯いで一緒に風呂に浸かってみたりしてたまには、しょっちゅうかもしれないけれど、イタズラなんかしてみちゃったりしてまぁイロイロ。
ともかく、カカシの金曜とか土曜日だとかの洗濯事情は非常に楽しいモノであるのだ。
そうして、今日も今日とて存分にイルカを洗いぐったりしたその躰を湯船の中で抱きしめながらカカシは堪えきれない笑みを漏らしていたりするのだった。
そうして、そんなこんながあってそれから、洗濯はまだ終わらない。
ちゃあんとホントに洗濯だってするのだ。
イルカのために。
イルカが起きたとき、微笑んでくれるように。ただそれだけのために。
溺れるほど愛してるから溺愛って言うんだっけ。
そんなことを思いながらカカシはイルカを居間のソファーに運んでいた。
シーツの洗い上がりを待つまでの間、ここがイルカの定位置になっている。
イルカを風呂に入れている間に回しておいた洗濯機は洗濯を終え乾燥機に早変わりしていた。
イルカの躰が湯冷めしないように毛布でくるんで自分の足を膝枕にしてソファーに寝かす。
ここで一段落。
イルカの寝顔を眺めるも良し、イルカの寝息を聞きながらイチャパラを読みふけるのも良し。
今日はイルカを眺めることにしてカカシは一応用意しておいた愛読書を床に放った。
このために、断言してもいいがカカシはこんな事のためにわざわざ、買った最新式全自動洗濯機兼乾燥機は流石の設計で音がほとんどしない。
わずかな機械音が他に音を立てるモノのない室内に低く聞こえていた。
イルカの微睡みをじゃまするモノがあるとすれば他ならぬカカシ自身だけである。
ソファーだってイルカのために新調した。
それはたまたま、任務帰りに見つけた偶然。
その日通りがかりにたまたま見つけたベージュのローソファー。イルカの好きそうな色だと思ってふと目にとまったそれ。
何気なくさわった時、その感触にふと思い出したのだ。
イルカがいつか言っていたと。
こういう手触り、好きなんですよね、そんな風に嬉しそうに言っていたことを。
ただ、不意に思い出した、それだけ。
そうしてある日カカシの部屋に突然増えたソファーを見て、イルカは大層驚いていた。
それは若干の喜びを滲ませた驚きだったようで、座り心地を確かめてその手触りにいたく感動していた。
照れたように、はにかんで笑うイルカ。
それだけ。
カカシはイルカのために買ったなんて、一言も言わなかったし、イルカだって何にも言わなかった。
だからただそれだけ。
ただ、イルカは嬉しそうに笑った。
ただそれだけなのだ。
ただそれだけだけど、カカシはいたく満足している。
イルカも多分、カカシ以上に満足している。
だってそこはそれ以来カカシの部屋の中で一番のお気に入りの場所。
カカシの家で仕事をしたり、こんな所まで仕事を持ち込むことに少しの不満を感じるけれど、それ以外にもいろいろな時、イルカはたいがいここに落ち着いている。
イルカの好みが分かること。
出会ったときよりも付き合い始めた頃よりもずっとイルカに近くなっている。
そのことが嬉しい反面自分のイルカに対する執着を見せつけられたみたいでちょっとばかり恥ずかしいような気にもなる。
けれどイルカが笑うのなら、多分自分はどんなことだってやってしまうのだと、思う。
溺れてるナァ、溺愛だ。
そんな風に思わざるを得なくてカカシはイルカの頭を足の上に載っけたまま苦笑した。
イルカは眠っている。
カカシの足に安心して頭を乗っけたまま。
その表情はさっきまでの気の狂うような熱さの中で見せていた非道く扇情的な表情からは想像出来ないくらいあどけない。
この人が好きだ、と思う。
好きで好きで頭がおかしくなるほどこの人だけを愛している、と、思う。
この人が、俺を好きになってくれて良かったと、本当に心からそう思う。
嫌われたら、厭まれたら、憎まれたら生きていけない。生かしては、おけない。
大逆を犯してでも、きっとこの人を手に入れようとしてしまっただろうから、本当にこの人がオレに笑いかけてくれて良かったと思う。
まだ乾ききらないイルカの髪を弄びながらカカシはほんの少し、笑った。
そうこうしているウチに部屋の中に満ちていた機械音が不意に途切れた。
優秀にして有能な最新の洗濯機兼乾燥機から洗い立てで乾きたてのまだ熱いシーツを取り出して冷ます。
イルカの頭の下には膝枕の代わりにクッションを敷いてその微睡みは死守したまま、カカシは程良く冷めたほの暖かいシーツをベッドに手際よく敷いた。
そうしたら出来上がり。
ほんのりと暖かい、清潔で気持ちの良いベッドの完成である。
ソファーの上で平和に寝息を立てるイルカをそおっと抱き上げてベッドまで運ぶ。
降ろしたときのわずかな衝撃にほんの少しむずがるように身じろいだイルカに口付けを落としてカカシはその横に潜り込んだ。
抱き寄せて眠る体制を整える。
カカシの胸元にごそごそと無意識に躰を寄せる姿を愛おしく思いながらそっとイルカを抱きしめた。
溺れた熱をそのままに、抱き合ったまま意識を失うように眠りに落ちるのもいいけれど、それはそれで恐ろしく魅力的ではあるけれど。そういうときも、結構あったりするけれど。
休日の前とか金曜とか土曜の晩とか、そんなときにする洗濯はカカシにとってそれはそれで抗い難く楽しかったりするのだった。
fin
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