おやすみなさいまたあした
そういえることのしあわせ
good night
浅い息を繰り返しながらぐったりとベットに沈み込む躰を愛おしく眺めながら、カカシはその額にキスを落とす。
なんて愛おしい。
可愛い人。
オレの大事な大事な人。
力の入らない躰を持て余して肩で息をするイルカが抵抗しないのをいいことに、カカシはその額に、その目蓋に、頬に、唇に、キスを落とす。
愛しているというかわりに零れる愛を全てあなたに。
軽く唇をついばむように。
軽いキスが段々と深い物になっていってカカシの舌がイルカの口内を蹂躙しはじめた頃、やっと億劫な態度でその肩を叩く。
持ち上がらない腕を無理矢理持ち上げて、初めはトンと軽く。叩く。
でも、そんなことではカカシが離れるハズもなく、くちゅりと音を立てて絡め取られる舌に燻っていた欲望にまた火がつきそうになる。
今度はもう少し強く。
今ある理性と残っている力を総動員して、ドンと叩く。
もうこれ以上は、まずい。
叩いたついでに身じろいで顔を背けようと試みる。
イルカの本気の抵抗を感じてか、カカシが名残惜しそうにその唇を離した。
「今日はもうお終いなんですか?」
そう言って赤く濡れた唇を指で拭って瞳を覗き込む。
潤んだその瞳。
「明日は仕事なんですから、そんなに無茶しないで下さい」
どこか名残惜しそうに見えるのはオレの気のせいなのかそうでないのか。
明日が仕事じゃなかったらいいんでしょうか、ねぇ、イルカ先生。
そう聞きたいは山々だけれど、そんなことを聞いたらどんな反撃を受けるか分かったモノではないから。
恐いから、聞かない。
聞かないかわりにその躰をそっと抱きしめる。
くるむように汗ばんだその肢体を抱きしめてシーツを引っ張り上げる。
「じゃあ、一緒に寝ましょう」
そう言ってオレの匂いがするイルカ先生を抱きしめて。
なんていい気分。
「シャワーも浴びないで寝るんですか?」
イヤそうな声で、でも本当はちっともイヤじゃないくせに。
その証拠に抱き込んだ躰は眠りやすい位置を無意識に探してる。
「いいじゃないですか。このまま眠りましょうよ」
なんて幸せでいい気分なんだろう。
猫のように喉を鳴らしてカカシは笑った。
ごくごく幸せそうに。
「おやすみ、イルカ先生」
あたたかい躰を抱きしめたままうっとりと目を閉じてそう囁く。
言い訳のように溜息を付いてイルカも囁いた。
「お休みなさい、また明日」
頭の上でカカシが喉を鳴らしたのが分かったがイルカは黙って目を閉じた。
そんな幸せそうな顔をして笑わないで下さいよ。
あんただけが幸せなんて思っちゃいないとは思うけれど。
何だか恥ずかしくなるくらい幸せなんて気付かれても悔しいから言わないけど。
おやすみなさい、またあしたなんて。
そんな風に言える日が来るなんて思ってもみなかったから。
そんな幸せな日々が当たり前みたいにかえってくるなんて思ってもみなかったから。
あなたと出会えるなんて想像もしていなかったから。
だから。
この幸せにもう少し慣れるまで。
もう少しの間だけ、熱すぎる夜よりも優しい眠りをくれませんか。
柔らかく抱き留める腕に身を寄せて、イルカも心地よい眠りの中に意識を手放したのだった。
fin
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